僕達の関係
「何が違うんだ!! 悟がそんな目に遭ってるなんて、俺は全然知らなかったぞ!!
そ、それなのに、俺は暢気にあいつに彼女が出来たことを喜んだりしていたんだ……!!
そ、その時、あ、あいつは一体どんな気持ちで……」
秋本は怒りで体を震わせながら、私達を睨んだ。
「確かに……遥のしたことは許されない。
それに、そのことをあんたにすぐに教えなかったことも、悪かったと思ってる。
……でもね……時間ないから詳しく言わないけど、
本当は、遥はその写真をばら撒こうなんてしていなかったのよ。
それまでに、さとくんにしたことを謝って、本当のことを皆に言おうとしたら、
さとくんがそれを止めたの。遥の本当の気持ちを知って、それを許して、友達になったのよ」
「そうか……だが、もし、仮にそうだったしても、俺は許せねえ……!!
水谷も……今まで、それに気が付けなかった自分自身のことも……」
「……さっき、あんたが聞いた、タイミングの話だけど。
記事を見て、ショックを受けたさとくんを、私達は人気の無い場所へ連れて行ったの。
でも、さとくんは、もう誰の声に対しても聞く耳が持てなくなってた。
何故なら……誰にも、さとくんの本当の気持ちを理解することは出来ないから……」
「……当たり前だ。そんな酷い目に遭っているっていうのに、それで聞く耳持てなんて、
無理な話だ……!!」
「違うのよ、秋本。そうじゃないの。あんた、まだ分かってない。
さっきも言ったけど、さとくんは……あんたのことが好きなんだよ。
友達としてではなくて、恋愛対象として」
「な、何言ってるんだ……そんなことはある訳が無いだろ。
俺とあいつは、これまでずっと親友として過ごして来て……
今まで、そんな素振りなんか、どこにも……」
「それは、これまでは、黙っていれば友達のまま、あんたと仲良く出来たからよ。
ずっとそのままでいられたなら、さとくんとしても、それはそれで良かったのかも知れない。
……でも、大勢の前で記事にされて、その気持ちを晒し者にされた後で、
今みたいに、あんたがそれを受け入れてくれないことくらいは、さとくんだって分かっていたのよ。
だから、何処にも居場所が無くなって逃げるしかなかった。
……それなのに、その逃げた先で、さとくんはあんたを見つけてしまったの。
しかも、マネージャーの月代さんと仲良く歩いている所を……。
これって、最悪のタイミングでしょ……」
「……う、嘘だ……さ、悟が……そんな風に、俺のことを見ていただなんて……」
*
「……別に、あんたを責められることじゃないんだけどね。
恋愛感情は強制出来ることじゃないし……。
以前にね……さとくんの下駄箱にラブレターが入っていたことがあって、
私、その時、さとくんにモテるね、って言ったの。
そしたら、さとくん、……モテるって言われても、ピンと来ないよ。
好きな人以外には、恋愛感情なんて湧かないんだからって、言ったんだ。
その時は、何も感じなかったけど、今にして思えば、こういうことだったんだよね」
「……じ、じゃあ、それじゃあ……だとしたら……
お、俺は知らずに、ずっと……あ、あいつを、傷つけていたってことなのか……?」
「どうかな。私達って本当に一方通行の関係だったってことだし、
傷ついたってことなら、それはお互い様って部分もあるから……。
いずれにしても、今は感傷に浸っている場合じゃないわ。
私、さとくんの家にもう一回電話してみる。遥、悪いけど、また携帯貸してもらってもいい?」
重たくなった場の空気をそのままにして、私はさとくんの家に電話を掛けた。
すると、すぐにお母さんが出たので、さとくんが戻って来てるかを聞いてみると、
「え?! ほ、本当ですか?? そ、それってさとくんが、自分で掛けて来たんですか?!
……そ、そうですか。い、いえ、こちらこそお騒がせしてしまって、ごめんなさい。
そ、それじゃあ、失礼します……」
「な、なんだ? どうした桐野??」
「め、めーちゃん、宮間くん、戻って来たの……?」
私の驚いた様子に、二人が焦って聞いてきた。
「一応……居場所は自分で電話を掛けて、お母さんに伝えたみたい……」
「ま、まじか!! 良かった……そ、それで、悟は何処に居るんだ?」
「さ、さとくんは……今、紀純涼の家に居るらしいわ……」
「え?! ど、どうして?! な、なんで、宮間くんが、あいつの家なんかに?!」
「さ、先を越された……全部あいつの計算どおりだったのよ……」
私は唇を噛み締めながら、呻いた。
「おい、紀純涼って言ったら、うちのクラスのあいつのことだろ?
だけど、それで何でそんなに驚くんだ??
確かに普段、それほど悟と仲が良い同士じゃ無かったとは思うが……」
「言ってなかったけど、あいつ、ずっと私達や、さとくんのことを監視し続けて来たのよ」
「か、監視? なんで、そんなこと……」
「あいつは……認めたくないけど、
もしかしたら、唯一さとくんの気持ちを理解できるかも知れない奴なの。
き、紀純は、さとくんと同じように男の子が好きで……そ、それで……
さとくんのことが、好きだから……」
「な、なんだって……?!」
「もしかしたら……いえ、私は絶対にそうだと思ってるけど、
遥のカメラから写真データを盗んで、新聞部に送ったのは、紀純涼なのよ。
そうすることで、さとくんを孤独にさせて、自分が唯一の理解者だと思わせて、
さとくんが、自分のことを好きになるように仕向けようとしてるの。最っ低な奴だわ!!」
「め、めーちゃん。じゃあ、急がないと、宮間くん、あいつに何かされちゃうんじゃ……」
「だ、だが……急ぐったって、紀純の家の場所は分かってるのか?
こ、この時間じゃ、職員室に行って、名簿を見る訳にもいかないし……」
「あんた達、もしかして、私を舐めてる?
こういうこともあろうかと、あいつの家の住所くらい頭に入れてるわよ」
「ま、まじかよ……お前、やっぱり凄いな……優等生にも程があるわ」
「そう言えば、めーちゃんって、宮間くんの携帯や自宅、秋本くんの携帯にも、
何も見ないで掛けてたもんね……」
「褒めたって、何も出ないわよ。そんなことより、急がないと。
秋本、お金持ってる?」
「あ、ああ。一応、それなりに持っては来たが……」
「じゃあ、タクシーで行きましょう。悪いけど秋本、タクシー代、貸しといて貰える?」
言いながら、私は遥に借りた携帯からタクシー会社へと電話を掛け始めた。
*
「――っん、んん……んん、んんんーー!!」
さっきは、突然のことで何をされたのか分からなかったが、
今度は、自分が何をされたのか、はっきりと分かった。
僕は、全力で紀純くんを突き放して、壁際に身を寄せた。
「き、紀純くん、な、何をするの……?!」
僕は袖で自分の口を拭いながら、震える声で叫んだ。すると、
「何って……キスに決まってるじゃないか」
紀純くんは、まるで当たり前だと言わんばかりに、平然と答えた。
「――っな、なんで、そんなことを……」