僕達の関係
いつも宮間くんがモテるから、妬んでたんだって。それで悔しくて、本当は自分が女子にモテたいくせに、
わざと女子に冷たくしたり、あの写真も、宮間くんがモテなくなるように狙って撮ったらしいのよ。
宮間くんが入院してた時、あいつも何故か、怪我か何かでしばらく入院して、学校へ来なかったんだけど、
それって実は、宮間くんが入院している時に、また変な写真を撮ろうとしてたからだったらしいわよ。
ね、ねえ、宮間くん。大丈夫なの?? 病院で、あいつに何か変なことされたりしなかった??」
と、クラスメートの女子の一人が、僕に色々な説明をした。しかし、
それは、一体どういうことなのか、僕には理解出来なかった。
何だか、話がとんでもない方向に歪んでいるのだ。
通学路を歩く間中、僕は次々と心配なのか同情なのか分からない声を掛けられながら、
それをなるべく聞き流しつつ、早足で学校へと急いだ。
*
教室に着いた僕は、朝練中の隆とは会えないので、めーちゃんの姿を探した。
すると、向こうも僕が来るのを待っていたらしく、すぐこちらに気が付いた。
めーちゃんは、あまり目立たないようにゆっくり僕に近づくと、
「今はまだ、人が沢山いて目立つから、放課後に屋上で話そう」
と、言って、自分の席に着いた。
その後、授業中も休み時間の間も、僕は、常に至る所からの視線を感じ、
クラスメート達に、ある事ない事を散々聞かれ続けて、辟易としつつ、
ふと、噂の主である、紀純くんの姿が見当たらないことに気が付いた。
ようやく、6時限目の授業が終わり、ホームルームが済むと同時に、
僕はクラスメートに話しかけられるよりも早く、急いで教室を出た。
そして、そのまま屋上へは向かわずに、若干回り道をしてからようやく階段を昇った。
そんなことをしながら、なんとか僕が人目に付かないように、
屋上建屋の裏へ辿り付いた時には、そこにすでに、
めーちゃんと、遥さん。そして、隆が待っていた。
僕はさっそく、この不可解な状況の理由を皆に尋ねることにした。
「あの……何か噂が、変なことになっているようなんだけど……」
「そのことなんだけどね、さとくん。
病院では、さとくんが心配しそうだから言わなかったんだけど、
実は、今広まってる噂は、紀純が全部自分でそうなるように、仕向けたことなのよ」
「え? ど、どういうこと??」
「簡単に言うと、これまで広まっていた、さとくんと秋本との関係の噂は、
全部、紀純の捏造だったということにしたの。
そういう内容の記事を、新聞部に匿名で書かせた上で、
さらに、その記事についてのインタビューを自分で受けて、
そこに書かれていることを、全部認めちゃったのよ。
その時、疑われない為に、さとくんへの恨みつらみ、罵詈雑言を、
これでもかと言う程に吐いたから、今や紀純は、学校中の生徒から悪者扱いされてるの」
「そ、そんな……で、でも、それじゃ、紀純くんは……」
「さとくんに教えようか迷ったけど、実は、あいつ転校するらしいのよ。
私達にしか教えてないみたいだけど、今日この後、手続きだけ済ませに学校へ来るらしいわ。
そして、それが終わったら、そのまま、二度とうちの学校へは来ないつもりみたい」
「そんな急に……」
「それを、私達にだけ教えたってことは、もしかすると、
最後に宮間くんに会いたかったのかも」
「どうする、さとくん? 無理する必要はないよ。
さとくんが会いたくないなら、スルーすればいいだけだし」
「……う、うん、めーちゃん。……でも、僕……会うよ。
紀純くんに会って、最後にちゃんと話したい」
「そっか、分かった。さとくんがそうしたいなら、私達は邪魔しないよ」
「だな。俺達は少し離れたところから見ていて、
何かあったらすぐに出て行けるようにするから、安心していいぞ」
「うん。ありがとう、皆」
僕は皆に感謝して、紀純くんを学校の校門付近で待つことにした。
*
――程無くして、手続きを終えた彼が昇降口から出てくる姿が見えた。
彼はこちらにすぐ気が付くと、早足で近付いてきた。
「やあ、宮間くん。来てくれたんだね」
「うん。……あの……紀純くん、転校するって本当?」
「ああ。もう、分かっているとは思うけど、
この学校で僕は、これ以上は無い程のヒールになってしまったからさ。
正直、ここで生活するのがしんどくて……」
「紀純くん……」
「なんてね。……冗談さ。転校は元々決まっていたんだ。
それにそもそも、こうなったのは僕の自業自得だからね。
宮間くんには、本当に済まないことをしたと思っている。
本当に申し訳なかった……」
そう言って、宮間くんは頭を下げた。
「い、いや、いいんだよ、もう。
それより、輸血の時に僕に血をくれたのは紀純くんなんだってね。
助けてくれてくれて、ありがとう」
「いや、止してくれよ。それくらい当然だ。全部僕のせいなんだから。
……やっぱり、宮間くんは優しいな。僕がこんな酷いことをしたって言うのに」
「……僕は……紀純くんに会えて良かったって思ってるよ。
僕と同じ気持ちを持っている人が、こんなに僕のことを考えていてくれたんだから」
「ありがとう、宮間くん。その言葉だけで、もう充分さ。
強いて言えば……初めからこうやって、
もっと自然に君と話をすれば良かったな……今更ながらね。
僕は、臆病だったよ」
「その気持ち……僕も分かるよ。もし、自分のことを分かって貰えなかったら、どうしようって。
そう思ったら、どうやって相手と接したらいいのか、全然見えなくなっちゃうんだ。
でも、僕、今はちょっと変わった。思い切って、素直な気持ちを大切な人にぶつけたら、
それをちゃんと受け止めてくれたから。勿論、だからって、なんでも思い通りになった訳じゃないし、
結果、振られたみたいな物なんだけど、それでも、伝えて良かったって思う。
きっと、それが出来たのは、紀純くんのお蔭だよ」
「……ありがとう、宮間くん。そう言って貰えると、救われる気がするな。
僕は必ずしも、君の害にしかならなかったという訳では無いと思えるからね。
次に行く場所では、僕も君を見習って、勇気を出して素直に相手と向き合ってみるよ」
「うん。お互いに頑張ろう、紀純くん」
「ああ。――それじゃ、宮間くん……これでお別れだ。君の事は、一生忘れないよ」
僕達はそう言うと、しっかり握手をした。そして――
紀純くんは、しばらく僕の目を見つめると、フッと手を離し、
そのまま背中を向けて、振り返ること無く歩き始めた。
僕もまた、そんな彼の後ろ姿を見続けることなく、
少し離れた場所から、心配そうに見守ってくれている皆の居る場所へと走り始めた。
*
――あれから約1年。
隆は、3年最後の大会で表彰台へと上がった。しかし、1位になることは叶わなかった。
スポーツ推薦で体育大学へ入学する隆は、今度こそ全国で1番になると言っている。