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僕達の関係

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でも、その後、少しホッとした様子で微かに微笑みながら頷いた。

 な、ナイス、遥! これなら、騙してるって言っても、
二人が付き合っていたと思われるよりは全然いいし。
 きっと、さとくんも楽になるはず……!
 私も密かに、遥に向かってウインクを返した。

「……あのな。弁解するようで変なんだが、ここにいるマネージャーの月代は、
今、俺が大会へ向けて練習してる、そのメニューのサポートをしてくれているんだ。
食事を含めて、朝練から放課後の練習まで、あらゆる体調管理をしてくれている。
だから、最近勘違いしてる奴もいるみたいだが、別に俺達は付き合ってるとかじゃねーんだ」
と、突然秋本が二人の関係を皆に説明した。

「み、皆さん、初めまして! 私、一年生の月代美由紀って言います!
秋本先輩が大会で優勝出来るように、マネージャーとして、全力でサポートしています!
だから、先輩が言ったように、付き合ってるとかじゃ……あ、ありません……」
と、本人も自己紹介をした。でも、

 そう言った本人の顔に一瞬陰りが見えたのを、私は見逃さなかった。
 この娘はきっと……秋本のことが好きなのだ。

「まあ、よ。なんか俺達、色々と勘違いし合ってたみたいだけど、
そんなことだから、これからも皆で仲良くしようや。日向もポカポカして、気持ちいいしな」
 そして、この娘の気持ちを知ってか知らずか、秋本が呑気にそんなことを言ったので、

「なんとなく、じじむさい言い方ね。老けていくのは顔だけにしてよね。秋・本・先・輩」
と、私はツッコミを入れてみた。すると、

「き、桐野!! お前まで、お、俺が気にしていることを……!!
ち、違うぞ! 俺は、老け顔なんかじゃねーよ!!」
 言われた秋本が、激しく抗議の声を上げた。

「あらー。そうなんだ? でも、お前までってことは、私以外にも、誰かに言われたことがあるんだよね?」

「そ、それは、月代が……って――う、うるせー!! おい悟! お前もなんか言ってやれ!」
 と、追い詰められた秋本が、さとくんを味方に取り込もうとすると、

「えっと……そ、その……隆は、ふ、老け顔なんかじゃ……ないよ。ただ……」
と、さとくんがオドオドと答え始め、

「お、おお! そうだ、悟! やっぱお前は親友だ! 俺のことを一番分かってるのはお前だよ!
この見る目の無い女どもに、もっと言ってやれ!」

「ただ……隆は、他の人より、ちょっと”顔だけ”大人なんだよ……」
と、言い放った。

「――っな?! さ、悟?!」

「ぷぷっ! さとくん、それって、全然フォローになってないわよ!」

 さとくんの絶妙な言い回しに、皆が思わず吹き出した。

「わ、笑うなー! ――ったく! ……仕方ねえな、お前らはっ。くはははっ!!」

 昼休み、人気の無い花壇の前で、私達の笑い声は、そこに咲いている花よりも明るく響き渡った――。

                      *

「……やってくれたな。桐野彩芽……水谷遥……」

 ――少し離れた所から、一同の様子を観察していた紀純涼は、
その歓談の様子をしばらく眺めていたかと思うと、不意にそれに背を向け、歩き始めた。

 先ほど旧校舎の裏で、桐野と水谷の両者が話していた内容が事実だとすれば、
秋本隆の昼休みの過ごし方とその場所に、思い当たる節があった。

 運動部、特に陸上部の連中は、稀に部室に近いあのベンチで昼食を摂ることがあるのを、
以前、秋本を監視した際に知っていたからだ。

 彼は宮間悟の想い人である男だが、紀純涼にとって、
秋本自身に関して言えば、すでに、これといって特筆すべき事柄は無かった。
 彼が一年にして陸上部のレギュラーとなり、二年の現在では、すでにエースと目されていることも、
この男にしてみれば、どうでも良いことである。

 紀純が、常に観察、監視するその対象と目的は、宮間悟にとっての立ち位置に関してのみだからだ。

 秋本隆は、至ってノーマルな人間であり、同性に興味は無かった。
だから、自身が宮間悟に慕われていることにも、気がつく様子は全く無い。
 要するに、宮間悟に対する彼の立ち位置は、只の友達だ。

 その時点で紀純は秋本隆のことを、ほぼ無害と判断していた。
 例えどんなに、宮間悟がこの男のことを慕っていたとしても、
その気持ちが成就することは、殆どありえないと思ったからだ。

 それよりも、むしろ警戒していたのは、幼馴染である桐野彩芽と、突如現れた水谷遥であった。
 水谷に関しては、恋人のフリを止めてしまった今、さして気になる存在では無くなりつつあったのだが、
まさかそれが、桐野彩芽と結託し、宮間悟と秋本隆の逢引を画策するとまでは、予想していなかったのだ。

 勿論。前述の通り、紀純はそのこと自体に脅威を感じた訳では無い。
 その時、紀純は彼女達が話していた、その情報を利用することを思いついたのだった。

 二人の企てに釘を刺した上で宮間悟を連れ出し、件のベンチへ向かい、
 もし、そこに秋本と噂の女が居れば、彼に衝撃を与えることが出来ると考えたのだ。

 そして、それは成功した。
 ベンチでは、うまい具合に秋本と噂の女がイチャついていて、
それが、宮間悟に予想以上の衝撃を与える結果となったのだ。

 茫然自失の体となった彼を保健室へ連れて行き、そこで彼を慰めてやれば、
その心を自分へと傾けさせる、絶好の機会となる。
 そう思い、彼の肩に手をかけて促そうとした、その時だった。

 突然、あの桐野彩芽と水谷遥が邪魔に入ったのだ。
 奴らもまた、自分と同じことを考えて、このベンチへと向かっていた。
 恐らく、自分が宮間悟を秋本の元まで連れてこようとすることまで予想して。

 桐野彩芽は宮間悟に想いを寄せている。しかもはっきり告白までしている為、
宮間悟もそのことを自覚しており、お互いの気持ちを知った上で幼馴染の関係を継続している。

 何かにつけて直情的で、それが感情や行動に表れる桐野彩芽は、
突如予想外の行動を起こすことがあり、対策を立てづらい相手なのだった。

 実のところ告白の際も、それを阻止したい気持ちはあったのだが、間に合わなかった。
 今現在、女性に興味の無い宮間悟が、その想いを受け入れることはありえないとは思うが、
しかし、相手は只のクラスメートとは訳が違う。

 幼少の頃から二人は共に過ごし、異性間ということを別にして、
その信頼感に関しては、他者が入り込む余地はまるで無い。
 気の優しい宮間悟が情にほだされて、桐野彩芽の、その強い想いを受け入れてしまうことが、
万が一にも、絶対に無いとは言い切れない程の絆が、二人の間にはあるのだった。

「忌々しい……」
 紀純はそう呟くと、眉間に深い皺を寄せながら、
普段、女子へ向かって睨みつける視線の、その何倍も鋭い鬼気迫る目つきとなって、一人校舎の中へと戻った。

                      *

「あいつらを使うか」

 校舎へ戻った紀純は、自らのクラスである2年A組の教室まで歩いた。
 悟達はまだベンチで昼食を摂っているので不在だ。そこで紀純は、

「やあ。元気かい?」
作品名:僕達の関係 作家名:maro