夜、汽車に乗って
列車の廊下は狭く、歩き難かった。個室の扉が並び、左右から壁が迫るような圧迫感があった。人とすれ違うときは壁に張り付く様にして横歩きをしないといけない。もっとも、滅多に人とすれ違う事などないのだけれども。そんな廊下を渡って、ぼくは自分の部屋を探す。狭い廊下に、自分の平衡感覚が狂わされて行くようで、歩いているうちにだんだんふらふらしてくる。ぼくは閉所恐怖症かなにかなのだろうか。左右に大分の余裕がないと、少なくとも一メートルくらいの余裕がないと気持ちが悪くなって来るのだ。早々に個室に入って横にならなければ。一番安いソロ室の3号車11番。そもそも、個室自体それほど無いのだ。だから、乗りこむ車両が違って幾つも車両を渡らなければ成らなかったという不測の事態の影響以外には、特に時間もかからずに自分の個室は見つかる。
切符で今一度自分の個室である事を確認し、念のためにノックをしてからスライド式の入り口を開けると一畳分の寝台に白いシーツというコンパクトな空間があった。小さな荷物を簡素な棚に置き、靴を脱いで個室に上がったら、さっさと扉をしめてしまう。膝で立ってコートを安物のハンガーに吊るしたら、後はもう寝転がってしまう。四方を狭く壁に囲まれた、やや高い天井。見ているのが嫌になって、横向きに成って鞄の中をあさる。常日頃から使っている愛用の鞄。その中の書類入れからA4の紙を一枚引っ張り出す。インターネットで調べてきた目的地の地図は鞄の中で収まりが悪かったのか幾らか折れ曲がって線がついてしまっていた。まあ見る分には支障ない。目的地。祖父の家。そう言えば、ぼくは何度祖父の家に行った事が有ったのだろうか。小学校の頃は毎年、高学年になってからは行かなかったか。だから四回。小学校の前は覚えていないが何回か行っていたと思う。中学校の頃は二回、高校の頃は一回、大学に入ってからは二回。すると、ぼくは十回くらいしか祖父の家に行っていなかったのか。そう思いながら、また小さな天井を見る。