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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 7

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「僕もそう思います。クロースと言う姓の人間はリシエールの筆記官にもいない名前です。この・・・」
 男と言うべきか、女と言うべきか悩んで言葉を濁らせたユリウスにかぶせるようにしてシャノンが口を開く。
「私は“今”のリシエールの一等書記官補でありますれば。エーデルガルド王女、ユリウス王子がご存じないのも仕方なきことかと。」
“今”のリシエールと聞いて、その場にいた人間に緊張が走る。
「バルタザールの手の者か。」
 そう言ってアレクシスは剣を抜き放ってエドを後ろにかばうように立ち、ソフィアもリュリュを抱えてシャノンから距離をとっている。さらにレオとキャシーも武器を構えシャノンの一挙手一投足に目を光らせる。しかし、シャノンはそんな剣呑な空気など全く気にしない様子で笑いながら口を開いた。
「いいえ、我が主はあのようなもじゃもじゃ頭の男ではございません。強いて言えば、ハデスともエンマともいうべき存在。」
「ハデス?エンマ?知らないわ。それは何?」
 庇ってくれているレオの背中から顔を出してジゼルが尋ねる。
「さて、信じていただけるように話をするのは非常に難しい。これを正直に申し上げてしまうと私の信用度はおそらくガタ落ちです。」
「いいわよ。どうせ信用してないからできるだけわかりやすく話しなさい。」
「・・・そうですね。有り体に言ってしまえば私は冥界の王の従者でございます。」
「なるほど。・・・LはリッチのLね。」
 そう呟いたジゼルの言葉を拾い上げ、シャノンは拍手をしながらジゼルを褒め称える。
「さすがジゼル・テス・グランボルカ様は、妹君同様ご理解がお早い。」
「気に入らないわね。その『私はなんでも知っています』っていう感じ。」
「知っていることを知らないと隠すよりも信用していただけるかと思いましたが、そうでもないのでしょうか。まだ人の感情を理解しているとは言いがたいものですから。失礼があったのであれば平にご容赦を。」
「知識や情報をひけらかすような物言いは、どんな場面でも嫌われるわ。覚えておきなさい。情報源はランドール将軍とエリザベス将軍かしら。」
「・・・ランドール将軍はご存知ではありませんよ。エリザベス将軍です。」
「ふむ。まあ、確かにエリザベスなら私のことを知っていてもおかしくはないわね。カーラとも旧知なのだし。それで、冥界の王の従者殿がいったい何の用?もじゃもじゃの手先じゃないと言うのなら、あたし達を攻める気はないのだろうとは思うけど。」
 自分と血の繋がった父親をもじゃもじゃと評することにまったくためらいを見せずにジゼルが尋ねる。
「ご名答。私は、王の命令でバルタザール帝を止めに参りました。門が開いて亡者がこちらに出てしまうようなことになるのは、冥界の王やその下の我々官吏にとって非常に面倒・・・大変不名誉なことなのです。」
「で、面倒ごとはごめんだから、手を貸してやるから扉をしめろ。と。」
「平たく言えばそういうことですな。冥界も最近は一枚岩ではなく、地上に出たがるリッチや反抗勢力として力を蓄えつつある亡者など様々でして。王や他の官吏はそちらを抑えるので精一杯。そこで私が地上で、扉を閉めようとしている勢力に協力をさせていただくためにやってきたと。そういうわけでございます。」
「・・・みんなはどう見る?」
「僕は信用できないと思う。」
 アレクシスはそう一言で斬って捨てたが、その意見にリュリュが真っ向から異を唱える。
「リュリュはシャノンを信じる。誰も話を聞いてくれなかった時に話を聞いてくれたし、そもそもこちらに害意があるのならばリュリュをさらって人質にすればもっと話はスムーズじゃ。しかしシャノンはそれをせなんだ。」
「んー・・・わたしは、ちょっとわからないからパスで。」
 そう言ってソフィアはディスカッションを辞退した。
「私は、意見をいう立場にはないと思うので、私も降ります。」
 キャシーもそう言って辞退を表明する。
「私は信じてもいいかなと思う。リュリュの人を見る目は確かだと思うし。」
「人ではないですけどね。・・・僕はアレクの意見を支持します。」
 エドとユリウスもそれぞれの意見を述べる。
「2対2ね。私が決めてもいいけど・・・レオは?」
「俺もソフィアとキャシーと同じだ。俺が意見するような場面じゃないだろ。俺達は将じゃない。」
「じゃあ、戦場で判断をしなきゃいけなくなった時に、将じゃないって言って逃げるわけ?死ぬわよ。」
「そうは言ってないだろ。ただ・・・」
「モロー侯爵の娘婿として、どう思う?」
「は?」
「そういう目も持っていてもらわないと困るのよ。どんなに嫌がってもこの戦いが終わったらお父様はレオとソフィアにモローの家督を譲る。今は、その時の練習みたいなもの。侯爵家の名代くらいこなせるようになっておいてもらいたいわ。それに将という意味では資格は十分でしょ。あなたのお父様は皇帝派の急先鋒よ。」
「・・・俺はこいつを信用しても大丈夫だと思うぜ。城への侵入が目的なら、それこそさっき姫さんが言ったように人質として使うなり、城へ入るなり殺せばよかっただけだ。それをわざわざ市場に付き合って、護衛までしてくれていたんだ。信用してもいいと思う。」
 レオのその言葉を聞いて、ジゼルが深く頷いた。
「一票差や同票だったらもう少し話し合いが必要だろうけど、二票差ならいいか。私もリュリュに賛成。シャノンの話、受け入れることにするわ。」
「おお、ありがたき幸せ。」
「ジゼル!」
「アレクの心配もわからないではないけど、勝手にウロチョロされるよりもコッチで管理したほうがいいでしょう。信用できない感じはあたしも受けるけど、リュリュの言ったとおり、リュリュに手をだすつもりだったら、問答無用でやってただろうしね。それに、シャノンの魔法はかなり使えるわよ。メイと二人で偵察に行ってもらえればかなりの成果が得られるんじゃないかしら」
「魔法というのは?」
「シャノンは影から影に移動することができるの。さらに魂の入っていない身体や意識を失っている身体なら身体の内側に入り込んで動かすことができる。便利でしょう?」
「確かにそれは便利だねえ。」
 ジゼルの説明を聞いたエドがそう言って頷く。
「強い奴につきっきりでリュリュの護衛についてもらえれば、あたし達も安心して前を向けるからね。それならリュリュをアストゥラビに下げる必要もなくなるから一石二鳥ってわけよ。」
「ちょっと待ってくれジゼル。この怪しい奴をリュリュに付けるのか?」
「非常時だし、この際使えるものはなんでも使いましょ。ねえ、シャノン。それで問題ないわよね。」
「ええもちろん。命に変えても・・・まあ命などあってないようなものですが。」
「でも・・・」
「しつこいわね。リュリュの兵はアンジェリカとデールが指揮できるとは言っても、旗印のリュリュがいるのといないのとでは士気に大きく関わってくるわ。だからリュリュを留めて置けるなら留めておきたいのよ。」
 ジゼルの言ったことはアレクシスにもよくわかっている。しかしわかっていることと納得できる事はまた違うものだ。
「それはそうだが、こんな怪しい男をリュリュにつけるというのは・・・。」