僕達の関係
これからの高校生活がどうなるのか、不安と期待が入り混じってて。
でも、あの桜の花びらが舞うのを見たら、なんかすげー楽になったっていうか、前向きになれたんだよな」
「うん。でも、隆は、全然不安そうには見えなかったけどね」
「そうだっけか? まあ、そう言われりゃそうだ」
「隆、そのセリフ、あの時と一緒だよ?」
「そう言われりゃそうだ」
「ぷっ、もう、隆ったら、仕方ないな〜」
僕達は、向い合って笑った。だけど――
「でも……あの時は、ここに、めーちゃんもいたんだよね……」
「そうだな……」
笑ったのもつかの間に、僕達は沈黙した。
「原因になっちまった、俺が言えることじゃねえけど、俺ら、また元通りになれるかな……」
「どうかな……」
「もう、そういう時期じゃねえのかな、俺ら。……俺はやっぱり、この気持ちをすぐに消すことは出来ねえみたいだ。
自分が、こんなに情けねえヤツだとは、思わなかったわ……」
「隆……」
「けど、悟。お前も、好きなヤツいるだろ?」
「え?! な、なんで急に、そんなこと」
「あはは、すまねえ……けど、その反応は黒みたいだよな」
「う、うん……一応、いるよ……」
”目の前に”という言葉を飲み込みつつ、僕は答えた。
「そうか。でも、その様子じゃ、お前も片思いみたいだな……俺らって、なんだか一方通行だよな。ホントに」
「そ、そうだね」
その時、僕の心臓は、破裂しそうなくらいドキドキしていたのだが、
それを表に出さないようにすることが精一杯なままに、短い返事をした。
「よし、とりあえず帰るか。すまなかったな、悟。散々、気を遣わせちまって」
「ううん。全然」
明日になれば、今日のことは皆無かったことになる訳じゃないけれど、
とりあえず、隆と僕は、めーちゃんのお陰で元の関係に戻れた気がする。
そして、めーちゃんも、時間が経てば、きっと――――。
僕はその時、そんな風に考えていた。
*
家からの通学路。いつもなら、駅のホームの特定の場所で毎日のように会っている、めーちゃんの姿を、
今日は見かけない……。
「昨日のことがあったばかりだし、やっぱり顔を合わせづらいよね……」
そして、僕はそのまま、めーちゃんに会うことなく、学校まで辿り着いてしまった。
「やっぱり、楽天的に考えすぎてたのかな……」
と、独り呟きながら、下駄箱を開けて上履きに履き替えようとすると、中に一枚の封筒があった。
「……ら、ラブレターかな……?」
僕はどんなにラブレターをもらっても、その想いに応えることは出来ない。
だから、手紙を読む時は、そこに真剣な想いが篭っていればいる程、相手に悪くて、重たい気持ちになるけれど、
僕に出来る精一杯のことが、せめて読むことだけなのだから、いつも流し読みするようなことはしない。
意を決して封筒を空けて、僕は便箋を取り出そうとした。すると、その中に手紙とは別に、一枚の写真が入っていた。
「……こ……これって……?!」
写真は、昨日写したものだった。
何故分かったのかと言えば、それは昨日の体育の授業で、隆が僕を後ろから抱きしめている、
まさにその瞬間の写真だったからだ。
僕は、同封の便箋を開いて、急いで読み始めた。
そこには、女の子っぽい丸文字で、こう書いてあった。
拝啓
穏やかな小春日和が続いておりますが、
宮間様には、ますますご清祥のことかと存じます。
この度は、このお手紙を読んで下さいまして、誠に有難うございます。
なんてっ♪ 硬すぎますぅ? エヘ☆
突然こんなお手紙渡されて、驚いちゃいましたよねぇ?
でもぉ。私、入学してからずぅーーーーっと、宮間クンのこと見てたんですよぉ?
ヒ・ト・メ・ボ・レ ってヤツです! キャーキャー☆(*ノノ)
だ・か・ら!
昨日はホントに驚いちゃいましたぁ☆
だって、あんなに目立つところで、秋本クンに☆LOVE2☆抱きしめられちゃってるんですもん♪
遥☆ドキ2☆しちゃいましたぁ! って、あ! 名前言っちゃった!! キャー☆★(>▽<)
それでぇ、何が言いたいかってゆうとぉ……
ォィ! この写真を学校中にばら撒かれたく無かったら、私の言うことを聞いちゃぇー☆
みたいなカンジですっ♪♪
ということでぇ、宮間クン! 放課後に学校の屋上まで一人で来てネッ♪
あとあと、この手紙のコトは、ゼーーーーッタイに! 誰にも言っちゃダメだゾ☆
言っちゃったらぁ ワ・カ・ル・ヨ・ネ ♪♪
でゎでゎ、末筆ながら、ご自愛のほど、お祈り申し上げておりまするぅー☆
☆★遥より★☆
「な……なんだ、これ……」
ラブレターなのか、脅迫文なのか……。
いずれにしても、微妙に名乗ってはいるものの、ほとんど怪文書としか言いようのない手紙だった。
だけど、無視することも出来ない。
何故なら、同封の写真は、合成でもなんでもなく、紛れもない本物なのだから。
もし、こんな写真がばら撒かれたら、僕だけじゃなく、隆にまで迷惑が掛かってしまう。
それだけは、どうしても避けたい。
僕は通学鞄に手紙を仕舞うと、少し緊張しながら教室へと向かった。
*
遥なんて名前の子、クラスにいたかな……。
苗字なら分かるかも知れなかったけれど、クラスの女子全員のフルネームまでは覚えていない。
「そもそも、同じクラスだとは限らないし……それよりも……」
席に着くと、僕は教室を見回した。
見ると、めーちゃんはすでに自分の席に着いていて、
隆も学校へは来ているようで、机の横に鞄が掛かっている。
「隆は、朝練中かな……」
昨日、今日と、慌ただしく色々な出来事が起き過ぎて、僕はなんだか頭がクラクラしてきた。
隆はめーちゃんのことが好き。めーちゃんは……僕のことを……でも、僕は隆が……。
考えてみれば、結局お互いの気持ちを分かっているのは、隆とめーちゃんだけなんだね。
僕の気持ちは、隆にはまだ伝わっていないんだ……。
もし、あの遥という女の子が撮った写真を、隆が見たらどう思うんだろう。
きっと隆には、凄い迷惑を掛けてしまうけど……でも、写真が公になったら、
そのほうが僕は、もしかすると隆に自分の気持ちを、素直に伝えやすくなるんじゃないかな……。
「――って、違う! だ、だめだ、そんなこと! 僕は何を考えてるんだ!
そんなことになったら、大騒ぎになって、それこそ告白どころじゃなくなってしまう……」
「へえ。誰に告白するんだ?」
「う、うわわ?!」
突然、背後から声を掛けられて、僕はイスから転げ落ちそうになった。
「お、おいおい、悟。大丈夫か?? そんなに驚かなくってもいいだろう」
いつの間にか、隆が朝練から帰って来ていて、苦笑いしながら言った。
「だ、だって、急に声を掛けるから……」
心臓が喉から出てくるんじゃないかと思う程に、激しく動悸を繰り返している。