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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 7

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「あの面子をまとめるなんて、キャシー以外にはアリスさんくらいしかできないと思うぜ。少なくとも俺にはできん。」
「アリスと同列に並べられるのは嬉しいけど、ちょっとプレッシャーも感じちゃうわね。」
「まあ、家柄で言えばキャシーのほうがアリスさんとクロちゃんよりも上だから、そういう役目が回ってくるのもしょうがないんじゃないか?」
「・・・知ってたの?」
「リシエール時代に、傍流だったヘクトールのおっさんを養子にして親衛隊に預けることができるような家だって言うだけでなんとなく。アストゥラビで色々調べ物をして確信。って感じかな。というか、リシエールでは10本の指に入るような名家なのな。」
「ま、肝心の国がないから今やただの村長さんの家だけどね。屋敷も捨ててルーナ村に落ち延びたんだし。一応ここにいるのも、おじいちゃんの名代っていうことにはなってるけど、年寄り達は小娘の話なんて聞いてくれないからストレスがたまるのよ。まあ、もともとそういう条件でエドとヘクトールについていくことを認めさせたからしかたないんだけど。」
 そう言ってキャシーは眉をしかめながら自分の肩をトントンと叩いた。
「キャシーはそういう相手いないのか?」
「残念ながらね。というかなに?私も誑し込むつもり?でも残念。私はどちらかと言えばレオよりもアレクシス様がいい。」
「私もって・・・俺は別にソフィアのことを誑し込んだりしてないぞ。」
 レオは不本意なキャシーの言葉に真っ向から反論するが、キャシーはニヤニヤと意味ありげな笑いを口元に浮かべながら首を振った。
「違う、違う。ソフィアじゃないって。まあ、もう一人、レオに思いを寄せている女の子が居るっていうわけよ。もちろん私じゃなくてね。」
「え、ちょっとやめてくれよ。ソフィアに殺されるぞ。その子じゃなくて、俺が。」
「・・・まあ、その話を聞いたソフィアが血相を変えて部屋を飛び出しちゃって、相手と話がつくまで戻ってこなかったのは、今となってはいい思い出よね。とりあえずソフィアは納得したから、その子やレオに危害が加わるようなことはないわ。」
 昨晩のことであるのに、かなり昔のことを想うような顔をしてそう振り返るキャシーの表情は、昨晩の暴露大会だの、協定だのの議事進行がどれだけ大変だったかというのを物語っている。
「おつかれさん。」
 レオはそう言って横を歩いているキャシーの頭を抱き寄せるようにしてポンポンと軽くなでた。
「ちょ、な・・・本当に!本当にレオってもう!なんでそういうことするの!アレクシス様かあんたは!」
 顔を真っ赤にしてレオの腕から逃れたキャシーが両手の拳を上げたり下げたりしながら抗議をするが、怒っているというよりは前衛的なダンスにしか見えない。
「なんだよ、仲間を労うくらい普通だろ。・・・つか、なにげにアレクに対して失礼なことを言ってるよな。」
「そういうのは労うって言わないの!そういうのは自分の恋人や奥さんだけにしてよね!」
「悪かったよ。そんなに怒り狂うことないだろ。」
「おお、お師匠にレオ。どうしたのじゃこんな所に二人で。もしや逢引か?レオもなかなかやるのう。しかしお師匠はダメじゃぞ。お師匠はリュリュのお師匠だからのう。あと10年はお師匠してもらうぞ。」
「それじゃ私完全に行き遅れじゃない・・・。」
 そう言って額に手を当てて俯くキャシーに駆け寄るリュリュの手には、市場の屋台で買ったのであろう飴や果物の串が何本か握られていた。
「癇癪おこして城飛び出しておいて、市場で買食いしてご機嫌とは、まったく本当にお姫様でお子様だな。リュリュ・テス・グランボルカ姫は。」
 そう言ってレオはリュリュの後ろ襟を掴んで持ち上げた。
「リュリュは別に癇癪を起こして城を飛び出したわけではないわ!その証拠にきちんと財布を持ってきておるからな。ユリウスの前から逃げたのは戦略的撤退じゃ。」
「・・・可愛くねえ。」
「ふん。レオのような誑しに可愛いと思われてはリュリュの貞操の危機じゃからのう。」
「だからなんで俺が誑しなんだよ。」
「リュリュの口からは言えないのじゃ。協定があるからのう。」
「ああそうかい。じゃあ、別に逃げまわる気はないんだな?」
「アストゥラビに送られない為の良策が見つかるまでは逃げまわるつもりじゃったが、その必要もなくなった。おい、おいシャノン。出てまいれ。」
 リュリュがそう言って手を二回叩くと、リュリュの影の中から、一人の中性的な人間が現れた。
 眉はやや太めで凛々しく、顔は整っている。髪は男にしては長く、女々しいと言うほど長くもなく、無駄な肉が付いているようには見えない身体はそれでいてどこか女性らしい丸みも帯びている。
「ここに。」
影から完全にでると、シャノンはリュリュの足元にひざまずき、短くそう言って頭を垂れた。
「・・・誰?」
「じゃからシャノンじゃ。詳しい話はまた後じゃ。とにかく城へ戻るぞ。これから重要な話し合いをしなければならぬからな。」
 そう言って不敵に笑うと、リュリュはレオの手から逃れて城に向かって歩き出し、シャノンもその後に続く。
 その様子を見たレオとキャシーは一度顔を見合わせて首をかしげた後で二人に続いて歩き出した。



 リュリュ発見の報はすぐに街を駆け巡り、アレクシスやエド、それにユリウスの耳にも入った。
三人は、報告を受けてすぐに捜索をやめて館に向かったが、城壁周辺を探していたために捜索にでていた主要メンバーの中では一番最後の帰着になってしまった。
リュリュが待っているという部屋に三人が入ると、ジゼルが不機嫌な気分と表情を微塵も隠すこと無く座っていて、その前にはリュリュと件のシャノンが床に座らされていた。
リュリュとシャノンの間は少し開いており、その真中にはソフィアが実戦用のハルバートを持って立っていた。反対側にはキャシーが立っており、こちらも何故か完全装備の状態。さらにレオはシャノンの目の前に立ってナイフに手をやっている。
「あら、ようやく来たのね。三人とも帯刀しているのは都合がいいわね。油断せずにこっちにきて。」
「それはいいけど・・・一体何事?それにその人は?」
「アレクシス様とエーデルガルド様に自己紹介してもよろしいでしょうか?」
 シャノンは武器を持った人間に囲まれているとは思えないくらい軽い声でジゼルに許しを請う。
「許すわ。」
「私、リシエール一等書記官補のシャノン・L・クロースと申します。以後、お見知り置きを。」
 そう言ってシャノンが恭しく頭を下げると、ジゼルがエドとユリウスに向かって尋ねる。
「だ、そうなんだけど、キャシーはそんな名は知らないと言っているし、怪しいからとりあえず囲んでいるっていう訳。あたしはリシエールにパイプがないから、お偉いさんに聞くこともできないし、キャシー経由も『そんなことも知らないのか』と叱られるそうだから却下。ちなみにエドは知ってる?」
「多分キャシーも言ったと思うけど、そもそもリシエールには書記官っていう役職はないよ。筆記官ならいるけどね。細かい話だけど、そういうところを間違えるっていうことは、リシエールの関係者じゃないと思うなあ。」