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僕達の関係

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紀純は叫ぶと、再び秋本を攻撃しようとナイフを突き出そうとした。

 その瞬間、私は反射的に秋本の前方に立ち塞がり、それを止めようとした。

「き、桐野?! や、やめろ!!」

「めーちゃん、逃げて!!」

 二人の叫び声に構わずに、私が楯になろうとした、その時、
紀純が突然、私に突き立てるはずのナイフをスッと引いた。
 そして同時に、反対側の手で私の襟首を掴むと、
そのまま引きずるように自らの身に引き寄せ、今度はその首筋にナイフの切っ先を当てた。

「人質だよ。お前達一人一人を一々相手にしている暇は無いからな。
これ以上、僕に近づけば、桐野彩芽の身の安全は保障しないぞ」

「……紀純、て、てめえ……桐野を放せ……」
秋本が、怒りに身を震わせながら立ち上がる。

「ああ……そうか。そういえば、お前はこいつのことが好きだったんだっけな。
となると、今はこいつと、あの一年生のマネージャーと、どっちか好きなんだ?」

「……そんなこと……てめえに答える必要はねえだろうが……!!」

「あー。つまらんね。実を言うと、僕は君にだけは一目置いていたんだ。
何しろ、あの宮間くんが好きになった人だからね。
しかし、どうやらそれは見当違いだったようだな。
そんな、どっちつかずの気持ちしか持てないような、つまらない人間だったとはね」
紀純は、心底残念と言った風な顔をしてそう言った。その時、

「あんた!! 馬鹿じゃないの?!」
と、紀純に人質にされている状態の私が、その耳元で大声を放った。

                      *

「――っ?! く、……う、煩い……何て声を出すんだ……!!
お、お前、自分の立場が分かっていないのか……!!」

「立場が分かっていないのは、どっちの方よ!!
結局、あんたって、さとくんに好かれたいだけなんでしょ?!
なのに、あんたがやっていることは全部、さとくんに嫌われることだけじゃないの!!
写真を新聞部へリークして、さとくんが大好きな、秋本のことまで傷つけて、
あんた、さとくんが好きって割りに、実は全然、さとくんのこと分かって無かったのね!!」

「な、なんだと?? ふ、ふざけるな!!
僕は、お前なんかより、宮間くんのことをずっと見ていたんだ!!
お前達は、宮間くんと仲良くするふりをしながら、いつも知らずに彼を傷つけていた!!
彼は自分の気持ちを隠したままで、お前達に振り回されて苦しんでいたんだよ!!
だから僕は、それを解放してやろうとしたんだ!!
そして、世界で唯一、僕だけが彼の理解者だということに気付かせて、
彼を救ってあげようとしているんだ!! 彼が幸せになるには、必要なことなんだ!!」

「何言ってるのよ! それは単にあんたの気持ちを、
一方的にさとくんに押し付けてるだけでしょうが!!
私は、さとくんのこと好き。でも、それは、
”私のことを好きな”さとくんが好きってことじゃなくて、
”私のことが嫌いになった”さとくんも、全部好きってことなんだよ。
どんな時でも、その時の”ありのままの”さとくんが好きなのよ。
でも、あんたは、さとくんの一面しか見ていない。それ以外を認めようとしない。
自分勝手にあんたの理想を、さとくんに押し付けようとしているだけじゃないの!!」

「……ち、違う」

「ねえ。もう、いいんじゃないの? 本当は分かってるんでしょ?
さとくんが誰のことを好きだったとしても……もう、あなたのことを、好きにはならな……」

「だ、黙れ!! 黙れ、黙れ、!! 煩いんだよ、お前は!!
そんな訳が無いだろう!! 彼を受け入れられるのは僕だけなんだ!!
お、お前のことは、前から気に入らなかった!!
僕が宮間くんに近づこうとすると、いつも、お前が目の前に居て、邪魔をする!!
な、なのに……なのに、何故か……宮間くんは、そんなお前を嫌がったりしない……!!
こ、こんな理不尽が、ある訳は無いんだ!! ……き、消えろ!! お前はもう……消えてしまえ……!!」
紀純はそう言うと、頭上にナイフを高く突き上げた。

「――き、桐野?! やめろ、紀純!!」

「め、めーちゃん?! いやああああ!!」

「――だめだ!!」
紀純がナイフを振り下ろそうとして、思わず私が目を瞑った、その瞬間、
秋本と遥の叫び声が響くと同時に、もう一つ声が響いた。
そして、何かが凄い勢いで衝突し、その衝撃で私と紀純の体が離れた。

                      *

「い、痛たた……」
私は倒れながら、したたかに体を地面に打ち付けられて、痛みで顔をしかめつつ、
なんとか目を開き、ぶつかってきた物体の方へと顔を向けた。すると、

「……あっ……ご、ごめん、めーちゃん……!! だ、大丈……」

「――っ?! さ、さとくんっ?!」

「悟?!」

「み、宮間くん?!」

「――え?! う、うん。……ご、ごめん、皆、心配かけ……」

「って?! ち、ちょっと、さとくん?! どうしたのよ、それ!! 怪我してるじゃない!!」
右肩からダラダラと血を流しているさとくんを見て、私は飛び起きた。
そして、すぐに傍まで駆け寄ると、懐からハンカチを出して、傷口を抑えた。

「あ、ありがとう……めーちゃ……」
と、さとくんが私にお礼を言おうとした、瞬間、

「あ、ありがとう、じゃないわよ!! こんなに心配かけて……!!」
と、言って、私が手を振り上げると、さとくんが思わずぎゅっと目を瞑った。
しかし……

「……め、めーちゃ……ん?」
その手がさとくんの顔に当たることは無かった。気が付くと、

「……もう……どこ、行ってたのよ……心配させないで……!!」
私はさとくんを、思い切り抱き締めていた。

「おいおい……再会してすぐに、ラブシーンかよ。
お前ら、あんまり見せ付けんじゃねー……っていうか……おいっ、悟、こっち向け!!」
それを見た秋本が、私に抱き締められているさとくんを、無理矢理に自分の方へ向かせた。
すると、

「い、痛たっ!!」
その直後、突然さとくんが私から手を離して、自分の額を抱えて呻いた。
見ると、眉間の辺りが微かに赤くなっている。

「見たか悟。俺の最強のデコピンの威力を……ををっ?! をっ!!
をっ、をっほっ!! をっほっほっほっほっほっほっーー!! ――っておいーー!!」

「宮間くん、安心してくださぁーい。復讐は私が代わりにして置きましたよぉ!
必殺、くすぐりボンバァーみたいな感じぃ?」

「み、水谷、てめえ……」

「キャアー!! 秋本くん、その顔こわーい、っていうか、高校生に見えなーい!!」

「お、お前!! 人が気にしていることを。ふ、ふざけん……あっ、い、いっててて……」

「あっ……た、隆?! そ、その手どうしたの?? 怪我してるの?!」

「い、いや……大丈夫だ、悟。お前の肩の怪我よりは、軽い……」

「もう! 何で私達って全員集まると、いつも、こんなに緊張感が無くなっちゃうのよ!
さっきまでの深刻さって何だった訳??」

 表面的にどんなことが起こっても、
結局、私達は、会えばいつも通りに戻ってしまう。それはもう理屈じゃなかった――。
作品名:僕達の関係 作家名:maro