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かいかた・まさし
かいかた・まさし
novelistID. 37654
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私をスキーブームの時代に連れてって

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「え、それって、どういうことなんですか?」
「これは俺が大学にいた頃、東南アジアに行って、現地の搾取児童の救済ボランティアに参加した時に撮った写真なんだ」
「え、そんなボランティアに参加していたの?」
と涼子は思わず驚き口走った。父に対して話すような口調になった。
「ああ、それのどこが悪いんだ?」
「だって、一流商社に勤めているんだし、そんなことをしていたなんて」
「一流商社か。現地では、そんな企業が生産を外注した工場で、こんな小さな子供たちが過酷な労働を強いられている。朝から晩まで休みなく、怠けようものなら虐待を受けて死んでしまう子もいるんだ」
 純平は語気を荒げた。こんな父の表情を見たのは初めてだ。
「もう、そのボランティアには参加しないの?」
「したいけど、もう会社に入った以上、抜けられないしな。そんな暇ないよ。仕事、仕事で。金儲けに明け暮れろってさ。支援団体のスタッフにならないかって誘い合ったけど、そんなところ勤めたって、生活していくだけでやっとだろう。それに一度そういうところで働くと、日本では会社勤めなんてできなくなってしまうだろう。景気が良くてさ、俺のような三流大出でも一流商社から内定貰えたんだ。しっかりとサラリーマンやらないともったいないだろう」
 純平は、素っ気なく言い放った。そして、そそくさとその場を去った。涼子は呆然として父の去っていく姿を眺めた。
 涼子は、父が搾取児童の救済ボランティアに参加していた事実に衝撃を受けた。涼子の知る父では絶対に考えられないことだった。所詮はしがないサラリーマンにしか見えなかったが、実はそんな思いを秘めていたなんて。
 ふと、涼子は考えた。父が、なぜいつも不満げな表情で過ごしていたのか、何が不満だったのか、その一端がみえた気がした。
 仕事が夜遅くに終わって部屋に戻る。宴会があり、その後の宴会場と調理場での片づけに大変手間がかかった。いつもより一時間ぐらい遅れて仕事が終了。雪子が待っていて、一緒にお風呂に入ろうと誘いをかけた。今は、すでに午後十一時。従業員が大浴場に入浴してもいい時間だ。
 昨夜と一昨晩は、従業員寮の小さな内風呂に一人で入った。別にそれでも、構わなかったが、せっかくの温泉浴場付きのホテルにいるのだ、従業員でも客がほとんど使わなくなる時間帯なら使用してもいいというのだから、使わなければ損なのだろう。
 それで、浴場へ向かうことに。浴場へ向かう廊下で、雪子は涼子が純平に顔を合わしてどうなったかを訊いた。雪子は、言われた通り感謝と謝罪の意を表すこと、両方を純平に対ししたと、ただそれだけ伝えた。それだけで何も聞き出せなかったし、起こりもしなかったと。純平が、搾取児童の救済ボランティアに参加していたことは敢えて話すこともないと思った。
 浴場の入り口のところで、二人は純平に出くわした。浴衣姿の純平がタオルを持って入ろうとする。
「こんばんは」
と雪子、嬉しそうに声をかける。純平は、「あ、どうも」
と素っ気なく言い会釈。そのまま男湯へと入っていった。
 涼子と雪子は女湯に入り、脱衣所で服を脱ぐとさっさと浴場に入っていった。中はがらんどうだった。二人だけで広い浴場にゆったり浸かれる。涼子は、温泉なんて久しぶりだと心が躍ったが、涼子以上に、なぜか雪子が何倍も嬉しそうな表情をしている。
 まあ、疲れを癒せるのだからなのだろうが、さっき純平とばったり顔を合わせてから、突然、表情が明るくなりるんるん気分を見せている。
「ねえ、露天風呂の方に行きましょう」
と雪子が誘う。涼子は、何気なくついていったが、しかし、こんな夜遅くになって屋外の露天風呂なんて、雪降る季節の志賀高原の夜遅くだと、気温は氷点下だ。湯に浸かるからといって、露天風呂に行きたいと何て誰が思うだろうか。
 思った通り、空気が冷たい。何とか肩から下が湯に浸かっているからしのげるものの、湯から体を起こして空気に触れたいとなんて思わない。
 雪子が、にんまりとして言った。
「ねえ、知っている? ここの浴場は露天風呂で男湯とつながっているの。つまり露天風呂は混浴なのよ」
 涼子は、雪子が何を考えているのか分かった。雪子は湯船の男風呂側に向かった。何と大胆な!
 涼子は、何気なく後を追う。丁度、岩場の身を隠せるところで止まり、雪子の行動を眺める。すると、純平が見えた。露天風呂の湯船でゆったりと湯に浸かっている。たった一人で。男湯も誰もいない状態のようだ。
 すると、雪子が大胆にも近付いてくる。
「ねえ、湯加減はどう?」
と純平に声をかける。純平は、おったまげた反応をする。素っ裸の雪子が湯に浸かった状態で目の前にいる。
「ああ、いい気分だけど」
 顔が真っ赤になり照れ顔だ。とっても恥ずかしい気分のようだ。父も当然、素っ裸でタオル一枚もない。
「スキーは楽しんでいるのかしら」
とさらに雪子は話しかける。
「ああ、まあね」
と顔は雪子の方を見ないようにしている。すると、雪子が純平の方へ体を動かし、見つめさせようとする。
 涼子にとって、母のこんな大胆な行動をみるのは生まれて初めてだった。こんな迫り方をするなんて涼子の知っている母では考えられない。若かかりし頃で、それも父に迫る時は、こんなにも大胆になれたのか。
「悪いけど、俺、部屋に戻らなければ」
と突然、父が言い、湯船から出て、屋内の浴場へと慌てて移っていった。
 雪子は、その全裸で湯船から出ていく父の姿を見て、手応えありの感でにんまりの表情を作った。
 涼子は、なぜかそんな姿がほほえましく思えた。父と母の思わぬ姿を目撃してしまった。

 翌朝、涼子は雪子に頼まれごとをした。レストランの仕事の代わりに、雪子のスキーレッスンの補助役として参加して欲しいとのことだった。
 支配人の方には、その日と明日、涼子を借りれないかと頼み込んだと言う。ならば仕方ないということで、スキーウエアとスキー用具を身につけ、スキー場へ。
 どうして、こんなことを頼むのかというと、何でも雪子の担当しているレッスンは主に女子社員が相手なのだが、あまりにも下手過ぎる面々がいて、その手本になるように滑って欲しいとのこと。あまりにも下手すぎて自分が滑り方を見せても分かりづらいだろうから、どうせなら手本になるスキーヤーが別に必要になりそうだということだ。
 滑るところも初級コースのみで平坦で、簡単な滑りのみを教えるのでいい。板が滑ると体が固まって、こけないと停止ができないような連中が相手だ。
 涼子は、言われた通り、滑ったりターンをしたり、ボーゲンの形を取って止まり方などを実戦して見せた。実に簡単だが、そんなこともできないほど運動神経の鈍い女性たちが参加をしている。
 涼子を手本にする指導は、見事に効果をあげた。こけてばっかりで怖がっていた女性たちは、すぐにこつをつかみ、基本動作をこなすようになった。
 何だか母と娘でスキー指導するなんて不思議な気分であった。
 丁度、午前のスキーレッスンが終わりかけた頃、数人のスキーヤーのグループがあり、その中で純平が滑っている姿が見えた。