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足軽物語

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 おっ、こいつなかなか持ってやがるぜ。こりゃあ、喰いつめて足軽になった奴じゃねぇな。へっ、御丁寧に胴丸に総兵衛って書いてあるぜ。余計なことしやがる。こういうのは、売っても買い叩かれる。死人の名前が書いてある胴丸なんて気味悪いしな。
 言っとくが、俺とおっさんはこれでも信念のある足軽なんだぜ? 飽くまで戦場だけで稼いでるからな。中には戦にかこつけて、商家に押し入って米や金を強奪したり、女を連れ去ったりする足軽もいるって話だ。お侍様がそう命令することもあるな。やれやれひどいもんだ。まさに世も末って奴だな。
 おぉおぉおっ!?
なんだこの脇差。金の細工だぜ。ひゅー、きれいなもんだ。へっへっへ、こりゃおっさんに隠してコッソリ売る分にしよう。へっへっへ。
 不意に、負けた連中が逃げて行った方向の喧騒が騒がしくなる。一斉に風を切る音が聞こえて来る。やばい。俺は考える間もなく崩れた屋敷の中に飛び込んだ。背後でズダダダダっと何かが地面に突き立っていく音がする。頭上の屋根(幸いにも屋根が残っていたんだ。無かったらと思うとゾッとするね)にもけたたましく落ちてきて生きた心地がしない。つーか、超怖い。屋根を突き破って来ないかと俺は油断なく目を走らせた。音が止んだ。どうやら死ななくて済んだようだ。
 外に目をやると地面一面に矢が突き立っている。矢ぶすまってやつだ。逃げた連中が時間稼ぎに放ったんだろう。俺が持ってきた仏さんは泣きっ面に蜂で、体に何本か矢が刺さっていた。良かったな、俺に殺されて。味方の矢で殺されたなんてなったら浮かぶもんも浮かばれねぇや。
おっさんは生きてっかな。俺はおっさんが死んでたらどうしようか考えながら屋敷から出ようとした。
「おい、小僧」
 屋敷の中から声がした。どうやら矢ぶすまから同じ場所に逃げ込んだ同類がいたらしい。そいつは奥の暗がりにいて下半身だけが見えた。俺と同じ足軽だ。草鞋に裸足で胴丸を着ているようだから見当がついたのだ。
「小僧、いいもん持ってるじゃねぇか」
 そいつは俺の持っている金で細工されたの脇差に目をつけたようだった。嫌なところを見られちまったもんだ。
「そいつを黙って渡しな。命まではとりゃしねぇよ」
「冗談じゃねぇ、あばよ」
 俺はとっくに逃げ出す準備をしていた。むしろ遅すぎだくらいだ。同業者は敵に決まってる。背中を向けて一気に駆けだした。もっとあの足軽の懐具合を確かめたかったが、命あっての物だねだ。
 でも、おかしい。腰を叩かれたと思ったら、急に力が抜けて俺は倒れちまった。そんな手足が届く様な距離じゃなかったはずなんだ。叩かれたところを手で探ってみると、何か細い棒みたいなものが突き立っているのがわかった。体と繋がっている部分が分かる。
 クッソ痛い。
 あぁ、そう言えば前の頭が言ってたっけ。相手が何の武器を持っているかよく見えない時は、とりあえず弓矢だと思えって。戦場で死ぬ奴は、刀で死ぬのでも槍で死ぬのでもねぇ、矢で死ぬんだって。本人は流れ矢で死んじまったんだから、確かにその通りだと心の底からうなづいたもんだ。
「へっ、馬鹿な奴だ」
 ほんとになあ。
 奴が近づいてくる。奴はうつぶせに倒れた俺の首に手をあてた。
 ふんっ、というそいつの気合とともに、首に後ろから何か刺しこまれてめっちゃ痛ぇと思った。いてぇ。いってぇ、な、くそ

作品名:足軽物語 作家名:小豆龍