小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

グランボルカ戦記 7

INDEX|13ページ/17ページ|

次のページ前のページ
 

 その後も、あちらこちらで素性を知る人間にアレクシスの事を頼みながら、街を歩いていると、エドは一人の中年男性が困ったような様子でキョロキョロとあたりを見回しているのを発見した。
「何かお困りですか?」
 エドがそう声をかけると、男性は一瞬驚いたような表情を浮かべ、すぐにバツの悪そうな、照れ混じりの笑いを浮かべた。
「む・・・ああ。アレクシス皇子とエーデルガルド姫の婚礼式典を見に来たのだが、大通りへの道がわからなくなってしまってな。前に来た時は、ここまで入り組んでいなかったと思うのだが。」
「今、この街は戦争に備えて改築や区画整理であちこち通行止めになっていたりしますから、大通りから外れてしまうとちょっとわかりづらいですよね。わかりました。式典の隊列が見えるところにご案内します。」
「しかし・・・見ず知らずの娘さんにそこまでしてもらうというのも悪い気がするのう。」
「いえいえ。お気になさらずに。どうせ婚礼の時間まではまだありますし、丁度用事も一段落したところですから。」
「そうか。ではお願いしようかな。」
「ええ、是非。」
 そう言ってエドが歩き出し、男性もその後をついて歩き出す。
「今日はどちらから来られたんですか?」
「マタイサからだ。元々はリシエールにいたのだが、少し居づらくなってしまってね。」
「そう・・ですか。」
 リシエールの名前を聞いて、エドの表情が少しだけ苦しそうに歪む。
「リシエールは、居づらいですか。」
「ああ・・・デミヒューマンが増えたからね。」
「私、元々はリシエール出身なんです。だから、いつかリシエールに帰りたいと思っているんです。」
「そうか。リシエール出身なのか。すまない、我々がふがいないばかりにデミヒューマンのいいようにされてしまって。」
「いえ。私たちの世代が取り返して、住みやすく、いい街にしていけばいいだけですから。」
「そうか。それは頼もしい話だな。」
 男性はそう言って少し辛そうな笑顔を浮かべた。
「・・・君は、恋人はいるのか?」
「いますよ。もうすぐ結婚だってしちゃいます。なので、残念ながら口説こうとしてもダメです。」
 ふふん。と得意気に鼻で笑いながらエドが顔の前で指をふる。
「はっはっは、道案内をしてもらっていて、こんなことを言うのは申し訳ないのだが、ワシはどちらかと言えば胸が大きいほうが好きだからな。残念ながらお嬢さんではすこし物足りない。」
「うう・・・はっきり言いますね。」
「そのほうが安心だろう?もしワシが人さらいだったとしても、お嬢さんに手を出すつもりはないということなのだから。」
「人さらいなら、別に私の胸のサイズは関係ないんじゃないですか?どうせ他の人に売るんだし、世の中にはこういう胸がいいっていう人だっているんですから。」
「そうか。お嬢さんの恋人は胸が小さいほうが好きなのだものな。なるほど・・・。」
 横を並んで歩きながら、男性は感慨深そうに視線を胸に落とす。
「ちょ・・・マジマジ見ないでください!」
 そう言ってエドが胸元を腕で隠すが、自分自身でも「隠すほどないな」と思い、少しだけ悲しくなる。
「はっはっは。すまんすまん。おじさんの悪ふざけだ。・・・昔、子供たちと生き別れてしまったものでな。お嬢さんを見ているとつい自分の子供と重ね合わせてしまう。」
「そうですか・・・。おじさんは、子供たちのこと、どう思っているんですか?やっぱり
、会いたいですか?」 
「そんなことをいう権利はワシにはないが、それでも会えるなら会いたいものだな。ワシには、血の繋がった子だけではなく、血の繋がらない娘達もいるが、全員と会って話をしたい。・・・まあ、いまさらノコノコ現れても子供たちも迷惑じゃろうがな。」
 男性の言葉を聞いて、エドがうつむく。
「家族に会いたいっていう気持ちはわかります。・・・私も、両親を亡くしていますから。でも・・・私は・・・!」
「・・・すまん。」
 男性の謝罪には、エドに嫌なことを思い出させてしまったことの他にも、何かの意思がこめられているように感じる。
「いえ・・・おじさんのせいじゃないですから。」
 エドはその意味をわかりながらも、その意味を問わずに男性の目を見つめる。
「・・・あなたは、息子さんと、娘さんを愛していますか?」
「・・・うむ。血迷って子供たちを憎んだこともあるが、ワシは子供たちを愛している。」
 はっきりとそう言い切る男性の目を見て、エドは唇を噛む。
「そうですか。いつか子供さんたちと会えると良いですね。・・・あとは、この道をまっすぐ行けば、大通りに出られるはずです。」
「すまない、世話になったな。・・・お嬢さん。」
「はい。」
「礼と言ってはなんだが、これを取っておいてくれ。」
 そう言って男性は懐から小さな箱を取り出して、エドに差出した。
「これは?」
「息子に会えたら、その恋人にやろうと思っていたものだ。・・・その指輪は妻の形見でね。」
「・・・・・・。」
 受け取った箱を胸に抱いて黙っているエドの肩に、男性が手を置く。
「・・・すまぬな。今はまだ、死ねぬのだ。」
「・・・・・・。」
「息子と、娘たちを・・・よろしく頼む。」
 そう言って、バルタザールは身を翻して雑踏の中に消えていった。

バルタザールが大通りに面した酒場に入り注文を終えたところで、後をつけていたのであろうアリスが向かいの椅子に腰を下ろした。
「何が、『息子と、娘たちを・・・よろしく頼む。』ですか。」
 手早く自分の飲み物を注文したアリスはため息をつきながら、そう言った。
「後をついてきていたのはアリスだったのか。まさかこんなに早く娘の一人と再会できるとは。エーデルガルド様々といったところか。」
「はぁ・・・来ているんじゃないかとは思っていましたけど、あまりうろうろしないでいただきたいですね。気づいていなかったかも知れませんけど、さっきだってアレクと鉢合わせになりかけたんですからね。」
アリスはそう言ってバルタザールを睨むが、バルタザールは恐縮するどころかいたずらっ子のように笑う。
「ふむ。それはそれで面白かったかも知れぬがな。・・・のう、アリス。」
「なんでしょう。」
「エーデルガルドはよい娘に育ったな。薄々はこちらの正体に気付いていただろうに・・・。」
「良くもあり、悪くもありですよ。あの子は人のことを考えすぎる。今回のクロエのことだってそうです。クロエを側室にするにしても、リシエール旧臣の面子や体面を考えれば、せめて日をずらすなどして差別化をするべきだった。それを式典こそしないまでも同日に結婚するなんてどうかしています。」
「はっはっは。だが、そこがエーデルガルドのいいところなのだろう。それよりもアリスはこんな所で油を売っていていいのか?婚礼の時間も近いのだし、城に戻ったほうがよいのではないのか?」
「残念ながら、色々あって城には戻れない身ですから。」
「なんじゃ、アレクと喧嘩でもしたか?」