forget
寒いな。
体温が高いと自負しているが、さすがにこの気温だと堪える。
…そうだな…。
forgot
いつ頃の記憶だったか。
忍術学園にいた頃だという事はわかる。
隣に滝夜叉丸がいたことも確かだ。
寒かったということも覚えている。
自分が発した言葉も覚えている。
でもその隣にいる人物の返答の言葉が思い出せない。
寒いな。本当に寒い。
あの日みたいな、雪が降り積もっている寒い日。
重い雲がかかっていて、昼だというのにすでに暗くなっている。
寒い。本当に寒い。
冷えた手を温めようと吐いた息が白い。
そして今、羽織るものは何もない。
いくら体温が高いと自分で思っていても、これぐらいだときつい。寒い。
今思い出している記憶の中の私は、とても温かい思いをしていたような気がする。
今日のように寒い日だったはずなのに、温かかったという記憶がある。
それはどうしてだっただろう。
むむむ…
隣には滝夜叉丸がいた。
こんな寒い日に外に出て、どんな事を話していたっけ。
滝夜叉丸は何を言っていたっけ。
私のこの言葉に対して、なんて反応していたっけ。
全く思い出せない。
自分の言った事はかろうじて記憶の引き出しから引き出すことができたけど、
滝夜叉丸の言った事はどこを探しても見つからない。
かろうじて、その時手を繋いでいたことを思い出した。
とても温かい。
そうか、手を繋いでいたから温かい思いをしていたのか。
…いや…それだけじゃない。
心身共に温かかったんだ。
手だけじゃないんだな。
心も?じゃあどうして心も温かくなっていた?
思い出せない。
思い出そう、思い出そう、駄目だ。見つからない。どこにもない。
こんなことを延々と繰り返しながら、雪道を歩いていた。
向かう先は、自分の今の居場所であるとある城。
頭が悪くても、身体能力がずば抜けていたおかげで、
その城の忍者隊ではすぐに結構いい位置に就くことができた。
今さっき忍務が終わり、その報告をしに城に戻るのだが、予定よりも些か早く終わったので、
こうして歩いて帰る余裕が出来た。
息を吐く。白い。この白さが今の寒さを物語っている。
寒い。本当に寒い。
あの時の私は、心も身体もどうしてそんなに温かい思いをしていたんだろう。
心が温かかったのは、
隣に滝夜叉丸がいたからだろうか。
今の私の隣には誰もいない。
今まで当り前に感じていた感覚が消えてしまってから、どれぐらい経ったっけ。
卒業したのは春だ。そして今は冬。
準備とか色々忙しい事がありすぎて、忍術学園に顔を出すこともできなかった。
そのせいで今この時まで、愛しいあの顔を見ることもできなかったのだ。
というか、
「…行かなかったんだっけ…」
行かなかった、ような気がする。
あれ、思い出せない。
どうして行かなかったんだっけ。