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夜、汽車に乗って

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 二年前の夏、久しぶりに祖父の家に帰った。地元に帰っている間に両親が祖父の家に帰ると言うので、それに付いて行った形だった。祖父の家に行ったからといって、取り立てて何かする訳ではない。やることは地元と同じで、ゴロゴロしながら本を読んで過ごすだけだ。祖父とずいぶん会っていなかったし、小遣いを貰いがてら、顔を見せるくらいしておくかという心積りだった。その夏、ぼくは祖父の家に行き、一人本を読んでいた。それは日常の延長に過ぎず、ただぼくが日常を継続させる場所が異なるだけだった。
 ただ日常と異なる部分もあった。それは部屋が広いと言う事と、風呂が広いと言う事だった。普段百五十センチ四方風呂場でシャワーを浴び、湯船に浸かっている身に、のびのびとできる風呂場と言うのは大変に魅力的だった。だから祖父の家に滞在する間、ぼくの楽しみは主に風呂に入る事だった。夕飯を平らげ、一日の締めくくりと言う様に風呂に入る。体を一通り洗い、ゆったりと体を延ばして湯船に浸かるのは、とても気持ちよかった。
 風呂から上がると、祖父はたいがい客間に居た。そこでテレビを見ながら寛いでいた。ぼくも涼みがてら、しばらく客間のソファーに座ってクーラーで火照った体を冷やすのが常だった。そのおりに祖父と何か話したりするのかと言うと、そうでもなかった。だいたい二言三言交える程度。そんなものだ。時たまに、ぼくの学校の事や、ぼくのやっている学問の事やら、少し多めに話す事は有ったが、それもそう再々話し合うような内容でもなかった。だから祖父と話す事はあまりなく、ぼくも祖父もただぼんやりテレビを眺めているだけだった。
 祖父が陰気な質であった訳ではない。祖父はどちらかと言えば、陽気な人だった。しかし騒がしい人ではなく、口数はほどほどと言った風であった。ただ、ぼくが比較的無口な質であり、とりたてて誰かに話題を振ろうという意欲のない人間だったので、祖父の方でもぼくと何を話して良いのやらわからなかったのだろう。ぼくは、人と何かを語り合うのに意欲の薄い人間だった。と言うよりか、ぼくは人に向かい合う意欲の薄い人間だった。別に、人が嫌いだったわけではない。ただ自分の関心の多くが、一人で行う事に大半裂かれていたと言う事だ。そして祖父をどう思っていたかと言えば、ぼくは祖父が好きだったろう。とても、好きだったろう。


作品名:夜、汽車に乗って 作家名:七節曲