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かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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『アメリカ国防総省・ペンタゴン』 十月五日 正午過ぎ


 ペンタゴン最高司令官、ジョン・D・ケリーは次の休暇の予定を側近と話し合っていた。いま彼が腰掛けているマホガニー社製のデスクには、山のように書類が積み上がっていた。無理やりどかして座ったのか、白頭鷲がデザインされた絨毯の上に書類の一部が散らばっている。
(昼のこの時間だけは仕事のことを忘れて、家族との休暇の予定を考えたい)と彼は思っていた。
「クリスマス休暇は、カリフォルニアなんてどうかね」
「はっ! 家内も、『娘のサマンサの卒業祝いを兼ねて、よろしければ長官のご家族とぜひご一緒したい』と」
 ぴったりした黒いスーツを着こなした部下のテッドは、かしこまって答えた。
「そうか、サマンサも卒業か。いつもうちの娘と仲良くしてもらってありがたいよ。あのくらいの年ごろの娘はいつ父親に反発するかわからんからな。まるで……そう、時限爆弾を抱えているようだ」 笑いながら肩をすくめる。
 その時、和やかな雰囲気を台無しにするように、デスクの電話がけたたましく鳴った。
「内緒だぞ」と側近に向かって唇を抑えた後、禁煙の室内で葉巻に火を点けながら電話をとる。
「私だが、どうした?」
 煙に目を細めながら、ゆっくりとした口調で話し出す。
「はっ。CIAからの確かな情報によりますと、北朝鮮が年末に向けて大規模な軍事行動をとる模様です。警戒レベルの見直しをした方がよろしいかと」
「ふむ。またいつもの軍事威嚇行動だろう。だが上空警戒を密にして、情報の出所を一応洗い直せ。それと――私には君の左腕に高級な腕時計が見えるぞ。内容にもよるが、それを良く見てから電話するように」
 聞きなれた内容のはずだった。だが、電話を切ったあと彼はいつもと違う嫌な予感がしたのか、少しだけ眉根を寄せていた。そして、それを払拭するかのように首を横に振り、葉巻の煙をくゆらせながらテッドにつぶやいた。
「軍人時代の癖で、なんでも悪い方に考えてしまうよ」
 苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。

 だがテッドは知っていた。この人の予感は必ず悪いほうが当たることを。そしてその予感があったからこそ、長官まで上り詰めたということを。