覇王伝__蒼剣の舞い2
第7話 二頭の昇龍
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北の大地は、四国の中でも冬となれば小さな湖なら一夜にして凍る。
朝靄の中、その湖面がキラキラ光る様はとても美しい。
彼の育った所は、そんな風景が広がっていた。
ごく普通の平民として、彼と彼の父は暮らしていた。
薪を割り、暖炉の大鍋でスープを作り肉を焼き、食後は決まってブラック珈琲。お陰で、料理が得意になってしまってしまったが、いつも難しそうな顔をしている父が息子の作る料理の味付けを褒めた。
___お前は、料理人になるつもりか?
父なりの褒め言葉なのだろう。美味いとは云わず、皮肉を云いながらも必ずお代わりをする。
そんな生活も、10年しか続かなかった。
故郷は黒抄国と名を変え、父が出ると云った為だ。
父が、四獣聖の玄武だと知ったのはその時だ。
黒抄相手に、剣を一人で振るう姿に幼い息子は驚き、感激したものだ。
今その息子は、その父の後を継ぐべく玄武の能力を試そうとしている。
美しかったあの風景を、いつまでも残す為に、誰もが平和で穏やかだった頃を取り戻すために、彼は玄武を決意した。
嘗て父・狼靖がしたように、拓海も四国の為にそうありたいと思う。
___僕は、四国のために戦う。もう、逃げるのは嫌だ…!
目を閉じ、地に片手を付きながら強い意志が高まる精神を集中させていく。
___僕の中の玄武よ、応えて。
清雅の見つめる中、ズンと軽い振動が始まる。
___さずが、あの狼靖の息子だぜ…。
未だ少年セイの姿の清雅が、軽く嗤う。
不思議と人を見抜く才をもつ彼は、拓海に全てを託した。
この状況を打破するには、玄武の能力が必要なのだ。問題は、拓海が玄武に目覚めていない事だ。
逆を云えば、敵にとっては盲点である。
彼らの目は、他の三人、狼靖、星宿、焔に向いていて拓海が玄武候補だと云う事を忘れているか、気付いていない。
しかも目覚めていないと云うことが、ここへの侵入を容易くした。
後は、清雅のリードで拓海の能力を引き出す。
___見えた…!」
拓海が、目を見開いた。
闇の先で蒼い光___。
「龍王剣にたどり着いたようだな…」
セイの躯が、その時大きく傾いた。
「…たいした事…ねぇよ。そろそろこの躯と別れが来てる事だ」
「清雅さま、哀しいです…僕好きですよ、子供の方も」
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い2 作家名:斑鳩青藍