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記憶の冥き淵より

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全てを読み終えた私は、ノートを閉じた。
ノートに記録された内容は、恐るべきものだった。
やはり兄は存在した。信じられないことに、母は兄を産んだとき、産婦人科にかからずに自分一人で産み、母子手帳の交付も受けていなかった。また、出生届すら、出さなかった。兄の母子手帳が無く、兄が戸籍謄本に記載されていなかったのは、そのためだった。そして、私の記憶とノートに書かれた内容で決定的に違っていたのは、母に虐待されていたのは私ではなく、兄だったことだ。
日常的に兄を虐待していた母は、ある真冬の夜、兄を家から閉め出した。翌朝、兄は玄関の横で膝を抱えて蹲ったまま、冷たくなっていた。

作品名:記憶の冥き淵より 作家名:sirius2014