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瀬間野信平
瀬間野信平
novelistID. 45975
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火付け役は誰だ!(最終回)

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「………聞きたいんだが、お前は一体何時に起きて、いつから机で箸構えてスタンバイしてたんだ?」
「うーん、4時ぐらいかな!!」
「体内時計がお祖母ちゃん!?」
「大丈夫食欲は育ち盛りさ!!」
「まぁ実年齢はおば…分かった分かったから箸はダーツじゃないから構えるな。」

ちなみに時計は現在午前5時半。
朝食にしても物を食べるにはいくらなんでも早すぎると言いたいが既に穂子は準備済みらしい。
なにか悪い予感がして早く起きてしまったのだがどうやら虫の知らせは的確だったようだ。
そうじゃなくてまずおはようを言おうよ、いただきますとごちそうさまが全ての挨拶じゃ無いんだぞ穂子、と心で愚痴りながら、着替えを取りに向かう。
この俺の爽やかなる朝を見事に跡形残さず崩壊させたたこの妖精は既に昨日買い与えた一張羅(文字通りの意味で)に着替えて満面の笑みを浮かべている。
俺の専属妖精兼専属トラブルメーカー。
彼女は穂子、職業は自称妖精、現実的な意味では居候。
そして

昨日の初戦を一緒に戦い抜いた相棒。

「彦彦、何か言った?」
「エブリティングナッシング。ワタシエイゴゴワカリマセン。」

恥ずかしい独り言を聞かれかねなかったがカタカナ英語で罷り通る。
国際コミュニケーション能力なんて知らないのです、鎖国制度万歳。

「じゃあ食べられない英語話してないで食べられる英語でお願い!!」
「………物事を可食部かそうでないかで分けない方がいいと思うんだ。」

食べられる英語か何だかまずわからない上にイギリスの食べ物なんてオートミールぐらいしか知らない情報弱者火口星彦。
きっとオートミールとかを食べさせたりしたら色々と面白い反応をしそうだ、納豆も昨日何だかんだ言って食べていたから普通に平らげそうな気もするが。

「ところで穂子。」
「なーに?彦?」
「昨日の事なんだが、あれは…勝ったって事でいいんだよな?」
「何?勝ったけど何もしてないから戦勝祝いに学校サボって朝から焼き肉食べ放題だって?」
「色々言葉が付け加えられ過ぎて俺の発言の原型が迷子。」
「うわぁい今夜はすき焼きだぁいっっ!!」
「喜び方が昭和!?」

入学早々に学校を簡単に休みたくない上、夏休みも越えていない現時点での経済破綻はお呼びでないのだ。
お財布の中が冷えたとしてもこれからもっと暑くなる外気温は下がる訳がない、エンゲル係数は上がるかもしれないが。
まぁこの様子だと敵の本拠地(自宅)の破壊には成功したということなのだろう。
勝った割には何も得られていないのが気になるが、穂子も言っていた通りこれはバトルロワイヤル。
最後まで勝ち残らなければ何も得られないらしい。
このふざけた戦いを主催しているのが穂子の上司、カミサマ達なのか違うのか不明だが、主催者達からは少なくとも勝者に何も通達してきてはいない。
そのせいでさっきのような質問をしてしまったのだが。

「まぁ『ご通知』はまだこんな初めの方じゃ来ないかもねー」

どうやら一人言を聞かれていたらしい。
まだ冷たくて涼しい床の上でゴロゴロしている穂子が目を見てきながら言う。
あと二ヶ月もしたら文明の利器が24時間フルタイム稼働させられるだろうが今の春から初夏に移り変わる頃の朝は空気も清々しい。

「まぁ俺達は勝った訳だし何も心配する事は無いな!」
「そうだよ!だからお祝いに牛肉!!ビンタを張れるくらい厚い牛肉を頬張る事を要求するよ!ほらほら口が早くってむずむずしてるよ!!!」
「歯が痒いなら布団でも噛んでなさい乳幼児。」
「歯が生えたてで痒いんじゃなくて!!」
「まぁ冗談はさておき牛肉は無理だが後でケーキ位は買ってくるかね。」
「やったねケーキだケーキ!!何ホール??」
「ホールってなんだホールって!!1ピースだ勿論!!」

あくまでもこの食欲マシーンは家計を崩壊させようとしかしていない、ケーキをホールで買うなど一学生がしていたら来月は文字通りの水のみ生活まっしぐらだ。
というよりこの妖精、お祝いをしたいのか何かカロリーの有るものが食べたいのかどっちなのか、もはや後者にしか思えなくなってきた感があるのだが。

「…ともかく、まず朝食作るぞ。今日は妙に時間があることだしうどんと天ぷらにでもするか。あ、穂子は」
「私海老天といか天と鱚とそれから…それから…」
「…ok、天かすだな。」
「彦ッーーーー?!昨日の『ご飯一食自由権』はいづこに!?」

笑いながら、ふくれ顔になっている穂子の頭を撫でる。
下らないやり取りだけども、段々この関係もこなれたものになってきた。
…気がする、出会いから何からギャグ過ぎてまともな比較対象が無いが。
ただバトルロワイヤル(仮称)が終わったらこの日常はどうなるのだろう。

ふと考え付いた事だが予想以上に自分が動揺した事に更に慌てる。

「ん?彦どうしたの?殊勝な顔してるよ?」
「…なんでもない。」

そんな事今更だ、出会えば分かれる事ぐらい、穂子は少なくとも人間ではないのだから。
まぁこの形容しがたい気持ちをこのお気楽な妖精に話しても仕方があるまい、それに穂子にシリアスな顔は似合わない。
今はただ、このちょっとおかしな妖精と日常を笑って過ごせばいいのだ。

「…よし、じゃあまずやることをやってから飯にしよう。」
「ん?やることなんてあるの?」
「ゴミ出し、洗濯、部屋掃除。」
「うわぁいかにも世俗的。」
「仕方ないだろう、誰かさんが来てから部屋のキッチンは爆発するわ服を買われるわ戦いに巻き込まれるわで色々迷惑がかかってるんだから少しは働け。誰のせいだとは言わないけど。誰のせいとは言わないけど。」
「き…記憶に御座いませぬ…」

苦し気な顔をして横を向く穂子の頭を両のげんこつで横からグリグリしながら玄関に移動する。
いたいいたいと言いながらも逆らわない辺り穂子も罪悪感は感じていたらしい。

「とりあえず、今日は一緒にゴミ捨て行ってやるから場所を覚えろよ?」
「ふあーい。」

穂子のやる気のない返事を受けドアの鍵を開け、外に踏み出した。



と、思ったのだが。


「あらおはよう。」


ふと誰かの声が聞こえた瞬間強烈な下からのアッパーカットを一撃、火口選手、ノックアウト。
色々と事態が急展開し過ぎて頭がついていっていない、求む説明、出、誠意。



≡≡火付け役は誰だ!≡≡