forget
これからも、時間があったら寄って行く。
…意味が、わからない…
今までそんな事、言ったことなかったじゃないか。急にどうして。
思い出した記憶の欠片は、全部自分の言葉だ。
それはいつのだ?どんな時に言っていた?
記憶の中の自分は、とても怒っている。
ん?いや、怒っていない、悲しんでる。
どうして悲しんでいる?
滝夜叉丸の顔も、変に歪んでいる。
いつも綺麗で整っている顔が少しだけ、歪んでいる。
耐えているのだろうか。すごく無理をしているように見える。
「…ああ、確か、わかったはず……」
その時の私はきっとわかっていた。
そうだ。今までずっと一緒にいて、ずっと好きだったのだから。
ずっと見ていて、ずっと寄り添っていたから、
ある程度滝夜叉丸が考えていたことは言わなくてもわかっていた。
だからその時言った言葉の意味をちゃんと解釈して、受け入れたはずだ。
それを今でも実行しているはずだ。
でもその内容を、忘れてしまっていた。
いつの間にか身体に染み渡っていて、普通になっていたのだろうか。
普通になっているから、わからないのだろうか。
………………。
「ああ、全く思い出せない」
私はこんなにも鳥頭だったのか…。
思い出せないことだらけじゃないか。
仕事に関しての記憶はちゃんとある。先輩に徹底的に叩き込まれているからだ。
でも滝夜叉丸の記憶が全くない。
好きな人の記憶は、徹底的に頭に残しておこうと、日々思っていたのに。
好きなのに。好きなのに。好きなのに。
好きだったのに…。
私はいつの間にか歩みを止めていたらしい。
考えることに没頭していたからか、その場に立ち尽くしていた。
肩に薄く雪が積もっている。
地面を蹴ろうとは思わなかった。
身体が勝手に足を動かすのを拒んでいた。
疲れたのだろう。
私は動く時は限界まで動いて、その後は倒れてしばらく身体を動かすことができなくなるような。
限界の一歩前を察することができない性質らしい。
今のもきっそそれだ。
動かしたのは、身体じゃなくて脳みそだけど。
きっと、身体よりも脳みそを動かすほうが私の体質的に難しいらしい。
動かすのを諦めて、空を見る。
鉛色の空、そこから深々と降りてくる雪。
「滝夜叉丸。滝夜叉丸…」
お前は私と過ごしたことを覚えているのだろうか。
私の頭の悪い発言も、一つ一つ。
お前の中には、まだ私はいるのだろうか。
「滝夜叉丸、滝夜叉丸……」
ゆっくり、確かめるように言う。
私の中には、もうお前はいないのだろうか。