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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 7

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「気軽にアンジェと呼んでくれて良いぞ。リュリュ様を守る同志ならなおさらだ。格式張った儀礼よりも、効率を重視しないといざというときに一手出遅れる可能性があるからな。」
 アンジェリカはそう言って微笑むとシャノンに握手を求めて手を差し出す。
「わかりました、アンジェ。よろしくお願いします。」
 シャノンもそう言ってアンジェの手を握り返した。
「では、私は行くよ。」
「あ、うん。頑張ってね。」
 ソフィアはそう言って手を振りながらアンジェリカを見送った。
「・・・シャノンの正体を知ったアンジェちゃんがどんな反応をするか見られないのがちょっと残念だなあ。」
 ポツリと呟いたソフィアの言葉を受けてシャノンがクスクスと笑う。
「ソフィアは、腹黒というやつなのですね。」
「酷いなあ。面白いものを見るのが好きなだけだよ。普段動じないアンジェちゃんが驚く顔はきっと面白いと思うし。」
「やはり、腹黒なのではないですか。」
 その後も顔合わせは続き、大方の主要な人間への挨拶を済ませた二人は、最後にクロエの部屋の前にやってきていた。
 ソフィアが軽くノックをして声をかけるとすぐにクロエの声が返ってきて、二人は部屋の中へと入る。
「・・・どうしたのこれ。」
 クロエの部屋の中に散乱する服の数々を見て、ソフィアが顔をひきつらせる。
「あ・・・いや。ほら。アレクシス様とのこともあるし、これから色々物入りになると思って。」
「ああ、今日全然見かけないと思ったら、街に買い物に行っていたんだ。でもよくこんなにいっぱい買えたね。」
「・・・今まであまり使わなかったおかげで、お金なら沢山あるから。」
「クロエちゃんって趣味とかなさそうだもんね・・・。」
「そういうことハッキリ言わないでよ!・・・それで、どういう用件?ソフィアの隣に立っている人と関係あること?」
「うん。こちらシャノン。リュリュちゃんの新しい護衛だよ。」
「そう。私はクロエ・シュバルツ。アレクシス様麾下の第一偵察隊の隊長をしているわ。」
 ちなみに第一偵察隊はクロエを隊長とした純粋な偵察を行う部隊、第二偵察隊はメイを頭にした潜入を得意とする部隊。第三偵察隊はレオを頭に、純粋な偵察、潜入の他に威力偵察も行う部隊である。
「シャノン・L・クロースです。よろしくお願いします。」
 シャノンはそう言ってアンジェリカに倣って握手をする為に手を差し出すが、クロエはその手を取るのをためらった。
「・・・あの。気を悪くしたらごめんなさい。あなたは一体何者?リュリュ様の護衛ということは、ジゼルやアレクシス様にも会っているだろうから見逃されていることはないと思うけど、人間じゃないわよね?」
「さすがアレクシス四天王は鋭い。仰るとおり私は人間ではありません。リッチです。」
「ああ、それでケット・シーともエルフとも違う感じを受けたのか。」
「・・・驚かないの?」
 クロエのドライな反応にソフィアが少しがっかりしたような表情で尋ねる。
「これでも少しは驚いているんだけど。でもね、この十年くらいで色々ありすぎてちょっとやそっとのことじゃ驚かない自信があるわ。」
「なるほど。確かに貴女の生い立ちやコレまでの経緯を考えれば私一人の存在くらいでは驚きもしないというのは頷けるところです。」
「まあ、ジゼルとアレクシス様が問題ないと判断したのだったら、私から何か言うようなことはないからね。よろしく、シャノン。」
 そう言ってクロエはシャノンの手を取った。
「・・・不思議なものですね。あなたとエリザベスは血が繋がっていないというのに、似た感じを受ける。」
「養母さんを知っているの?」
「ええ。リシエールからこちらに来るための手はずを整えてくださったのはエリザベスなのですよ。本当は御前試合の時にそのまま残るはずだったのですが、身体が用意出来ていなかったために、一度リシエールに戻らなくてはいけなくて。再びこちらへ来るのにはだいぶ苦労しました。」
「養母さんは元気?」
「ええ。すこぶる元気ですよ。アレクシス軍がリシエールを攻略する際には呼応して内部から撹乱する手はずになっています。」
「そう、元気なんだ。よかった・・・。」
 そう言ってクロエは心底ほっとしたような笑顔を浮かべた。そして笑顔のまま、ポロポロと涙を流して泣き始める。
「それに、養母さんはおかしくなってないんだ。・・・本当によかった。」
「クロエちゃん・・・。」
「ああ、ダメダメ。泣いてたら養母さんにしかられちゃうわ。ちょっと気が緩んじゃった。」
 そう言ってクロエは服の袖で涙を拭って顔をあげる。
「ねえ、シャノン。もしよかったら、養母さんの話を聞かせて。それに今のリシエールのことも。」
 シャノンは、どうしたらいいのかの判断に困り、ソフィアのほうを向く。
「シャノンが嫌じゃなかったら、そうしてあげて。」
「わかりました。では、私とエリザベスの出会いから――。」