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スーパーカミオ患者様

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「病院で人が死ぬのはおかしいでしょ?絶対に医療ミスですよ。訴えましょうよ。勝てますよ。私が弁護しますから」。だが、身寄りのない女性であることがわかると、「チッ」と舌打ちをして弁護士は立ち去った。

今度は別の弁護士が私のことを隠し撮りしているという情報が、事務職員からウェアラブル端末で私に伝えられる。「真田サン、とりあえず病院の霊安室まで悲しみ隊と一緒にそのお婆さんを見送った方がよさそうです。あとで画像をネットに流すと言って、強請られるかもしれません。いろいろ質が悪いと評判の弁護士ですから」。

お見送りを終えて、ようやく診察室の奥にある休憩室に移動した。私の仲良しのベトナム人看護師グエンさんと、フィリピン人看護師のジャニスさんとジュリアさんが、一緒に昼食を食べようと誘ってくれた。「真田サン、オ昼スルネー」と陽気に話しかけてくる。こんな殺伐とした職場でも、彼女たちは明るく仕事ができている。ちなみに、カンカミ法によって、医師に「先生」という呼称をつけることが禁止されている。

先生といえば、私たち医師と同様に冷遇されている学校の教員にも、「先生」とつけることがほぼ同時期に禁止された。逆に教員は生徒のことを「お生徒様」とお呼びして、敬語で話しかけることが義務付けられた。教員によるわいせつ事件を根絶するという目的で、全男性教員は去勢手術を施され、宦官となった。これによって教員による体罰も激減したが、逆に生徒による暴行や強姦におびえる教員が増え続けている。うつ病など心の病で休職中の教員は、全国で30万人を超えた。

さらには、隠れ日教保(にっきょうほ;日本教職員既得権益保全組合)である教育評論家のノギママこと乃木直子氏の提案により、「生徒様がいるから私たち教員は学習し、成長できるのよ。お生徒様が勉強をなさるお手伝いをさせていただくことで、私たちはお給料をいただいて、生活できるの。もっともっと、お生徒様を仰ぎ見なくちゃダメヨ~」ということで、卒業式では全教員がお生徒様の前で「仰げば尊し、わがお生徒様の御恩~」と歌うことが義務付けられた。

そのせいか教員志望の日本人学生は激減しており、ここでも中国人教師が激増している。まあ、学力では中国人留学生の方が日本人の大学生よりもはるかに高いのであるから、そういう意味では妥当なのかもしれないが。彼らの授業を受けた私の娘は、「太平洋戦争では、日本人は韓国と中国で30億人以上をレイプして、50億人以上を虐殺したんだって。ひどいよね」「沖縄や九州も、本当は全部中国のものなんでしょ。早く返した方がいいわよね」という日本の歴史を語ってくれた。

先日も中国人教師の歴史授業を聞いていた高校生が、授業中に「おれたち日本人はクズなんだ。生きている価値なんてないよ。みんなで死のうぜ」と叫んで、同級生を巻き込んで窓から飛び降り自殺を図るという悲惨な事件が発生した。

それにしても極端な世の中になったものだ。

さてさて、こうして外国人看護師に囲まれていると、フィリピンパブにでも来たような雰囲気だ。実際、彼女たちの多くは母国にいる家族に給料のほとんどを仕送りしており、夜は風俗でアルバイトをしている看護師も少なくない。

お昼のニュース番組を見ながら、持参した弁当を食べる。「真田サン、今日モ愛妻弁当?ラブラブイイネ」とグエンさんが冷やかす。最初のニュースは、おおぜいの人間をレイプした犯人が逃げ回っているというニュースだ。「昨夜、ある地方のある市町村で、ある性別の方がある性別の方々数名を次々とレイプなさり、そのままある乗り物である方向に立ち去られました。容疑者様は依然逃走されており、付近の住民の方は十分に気をつけてください」と報道している。ひどいニュースだ。この病院の近くで起きているのかもわからないのに、どういう犯人像かもわからないのに、何をどう注意しろというのだ。こんな報道ばかりしているせいか、今ではニュース番組の平均視聴率は1%に満たないらしい。

だが、こうなったのにも理由はある。平成37年に起きた「現代の八つ墓村事件」と呼ばれた猟奇的大量殺人事件だ。高齢化が進んだ東海地方の小さな村で、10人以上の高齢者が次々と殺されたその事件は、全国に衝撃を与えた。観光が主要産業のその村では、以前にも同様の事件が発生していたのだが、マスコミはそのことを必要以上におどろおどろしく報道した。そのため、その村の住民には精神異常者が多いという偏見が生まれ、村の観光客は激減した。視聴率を稼ごうと事件を過剰な演出で報道したマスコミは村民に訴えられ、マスコミ各社は多額の損害賠償金をこの村に支払った。

さらには、その時の逃走に使われた車種をニュースが連日報道したところ、「そのせいで同車種の売り上げ台数が激減した」と自動車メーカーも訴訟に踏み切った。

それ以降、特定の地域や職業などに対する偏見を生まないために、事件が起こった場所や、犯人(容疑者)の年齢・職業・性別・徒歩以外の移動手段など一切を公表しないことで、マスコミ各社は協定を結んだ。その結果、どのニュースも非常に抽象的な報道にならざるを得ないのだ。

テレビ番組に起こった変化はそれだけではない。「思いやり」や「配慮」を重視するPTAやカメサヨの熱心な運動によって、テレビドラマも大きく変わった。

たとえば、最近放送されたリメイク版の「銭形平次」では、銭形平次の投げ銭は子どもの教育によくないとの批判を受けて、平次が投げるのは銭ではなくて小石にするという設定に変更された。だが、今度は子供が真似て投石をするとよくないというクレームがついて、再び変更を余儀なくされた。また、帯刀は銃刀法違反であり、やはり子どもの教育上良くないという理由で、刀と十手も取り上げられた。その後、けん玉であればひもで回収するので環境にも優しく、イメージが良いからということになって、平次がけん玉を使って悪党を倒すストーリーに書き直されたが、一部のけん玉愛好者が「けん玉のイメージが悪くなるから、止めてくれ」と被害者の会を立ち上げ、再び暗礁に乗り上げた。そこで、かつてスケバン刑事でも使われたヨーヨーであればよいだろうということになり、今度はヨーヨー関連の各団体からの承諾も得て、銭型平次はヨーヨーで盗賊を捕まえる時代劇として生まれ変わった。これが意外なヒット作となり、ヨーヨーが飛ぶように売れると、「けん玉を採用しなかったせいで、けん玉業界は多大な損害を受けた」として、今度はけん玉関係者が50億円の損賠賠償を求める裁判を起こし、現在も係争中である。

ちなみにその後、平次がヨーヨーで盗賊を倒すシーンが子どもの教育によくないとされ、平次は盗賊がケガをしないようにそっとヨーヨーを投げ、それがちょっと当たっただけで盗賊は降参し、基本的には話し合いで和解の道を模索して、盗賊はみんな心を入れ替えて江戸の町をよくするために働くというストーリーで決着した。さらに最近では平次と盗賊がヨーヨーのテクニックを競い合い、平次がそれに勝って盗賊が降参するという意味不明なストーリーになっている。「何で江戸時代の盗賊がヨーヨーせなアカンねん!」なんてツッコミは、炎上するのが怖くて誰もできない。
作品名:スーパーカミオ患者様 作家名:真田信玄