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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 7

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「え?シャノンって女の人じゃないの?」
 アレクシスの言葉尻を拾ってエドが話題を無意識にあさっての方向に向ける。
「言われてみれば・・・どっちなの?どっちにも見えるんだけど。」
「どっちでもありませんよ。この身体も、とある錬金術士の方に作っていただいた空の身体ですからどちらということもありませんし。ああ、でも錬金術士の趣味で付けられるものは全部付いていますので、どちらでも。」
「・・・にわかには信じがたいわね。キャシー、調べてもらってもいい?」
「はい。」
 キャシーは返事をすると、おもむろにシャノンの股ぐらに手を突っ込み、驚いた表情を浮かべると、胸や腹をペタペタと触ってから頷いた。
「嘘は言っていないわ。言うとおり両方付いている。」
「そう・・・まあ医療班のキャシーが言うなら間違いないんでしょうね。問題は、どちらとして扱うべきかよね。女性兵士として扱って女性兵士部屋に入れて兵士を次々妊娠でもさせられたらかなわないし。かと言って男性部屋で問題が起こるのもねえ・・・。」
 連合軍では、行軍中、駐屯中の妊娠リスクを考えて陣を張る時に男性の陣と女性の陣を別けることにしている。それですべてを防げるわけではないが、やらないよりはまし。という程度の効果は上げている。
「私はどちらでも構いませんよ。人であれば男女どちらに対しても興味がありますし。」
「そういう事はストレートに言わないほうがいいわね。・・・リッチの生態がよくわからないんだけど、休息はどの程度必要なの?」
「人よりは少なくて済みますが、さすがに年中無休ですべての時間を対応出来るというわけではありません。ただ、影の中で休めますので、リュリュ様の影の中を私の部屋として使わせていただければ、他に部屋は必要ありません。」
 そう言ってシャノンはリュリュに伺いを立てるような視線を向ける。
「許す。ただし散らかすなよ。」
 リュリュはあっさりそう言うと、呵々として笑った。
「ありがたき幸せ。」
「いや、だから!リュリュのそばにこんな奴を置いておけないって言っているじゃないか。」
 そう熱弁を振るうアレクシスに対してジゼルは白い目を向ける。
「ならどうするの?またリュリュをアストゥラビに下げるって言って行方不明にする?」
「う・・・。」
「・・・当然二人きりにさせないようにはするわよ。でもさっきも言ったようにリュリュが居るのといないのでは士気に雲泥の差があるの。それに最近は医療技術も向上してきているから、リュリュが居れば本陣に配置する医療班も減らせる。そうすれば前線に回せる人間も増えて死者も減らせるかもしれない。」
「では姉様。」
「連れてくわよ。ただ、この先は本当に命がけになることも増えると思うしそこは覚悟しなさいよ。」
「はい!わかりましたのじゃ。」
 リュリュはそう言って元気に返事をして立ち上がると、ユリウスに駆け寄った。
「ふふん。陰険なユリウスの野望は潰えたぞ。正義は勝つのだ。ざまを見るがいい。」
「陰険な野望って・・・。」
「・・・じゃから反省をせい。リュリュを置いていくとかそういうことは、二度と言うでない。そんなことをしようとしてもリュリュは皆についてゆく。リュリュを置いていこうなんていう考えは時間の無駄じゃ。」
「そうだな。悪かったよ。もう君を置いていこうとなんてしない。」
「それでよい。・・・心配してくれるなら貴様がリュリュを守れ。リュリュも貴様を守る。」
「いや、さすがにリュリュに守られるほど、僕は弱くないよ。」
「ぐぬぬ・・・。阿呆め!そこは『君は僕が守る』じゃろうが!」
 ユリウスの空気を読まない返事にリュリュが顔を真っ赤にして怒り出す。
「貴様は本当に阿呆じゃのう!アリスもよくこんな無神経な唐変木を選んだものじゃ!」
「一体、何を怒っているんだ?」
「うるさい!リュリュはもう部屋に戻る!」
 そう言ってユリウスの足を思い切り踏みつけると、リュリュは肩を怒らせながら部屋を出て行った。そんなリュリュを見て、シャノンが追いかけるべきかジゼルに視線で問いかけるが、ジゼルは横に首を振った。
「いいわ、城の中は警備が行き届いているし、さすがにこの時間から城の外にでるほどリュリュはバカじゃないから。」
 そう言って一つため息をつくと、ジゼルはソフィアのほうに向き直った。
「ソフィア、悪いんだけどシャノンを連れてこの城の案内と、主要な人間への紹介をお願いできるかしら。」
「わたし一人で?」
「うん。一人でシャノンの相手をするのが不安なら、オリガを使ってもいいわ。」
「いや、それは大丈夫なんだけど。・・・レオくんは?」
「レオとキャシーはこれから始める評定に参加してもらうわ。他の人間が信用ならないっていうわけじゃないけど、それなりの立場にあって信用できる人間だけに事情を説明しておきたいの。血筋から言えばモロー家の名代はソフィアだし、真実を知った以上はソフィアにでてほしいんだけど、レオ一人でシャノンにつけるのはちょっと不安が残るからね。悪いけどソフィアは後でレオから内容を聞いて頂戴。」
「わかった。レオ君。私とアンドラーシュ様の代理、しっかりね。」
「お、おう。何だか今日は女性陣がアクティブだな・・・」
「まあ、昨日の夜に色々あったんだよ。協定とか。お陰でお互いに遠慮がなくなったし、動きやすくなったんだ。」
 ジゼルとソフィアの阿吽の呼吸のようなものに気圧されて、レオが漏らした言葉を拾ってエドがそうフォローを入れた。
「また、協定か。何なんだ?その協定って。」
「踏み込んでいいところ、ダメな所。やって良いこと悪いことの線引かなあ。ハッキリ言うと色々まずいから、なんとなくそんなことがあったって思っておいてよ。」
「まあ、動きやすくなるのはいいことだよな。・・・お陰で影が薄くなっている皇子が一人いるけど。」
「僕は別に影が薄くなってなんていないぞ。」
 レオの視線に気づいたアレクシスがそう反論するが、レオは首を振る。
「いや、完全にジゼルに喰われてるだろ。」
「喰われてない!」
「いや、喰われてるって。」
「うるさい!くだらないこと言ってないで席につきなさい!」
ジゼルに怒鳴られてしぶしぶ席に向かうアレクシスとレオを見て、エドは(完全に喰われてるなあ・・・)と心の中で呟いた。



「ソフィアではないか。」
 後ろから声をかけられて振り返ると、アンジェリカがソフィアに手を振りながら歩いてきた。
「今日はレオは一緒ではないのか?」
「うん、アンジェちゃんはデールさんと一緒じゃないの?」
「ああ、私だけジゼル様に呼ばれてな。・・・そちらは?」
 アンジェリカがソフィアの隣にいるシャノンを見ながら尋ねる。
「リュリュちゃんの新しい護衛の人だよ。多分この後ジゼルちゃんから説明があると思うから、詳しくはそっちで聞いて。」
「うむ。わかった。私はアンジェリカ・フィオリッロだ。リュリュ様麾下の兵の指揮を執っている。よろしく頼む。」
「これはご丁寧に。私はシャノン・L・クロース。シャノンとお呼びください、フィオリッロ様。」