forget
いいえ、駄目です。来ないでください。忘れてください。どうか。
あなたは、やっぱり、元気な孫に囲まれて一生を終えるべきなんですよ。
私は、叶えられないです。すみません。だから、もう、
「……そうか……」
最初から、ちゃんといたんだ。
忘れてください。会いに来ないでください。
最初から、ちゃんと私の中には、お前がいたんだ。
いたのに、その言葉に縛り付けられて、閉じ込めていたんだ。
今、少し思い出せた。
私の記憶のどこに滝夜叉丸がいる?
今どこから引っ張り出した?
きっと見つかれば、すぐに思い出せるはずなんだ。
どこにいる?
どこにお前がいる?
涙が出てきた。
「見つからな…い……」
ここにいるはずなのに。ここにいるはずなのに。
私を今まで縛り付けて、私の中の滝夜叉丸を閉じ込めている言葉。
それを手繰り寄せていけば、見つかるはずなんだ。
滝夜叉丸が見つかるはずなんだ。
忘れてください。会いに来ないでください。
分かっていたんだ。
本当はそんな事、微塵も思ってないくせに。
ずっと傍に居たいとか、言いたかったくせに。
その言葉の裏とかわかっていたんだ。
どうせ、七松先輩の為とか勝手に思って、そう言ったって事。
でもそれだけ、私の事を考えて、想って、そう言ったのだから、受け入れないとなんだなと思って。
……わかった……
そう言った。
滝夜叉丸について思い出せなかったのは、滝夜叉丸がそう言ったから。
恋しかったくせに、今まで会いに行かなかったのは、滝夜叉丸がそう言ったから。
全部全部、滝夜叉丸がそう言ったから。
言いなりという訳じゃない。あれは唯一の我儘だったんだ。
だからあんな言葉も、受け入れようと思っただけ。
足を動かそうと思ったら、今度は簡単に動いた。
そして地面を蹴った。
向かう先は、城ではない。
滝夜叉丸に会いに行こう。
雪道だから、走る音はとても静かだった。