小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

グランボルカ戦記 7

INDEX|10ページ/17ページ|

次のページ前のページ
 

託す想い、託される想い




 戦時中、しかも最前線にほど近い街ではあるものの、この日、アミサガンの街はいつも以上に浮かれていた。
 国民人気の高いグランボルカ帝国第一皇子であるアレクシスと、この街にも出身者の多いリシエール王国の第一王女であるエーデルガルドとの婚礼。
 街はまさに今日行われるこの一大イベントの話題で持ち切りだった。
「不景気な面してるなあ皇子。元気だせよ。自分の結婚式なんだからさ。」
 ニヤニヤと笑いながら新郎の控室でレオがアレクシスの肩をバンバンと叩いた。
「いや・・・本当にこれで良かったんだろうか。エドとクロエ。どちらを選ぶわけでもなく、両方と結婚するなんて。」
「まあ、エドが正室、クロちゃんが側室っていう違いがあるし、いいんじゃないか?これが一番平和に話が落ち着くだろ。クロちゃんの婚礼もあとでちゃんとするんだし。」
「そうだけど・・・グダグダ過ぎて、アリスに叱られる気がする。」
「お前なあ、実質的にこの国の王になろうって奴が言う台詞じゃないぞそれ。確かにアリスさんの恐ろしさは俺も知っているけどさ。お前はこの先、例えアリスさんが相手でも二人を守っていかなきゃならないんだから、あんまり情けないこと言うなよ。」
「・・・ああ、そうだな。確かにレオの言うとおりだ。さすが先輩の言うことは重みが違う。」
「まあな。ところでアレク。お前、エドとクロちゃんになんて言ってプロポーズしたんだ?」
「・・・・・・え?」
「いや、え?じゃなくて。プロポーズの言葉は?」
「・・・・・・・・・その。」
「ん?」
「たった今レオに言われるまで、気が付かなかった。」
「・・・・・・お前、まさか。」
「いや、ジゼルがどんどん話をすすめて、流されるままになっていたらいつの間にか今日になっていたっていうか。その・・・・えっと・・・。」
「おいおいおい、さすがにそれはどうなんだ?俺だってさすがにソフィアと結婚するときには恥ずかしいのを我慢して歯の浮くような台詞を言ったぞ。」
「いや、言いたくないわけじゃなかったんだけど、言っていないことを忘れていたというか。ああ・・・どうしよう。エドもクロエも怒っているんじゃないだろうか。」
 今日の準備やスケジュール調整のための前倒しの執務などが重なり、アレクシスはエドとクロエの二人とは一週間ほど話をしていない。もしかしたら待っていてくれたんじゃないだろうか。それなのに、一切プロポーズもせずにここまできてしまった。そんなことを考えてアレクシスの頭はパニックになった。
「ど・・・どうしようレオ!どうしたらいい?」
「どうしたらって・・・今からでも言ったほうがいいんじゃないか?別に考えていなかったわけじゃないだろ?」
「ああ、もちろんだ。『どんな戦いが待っていても、僕は必ず平和な世界を作ってみせる。君がいつでも笑っていられる世界を作ってみせる。だから僕と共に歩いて欲しい。』」
 アレクシスはレオの手を取って真剣な表情でそう言った。
「いや、俺に言ってどうするんだよ。エドとクロちゃんに――。」
 と、その時。入り口のほうでガシャンと食器の割れる音がした。
 嫌な予感を覚えながらレオとアレクシスが入り口の方を見ると、キャシーが顔を真赤にして震えていた。もちろん怒っているわけではない。照れているわけでもない。
「ふ・・・ふふふうふふふ。いい。うん、すごくいい!そうよね、二人は幼なじみなのだもの、そういうこともあるわ、エドやクロエだけじゃなくてレオも手に入れたい。その意気や良し!一国の王になるんですもの、男女別け隔てなく愛せて当然ですよね!」
 今までに見たことのないような嬉しそうな表情で、キャシーが一気にそう言った。
「当然じゃねえよ!偶然と誤解の産物だよ!」
「そんなに焦って否定されなくても、私はちゃんとわかってるから。」
「そうか、さすがに冗談だよな。」
 キャシーの言葉を聞いてアレクシスがほっと胸をなで下ろしたのもつかの間。キャシーがとんでもないことを口走った。
「もしよろしければ、お二人がなさるのを部屋の隅で見学していてもよろしいでしょうか。」
「よろしくねえし!なにもわかってねえし!俺とアレクは何もしねえよ!」
 キャシーの言葉に間髪をいれずレオがツッコミを入れる。
「またまた。密室に男が二人居て、何もないわけ無いじゃない。」
「無いわけあるよ!僕とレオはそういう関係じゃない!」
 ここへ来て、キャシーが冗談で言っているのではなさそうであることに気がついたアレクシスがレオに加勢する。
「私の事はそのへんの石ころだとでも思っていただければいいですから。」
「石ころしか無くても何もしねえって。それよりキャシー。お前、エドの居場所に心当たりないか?」
「え?エドなら新婦の控室じゃない?さっきまでクロエと一緒にいたわよ。・・・それはそれとして、レオ。」
「なんだよ。」
「これは医学的見地からのお願いなんだけど。」
 先ほどまでの緩みきった表情から一変して、キャシーが真剣な表情でレオに向き合う。
「その・・・男同士の性交の時にだけ現れるっていうやおい穴を見せて欲しいの。これは、私の個人的な興味っていうのもあるんだけど、それだけじゃなくて、真面目な話、見たこと無いし、見ておけば何か医療技術に応用も効くだろうし。」
「・・・なんだそれ。」
「恥ずかしがらなくてもいいのよ。受けに回った時に気持ちが高ぶると開くんでしょう?」
「・・・ねえよ。」
「え?」
「男にはそんなのねえよ!どこからの情報だよ!」
「古い書物に書いてあったし、それに大隊長だって否定しなかったもん!」
「・・・なあ、もしかしてその時のカーラさん、苦笑いしてなかったか?」
「ちょっとはしたない質問だったから、確かにちょっと困ったような顔をしていたけど。」
「多分、質の悪い冗談だと思われただけだぞ。あの人あんまり頭ごなしに叱ったりしないから否定しなかったように見えたのかもしれないけど、それは本気で取り合わなかっただけだ。」
「うそ・・・。」
 レオの言葉を聞いて、キャシーが膝から崩れ落ちる。
「そんな・・・じゃあ、私は・・・私は・・・大隊長に・・・うわぁぁぁ・・・。」
 両膝と両手を床につけてドーンと落ち込むキャシーを見て、レオがポンポンと軽く頭を撫でる。
「アレク、キャシーの事は俺が引き受けるからエドとクロちゃんの所に行ってやれ。それと・・・間違ってもユリウスあたりに同じことをするんじゃねえぞ。ソフィアとかジゼルに見られでもしたらそれもまた面倒なことになるからな。」
「え・・・ソフィアも?」
「ああ。ソフィアもだ。なんだったら、アンジェリカさんも危ない。わかったらさっさと行け。式まであと4時間くらいしかないからな。」
「わかった。ありがとうレオ。」
 アレクシスはレオに礼を言うと、新郎の控え室を飛び出した。

 婚礼用の化粧をし、あとはドレスを着るだけとなったエドは、城の中庭に面したテラスで見るとも無く中庭を眺めていた。
「あらあら、新婦がこんな所で何をしてるのかしら。」
 そう言って後ろから声をかけてきたのは、一部の人間に対して以外は、概ね不評を買っている女装姿を解いて正装をしたアンドラーシュだった。
「アン。戻ってたんだ。」