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僕達の関係

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「う、うん。分かった。ありがとう……めーちゃん、秋本くん……」

 ――日曜日になると、私達は三人で、とある病院へ向かった。
そして、整形外科の病室の一番奥にある、壁際のベッドのカーテンの前まで来ると、
「――さとくん、いる? 入っていい?」
と、声を掛けた。すると、

「あ……うん。いいよ」
と、か細い声で返事が返ってきたので、
私は若干勢いをつけて、シャッとカーテンを開いた。

「うわっ、そんな一気に開かなくても」

「だって、さとくん、まだ外明るいよ。
こんなに締め切らなくてもいいじゃない?」

「こ、この方が落ち着くんだ。
周りの人に見られてると、なんだか気になってしまって」

「ふうん。まぁ、さとくんらしいけどね。ところで、具合はどう?」

「うん。もう、大分良くなってるって言われた。あと一週間くらいで退院出来るって」

「ほんと? 良かったじゃない!」

「良かったな、悟」

「安心した。宮間くん、良かったね」

「ありがとう……皆」
さとくんは、ちょっと恥ずかしそうに、小さな声で皆にお礼を言った。

 港で倒れた時、さとくんはとても危険な状態だった。出血が多すぎたのだ。
 輸血が必要だったが、さとくんの血液型は珍しい型だったので、ストックが足りなかった。

 その時、紀純が名乗り出たのだ。
 偶然……にしては、出来過ぎかもしれないが、彼はさとくんと同じ血液型だった。
 それが、彼があそこまで、さとくんに執着した理由という訳でもないだろうが、
やはり、惹かれる者同士の間には、何かしらそういった共通項があるのかも知れない。

「あの……ところで、紀純くんは……」
と、ふと、思い出したようにさとくんが尋ねた。

「ああ、あいつは、お前が意識を回復する前に退院したよ。すでに学校へも来ている」
と、秋本が答えた。

「さとくんが、被害届けを出さなかったから、
結局、その怪我は、事件性の無い事故ってことになったみたい。
まぁ、紀純の親って、結構有名な会社の社長だし、色々と裏で手を回したのかも知れないけど……」

「本当にそれでいいのか、悟? お前、結構酷い目に遭ったんだぜ?」

「うん、いいんだ……。彼の気持ち……僕は何となく分かる気がするから。
それに……命が助かったのは、彼のお陰だし」

「さとくんって、ほんと、お人好し過ぎ」

「まぁ、それが悟のいいところだな」

「それより、隆。隆の方こそ、怪我は大丈夫なの?」

「ん? ああ、あんなのは大したことねえよ。ちょっと縫っただけで、
今はもう、抜糸も済んで、包帯も取れたからな。ほら……」
と、秋本が怪我をした手の平の甲を、さとくんに向けてかざした。すると、

「ほ、本当に大丈夫? 跡とか残ってない?? ち、ちょっと見せて……」
さとくんは、心配そうに秋本の手を取って調べ始めた。

「おいおい。心配性だな、悟は。あはは」
秋本は仕方ないな。という風な、半分困り顔で笑った。すると、
そこで私はふと気が付いたように、

「あっ、ところで、その花瓶の水、ちょっと少なくなってるし、替えた方が良くない??
私、行ってくるね!! 遥も、ちょっと付き合ってくれる??」
と、強引に遥の手を引っ張ると、さとくんが何かを言う暇も無く、
そのままカーテンを閉めて病室を出た。

                      *

 ――後に残された二人は、突然のことで呆然としていたが、

「あっ……ご、ごめん、隆……!!」
秋本の手を握ったままだったことに気が付いたさとくんが、慌てて手を放し、

「あ、ああ。いや、いいんだよ。心配してくれて、サンキューな」
秋本は、若干間を置いてお礼を言った。そこで、

「跡、大分綺麗になってたね。大きな傷にならなくって良かった……」

「あ、ああ。そうだな……」

と、会話を交わした二人だったが、
そこから、さらに気まずい沈黙が流れてしまったので、

「あ、あの、隆」

「なあ、悟」

「い、いや、ごめん。た、隆からどうぞ」

「あ、いや。悟が先でいいよ」

 その沈黙を破ろうと、再び声を出したものの、
それが二人同時になってしまい、さらに話し辛くなってしまった。

仕方なく「た、隆。あ、あの……学校での記事……見た……?」
と、恐る恐る、さとくんが切り出すと、

「あ、ああ……見た……」
と、秋本が短く答えた。そこで、

「あ、あの……隆は、あれって……どう思った?」
さらに、さとくんが聞くと、

「え? ど、どう……? それは、その、なんていうか……」
どう答えていいのか分からず、秋本は口ごもった。

「そ、そうだよね。そんなこと聞かれたって、困るよね……。
で、でも、あ……あんなのは、学校の新聞だし……ほ、本当のことなんて……その……」

「悟……」

「あっ、そういえば、紀純くんが自分で自分を刺そうとした時に、
僕……隆のこと……す、好きとか、言っちゃったけど……
あれって……そういうのじゃないからね……あ、あの時は……
か、彼を止めないといけなかったし……そうしないと……そ、そうしないと……その……」
言いながら、自分でも気が付かない内に、いつの間にか、さとくんの目は涙で一杯になっていた。

「……だ、だから、隆は……あ、あんなこと、もう、き、気にしない……」
それでも、さとくんが、言葉を続けようとすると、

「もう、いいよ、悟!!」
不意に秋本が、さとくんの言葉を遮った。
すると声に反応して、さとくんの体がビクッと震えた。

「いいんだよ、もう……無理しなくて。
すまなかった、悟。俺が気付いてやれなかったばかりに……」

「た、隆……」

「あいつの……紀純の言ってた通りだ。俺は知らないうちに、
お前を傷つけていたんだ。お前が、どんな気持ちで居たかも分からずに。
……最低だな。お前のことを親友だとか、勝手にぬかしていたくせして、
俺には、お前の気持ちが全然見えてなかった……!!」
言いながら秋本は、薄っすらと傷跡の残るこぶしを強く握り締めた。すると、

「ち、違う……!! それは、違うよ、隆……!!」
さとくんが、必死にそれを否定した。そして、

「た、隆は、いつだって僕の味方だった!!
い、いつだって、僕のことを考えてくれてた……!!
だ、だから……だから、僕は……た、隆が……隆のことが、好きなんだ!!」
――ついに、告白した。

「さ、悟……」

「……ご、ごめん。……嫌だよね……こんなの……」

「い、いや。嫌とかではないけど、でも、俺は……その……」

「ううん。いいんだ。……隆の気持ち……もう、分かってるから……。
告白は、僕の我侭なんだ……」
さとくんは、俯きながら言った。

「す、すまねえ、悟。……お、俺は……」
秋本が謝ると、

「もう。だから謝らなくっていいってば……隆は何も悪くないんだから」

「あ、ああ……」

「なんだか、これじゃ、僕と隆、いつもと逆みたいだよ。
隆の方がオドオドしてるし」

「た、確かに。そう言われりゃそうだな。ははは」

「ふふふ、隆ったら」

 二人は和やかに笑い合った。

「ね、ねえ、隆……一つだけ、お願いがあるんだけど……僕の最後の我侭……」
作品名:僕達の関係 作家名:maro