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僕達の関係

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 悟には彼女が出来て、その悟を好きな桐野に、俺は振られたが、
しかし、これからも二人とは、これまで通り友達の関係でいられれば、
もう、それでいいと思うことにした。

 いつまでもクヨクヨと思い悩んでいるのは、俺の性に合わない。
 大会も近いことだし、俺には100mで全国1位になるという夢もある。
 そこへ向かって走る時に、目に入る景色を、一々のんびりと眺めている暇は無いのだ。

「よっしゃ! やるぞ!」
 気合と共に、俺はスタートラインの位置まで歩くと、

「月代! 合図頼むわー!」
 メガホンを取って、ゴールラインにいる一年生のマネージャー、
お団子頭の髪型の月代美由紀(つきしろみゆき)に声をかけた。すると、

「気合入ってますねー! 秋本先輩!」
 月代も同じようにメガホン越しに、こちらへ向かって答えた。

「あったりまえだ! 見てろよ、月代! 今日は、自己記録を更新してやるからな!」
 俺は大声で言って、若干乱暴にメガホンを放ると、そのまま前傾姿勢をとった。

「先輩ーファイトですー! それじゃあ、行きますよー! ……位置についてーよーい……」

『――パンッ!』
という、スターターピストルの音と共に、俺は跳ねるように地面を蹴った。
 風向きは追い風だが、あまり強いとかえって邪魔になる。
 
 俺は、重心がブレないように、腰幅二直線を意識しながら走った。
腰から降ろす足の動きは、地面に対する強い反発力となって、爆発的に身体を前進させていくが、
 しかし、それでもまだ俺は焦らない。
 高ぶる気持ちを抑えながら、徐々に上体を起こしつつ、後半へ向けて力を溜めていく。

 そして――充分に加速が付き、トップスピードに乗った60mライン。
そこで俺は、ここまで溜めていた力を一気に放出するように、
 突き出すようなストライドで、渾身のラストスパートをかけた。

 激しく風を切りつけて、流れる景色を置き去りにしつつ、
俺は弾丸のように、全力でゴールラインを駆け抜けた。

「――はあ、はあ、はあ……つ、月代……タイム……どうだった……?」
 ストップウォッチを手にした月代を見ながら、俺は呼吸を整える間もなく尋ねた。すると、

「……せ、先輩……あ、あの……タイムなんですけど……」
 不意に、聞かれた月代の表情が曇った。

「……ま、マジか。……結構、感触良かったと思ったんだがな〜。……まあ、仕方ないか……」
 全力で走った後の疲れも重なり、俺がガックリ肩を落とすと、

「――なーんて! ジャーン! これ、見て下さい! 先輩!」
 と、月代がストップウォッチの表側を俺に向けてかざした。

「……ん? ……あ……ああ……ああああー!!」
 俺はそこに表示されたタイムを見て、思わす声を上げた。そして、

「先輩! 記録更新ですよ!! 0.2秒も縮まってます!!」
 月代もピョンピョン跳ねながら、大きな声を上げた。

「うおおおおー!! やったぞ、自己記録更新したぞー!!」

 追い風だったとは言え、0.2秒もタイムが縮まったことの喜びは大きかった。
 俺はいつの間にか月代の元まで駆け寄ると、お互いの手を合わせながら一緒に飛び跳ねた。

「おめでとうございます! 先輩!!」

「おう! これで俺の全国への道が一歩近づいたぞ!! ……って……ちょっと、待て……」
 落胆からの反動による喜びが、あまりにも大きかった為に忘れていたが、
そもそも、月代は俺が最初にタイムを聞いた時……

「ん? どうかしましたか? 先輩」
 俺の怪訝な顔を見ても、月代はまるで何事も無かったように無邪気に尋ねてきた。

「お前な〜、どうかしましたか? じゃねーっての! 最初に俺が聞いた時、何で嘘ついたんだ!!」

「だってー。普通に教えたらつまらないじゃないじゃないですか。
最初にがっかりした分、喜びも二倍二倍ーですよ!」

「二倍二倍じゃねー! 一体いつのCMだよ! そんなの今時の高校生は知らねーだろ!」
 月代の微妙なボケに、思わず変なツッコミを入れてしまった。すると、

「先輩だって高校生なのに知ってるじゃないですか! ……っていうか、まさか!
せ、先輩って、実は本当は高校生なんかじゃ……ど、通りで、なんか、お顔がちょっと……」
と、月代は半眼になって俺を見ながら言った。

「……な・ん・だ・と? お前、俺がさり気なく気にしている顔のことを……!
……いいか、そこを動くなよ。今からお前の頭のお団子を、俺が串焼きにして食ってやるから……」

「え? や、ヤダ! や、やめて下さい、先輩! こ……この、お団子だけは……!」
 俺のオーラに気圧されて、月代が後ずさった瞬間、

「問答無用! 覚悟!」
 日々の練習で鍛えたカモシカのような脚力で、
俺は逃げようとした月代との距離を一気に詰めると、同時に頭のお団子を鷲掴みにした。

                      *

「ギャー! 食われる! 私のお団子が、先輩に食われるー!」
 捉えられた月代は、まるで兎のように跳ねまわり、俺の手から逃れようとして激しく藻掻いた。
 だが、その余りの暴れっぷりに、お互いの足が絡まって、
その勢いのまま、二人一緒にもつれるようにして、横倒しに倒れ込んでしまった。

「う、うわ!!」
 俺は倒れる瞬間、月代が頭を打たないように、抱え込むようにして後頭部と背中に手を回した。

「い、痛たた。……せ、先輩ごめんなさい。私、ちょっと、はしゃぎ過ぎちゃっ……」
と、月代が俺に向かって謝ろうとして、俺を見た瞬間、超至近距離で、お互いの目線が重なった。

「……つ、月代……」

「……秋本……先輩……」

 一瞬の静寂が流れて、俺はすぐにハッとなり、

「う、うわっ。わ、悪い!!」
 謝りながら、俺は月代を一気に抱え起こし、そして、すぐにお互いの体を離した。

「い……いえ……私の方こそ……」
 と、月代も気まずそうに謝った瞬間、ビュウと強い風が校庭を駆け抜け、
その勢いで、頭のお団子がほどけると同時に、髪の毛が、ふわっと左右の肩に掛かった。

「あ……」
 それを見た瞬間、俺は突然、胸を突かれるような感覚に襲われて、
その姿から、目を離せなくなってしまった。

 風が止み、静かになったグラウンドに残された俺と月代は、
再びお互いの方を向き直り、見つめ合った。そして、

「あ、あの、月……」
 俺が口を開きかけた瞬間、

「ああーーーー!!!!」
と、突然、月代が大きな声を上げた。
 すると、俺はその大声に狼狽して、

「な、なんだ?! ど、どうしたんだ?! お、俺は別に、な、何も!!」
と、釈明じみたような声を上げてしまった。すると、

「せ、先輩! 手、怪我してるじゃないですか!!」
と、月代は俺の左手を指さした。
 見ると、左手の甲に擦れたような傷跡が付いて血が滲んでいる。
 恐らくは、先程もつれて転んだ際に、月代の頭を庇う為に後頭部に回した手が、
地面に接触して傷ついたのだろう。

「い、いや……こんなのは大した傷じゃねえし。大丈夫……」
と、俺が短パンの裾で血を拭き取ろうとすると、

「だ、だめですよ! バイキンが入ったらどうするんですか!」
作品名:僕達の関係 作家名:maro