覇王伝__蒼剣の舞い2
第6話 少年の名はセイ
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四国が誕生したのは、今から三百年前と比較的新しい。
今でもその名残を留めている所が、通称エリアXだと云う。
四国が統一されても決して変わることなく、住人たちはここを護ってきた。
「___あの、赤の谷に行かれるとか…」
そう云って一人の青年が、拓海たちの前に現れたのは昼前のことだった。
「君は?」
「僕はハオンと云います。みなさんは“遺産”が本当に目当てではないのですか?」
「はぁ?」
「赤の谷は、昔は“龍の降り立つ地”と呼ばれていたそうです。元々谷ではなく、ここのように荒れ地で突然谷になったそうです」
「随分、詳しいんですね」
「ここの人間なら、知っていますよ。四国が出来た当時から先祖代々住んでますし、僕も子供の時から聞かされて育ちましたので」
「もしかして、赤の谷に住んでいたとか」
「はい、七年前まで」
星宿、狼靖、焔、拓海はお互いの顔を見合った。
エリアXは、元々赤の谷を含めた区域だった。ところが、覇王の死と覇王家崩壊により突然白い衣の男たちが侵攻してきて、住民たちは住処を追われ、ここで攻防を続けている。
「白碧国か…」
「ちょっと、ここになにがあるのさ。白碧が占拠して欲しいものって。乾いた赤茶けた大地ばかりだよ」
「朱雀さま、失礼ですよ」
「彼らの欲しいもの___それが“遺産”なのか?」
「僕は父から聞いただけなので詳しく理解りませんが、彼らは“遺産”を頻りに口にしていたそうです」
「ますます、妙だな」
「___?」
「白碧は蒼剣の他に、“遺産”を探している。まさか、もう一度その名を聞くとはな」
狼靖は、難しい顔をしながら珈琲に口を付けた。
「父上、遺産って何なんですか?」
「吾も詳しく知らんのだ。覇王陛下ならご存じだったかも知れんが」
「覇王家と関わりが?」
「それなら、黒王も探そうとするだろう。恐らく、七年前まで誰も知らなかったのだろう。それをある日突然、白王が知った。問題はその遺産と清雅さまがどう関わるのか」
「でも確か、清雅さまは父子と云っても前覇王陛下と面識がない筈では?生まれる前に亡くなられたと」
そう、あり得ないのだ。
前覇王が“遺産”を知っていたとしても、それを清雅に云う事は。
『___この地は、再び荒れる』
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い2 作家名:斑鳩青藍