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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 7

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「そりゃあ怒りますよ。」
「結果的に、アリスとエリザベス・・・アリスたちの養母と、父上や母上、レオの父親のランドールおじさんにまで叱られてね。あれは今思い出しても辛かったなあ。」
 辛い。などと口にしてはいるが、アレクシスのその表情は遠い日を懐かしんでいる顔だった。
「それ、どう考えても辛いのはクロエさんですよ。」
「まあ、そうなんだけどね。ユリウス王子は、キャシーに何で怒られたんだい?」
「呼び捨てでいいですよ。そのかわり、僕もその・・・アレクって呼んでもいいですか?」
「それもいいけど・・・。」
「何ですか?言いたいことがあるなら言ってください。嫌なら今まで通りでも僕は全然・・・」
「お義兄さんって、呼んでくれないかな。」
 そう言って最高の笑顔で笑うアレクシスを見てユリウスは若干の頭痛を覚えた。
「アレクは結構姉さんと性格が似ていますよね。それに、アリスとも。」
「ええっ!・・・いや、心外だとは言わないけど、そうかなあ。」
「似ていますよ。わざと悪ふざけする所がそっくりです。」
「え・・・いや、悪ふざけをしているつもりはないんだけど。・・・まあ、でもユリウスが好きな二人に似ているというのなら、僕らはきっと仲良くできるよね。」
 笑顔で言うアレクシスの台詞を聞いたユリウスが若干表情をひきつらせた。
「・・・それが、いったいどこまで仲良くということを言っているのかが、いささか不安なんですが。キャシーの書く物語のようなことではないですよね?」
「キャシーは物語を書くのかい?」
「ええ。結構えげつない、ドギツい話を書きます。」
「意外だな。彼女にそんな一面があったとは。戦争や人殺しが好きなようにはみえなかったんだが。」
「ああ。違いますよ。そういう意味のドギツいじゃないです。」
 アレクシスの言葉にユリウスが首を振る。
「キャシーが書くのは、男性と男性の、友情を超えた愛の話ですから。」
「・・・・・・男同士?」
「はい。」
「・・・差しつ・・・差されつ?」
「ええ。挿しつ挿されつ。」
「いやいやいや・・・それはない。万が一ユリウスと僕がそうなってしまったら、エドにもアリスにも、クロエにも何を言われるかわかったものじゃないからな。なぜかジゼルは喜びそうな気がしないでもないが。」
「アレクにその気がなくてよかったです。・・・ただ、アレクの言ったとおり、面白いもの好きのジゼルさんは言うに及ばず、キャシーと一緒に育った姉さんにも若干キャシーと同じ趣味が。」
「・・・。」
 ユリウスの言葉を聞いて、今度はアレクシスの顔が引きつる。そんなアレクシスの顔を見て、ユリウスは「ははは」と小さく声を上げて笑った。
「なんてね。ふふ・・・冗談ではないですよ。」
「なんだ、冗談か・・・ん?あれ?なあ、ユリウス。今・・・」
「どうやらここを登ると城の外に出られるようですね。」
 ユリウスはそう言って行き止まりになっている壁に打ち込まれた鉄製のくさびの強度を確かめる。
「なあ、ユリウス?」
「話の続きはリュリュを見つけてからにしましょう。ゆっくり歩いたつもりはありませんが、それでも少しでも早く見つけたいですから。」
「あ・・・うん。そうだな。」
 アレクシスはなんとも言えない心の消化不良のような状態で、ユリウスに続いて井戸の壁を登り始めた。

「あー面倒くさい。いくら姫さんだって街からでていくような無茶はしないんだから、ユリウスが足を棒にして探せばいいんだよ。なんで俺まで駆りだされるんだ。」
 そう言ってレオは大げさにため息をついて見せた。
「そう言わないの。そのへんの兵士がリュリュのことを見つけたって捕まえられないんだから、遠慮なくリュリュのことを捕まえられる人間が捜索にあたるのは当然でしょう。」
 レオのもらした愚痴にそう返事をしたものの、レオと同じようにため息をつきながらキャシーが肩をすくめた。
 仮にもこの国の皇族であるリュリュを遠慮なく取り押さえられる人材となると、数が限られてしまう。この二人のほかにはアレクシスやエド。それにユリウス、アンドラーシュにアリス、ソフィア、アンジェリカにメイといったところだがアンドラーシュは今朝方自分の領に戻るために街を出たし、ソフィアは朝寝付いてから起きてきていない。さらにはこういう時に一番頼りになるメイもヘクトールのところに伝令にでているし、もちろんアリスが戻ってきているということもないので、少ない人手で広いアミサガンの街を探さなければならないという状況だった。
「それに、こういうのってレオが一番向いているでしょ。時間を止めてリュリュを捕まえればいいんだし。」
「まあ、向いていると言えば向いているけどさ。・・・キャシーはジゼルの話聞いたんだよな。」
「え?ああ・・・うん。」
「そっか。・・・聞いてみてどうだ?」
「うーん・・・まあ、ジゼルもリュリュを身代わりに立てたかったわけじゃないし、十分苦しんでいたんだと思う。だから、特に責める気にはならないかな。ソフィアの事はちょっと驚いたけど、言われてみればソフィアの魔法はアンドラーシュ様とルチアさんのいいとこ取りだし、言われてみれば納得って感じかな。ああ、でもそうか・・・。」
 キャシーはそこで言葉を切って、レオの顔をまじまじと見た。
「次期侯爵閣下なわけだ。」
「あー・・・いや。まあ立場的にはそうだけど、まだアンのおっさんには話してないからな。それに俺もソフィアもそのつもりはなくて、この戦いが終わったら二人でセロトニアに戻るつもりなんだ。」
「二人で、ね。ごちそうさま。」
 『どいつもこいつも、もううんざりだわ』という表情を隠そうともせずにキャシーはそう言って肩をすくめる。
「みんな相手がいていいなあ。」
「いやジゼルは居ないだろ。その・・・グレンが死んでからまだ・・・。」
「もうすぐ半年よ。そろそろ次に進んでもいい頃だと思うし、実際気になる相手もいるみたい。」
「そうか・・・あいつの事だからもっと引きずるかと思っていたんだが。」
 普段は意地を張って芯が強そうに見せていても、親しい者を失った時には脆さを隠せなくなる。そんなジゼルの素を知っているレオは驚きを隠せなかった。
「何も言わずに死なれたわけじゃないからね。ジゼルも整理をつけやすかったのかもしれないわね。」
「・・・っていうか、お前、ジゼルのこと呼び捨てにしていたっけ?」
「昨日からね。色々あったのよ、昨日の夜は。暴露大会とか、協定とか。」
「協定?」
「わかりやすく言えば、アレクシス様はどうせエドとクロエのどちらかを選ぶことはできないから、それについてはもうエドが正室、クロエが側室っていうことで、こちらから提案しちゃおう。とかね。」
「クロちゃんはそれでいいって?」
「まあね。どっちみちエドはクロエを端に置くようなことはしないだろうし、そもそも、そんなことをしたら、昨日その場にいた面子が許さないし。」
「エドとジゼルとソフィアとクロちゃん。それにキャシーと姫さんか。そりゃあアレクも下手なことできないわな。俺達の世代では間違いなく最強の女達だし。」
「私は別に最強なんてことはないわよ。」