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ブリュンヒルデの自己犠牲

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「ガーネットアイかあ……。確かにそんな色だよねっ。深みのある赤でさあ。でも羨ましいなあーー。宝石みたいな瞳を持てるなんて女の憧れだよおーー。金髪碧眼も良いけど、あの赤く染めた髪ともマッチしてるしーー。それでいてウォーカーのエースパイロットだなんてカッコ良過ぎるよねっ。明日香っち美人だし、女の嫉妬なんてどっかに飛んで行っちゃいそうだよっ!」
「ほんとにそうよね。実際、明日香さんて女の子にも凄い人気があるのよ。強いしキレイだし真面目で――、それに意外と優しいのよ」
「優しい!? マジかよ? 俺をこんな目にあわせておいてか?」
「ふふふ……、男の人にはちょっと厳しいかもね? でもそうゆう処が好きだって男子も多いのよ」
「ええーー、そうなんだあーー! でもカオルーン、どうしてそんなことまで知ってるのーー? ひょっとして明日香っちと知り合い――?」
「ええ、昔から親同士が知り合いだったし。それで明日香が――」
 その時、匂宮は突然ハッと口をつぐんだ。「薫――」と自分を呼ぶ声が聞えたからだ。
「あ……明日香……!」
 思わず俺達も振り返ると、当の噂の本人である明日香が俺達の元へやって来ていた!
うっひゃあーー。バツが悪いとはこのことだ。別に明日香の悪口――、いや、匂宮はむしろ明日香を褒めることさえ言っていたが、本人を前にしては何とも言い難い。
「……薫、たとえ事実とは言え、あまりわたしのことは話さない方が良い。昔の話を掘り返すことになるからな――」
「……そうね……。明日香、ごめんないさい……。気を付けるわ……」
 何だ? 匂宮の昔の話って……? それに明日香のやたら偉そうな言い方に、匂宮が謝ることも気になる。二人の間に重い空気が流れるが、春菜は明日香を見るや、ミーハー心丸出しで大声で騒ぎ出しだ。
「きゃあーー、明日香だ、エースの明日香だあーー! ねえ、ねえ、今、明日香っちの話をしていたんだよーー。火鷹っちをやっつけた技がすごいってえーーっ」
「そうそう明日香ちゃん! 神眼マジパねえってさあ! すげえよ! 一体、どんな技で火鷹のアホを倒したんだよ!? 教えて下さーーい!」
空気を読まない春菜と一馬がすかさず匂宮をフォローする!
天然とは言え偉いぞ! お前等の馬鹿さ加減に感動するぜ! うう……涙が出そうだ!
「ふん、そうか――。ならば火鷹、何かこの神眼の秘密が分かったのかな? わたしも是非話を聞きたいものだ」
 明日香は軽く微笑みながら、俺に問いかけた。その明日香の余裕の笑みに悔しくもあったが、負けた上に何も分からねえんじゃ言い返せる訳もねえ。
「ちっ……、分からなかったよ……。俺にはお前の動きがまるで見えなかった……。俺が見えていたのは、円月殺法みたいにお前が手を回している処までだったよ……」
「円月殺法……。呆れてものも言えん――。その様な時代劇を真に受けているとはな。夢と現の区別も付かないとは愚かとしか言う他はない――。火鷹、わたしは悲しいぞ――」
明日香はやれやれとばかり端正な顔のまま苦笑した。失望したと言いたいのだろう。だがその苦笑すら、やもすると喜んでいる様にも見える――。チクショウ、一々鼻に付く女だ。
「火鷹、お前なら多少は見えると思い、あの技を見せたのだがな――。
 ふふふ……、どうやらお前とパートナーを組むことは期待外れに終わりそうだな」
「……チッ、そこまで言う事ねえだろうよ……」
俺は軽く睨みながら言うが、明日香は歯牙にもかける様子もない。
「ならば、人の噂もほどほどにしておくのだな。わたしもあまり気分が良いものではない――。まあ良いだろう。火鷹、明日わたしに付き合ってもらう。姉上がお前に話があるそうだ」
「千鶴さんが? 一体何の用だってんだ?」
「それは今話す必要ない――。ただこれだけは言っておこう。今回お前がこの学院に入学した件については姉上も一枚噛んでいる」
「えっ? 千鶴さんが? 俺の入学に?」
「そうだ。それにお前とパートナーを組む件も姉上からの頼みでもある。故にわたしもお前と組むことに、もう私情は挟まん。だからお前も姉上の命令には従ってもらう。異存はないな――?」
 どうやら明日香は一切俺の疑問に答えるつもりはないらしい。しかし俺がこの学院に入れたのも千鶴さんのお陰って何だ――? そんな疑問が頭を過るが、どっちにしてもコネ入学の俺に異を唱える権利などなさそうだった。
俺は「ああ、分かったよ……」と適当な返事をするしかなかった……。



* * *


『チーム・ガーネット結成』


「おい、ちょっと待て。何でお前らが付いて来るんだよ」
 土曜日の放課後、俺と明日香が千鶴さんとの待ち合わせ場所へ行こうとすると、春菜と一馬が勝手に付いて来やがった。これ幸いにと俺の後をこっそり付けてきたのだ。
「お前達は呼んでいない!」と、明日香がにべもなく言うと、
「いいじゃーん、カオルンもお呼ばれしたんでしょうーー?」
「そうだ! 火鷹が一人、女の子の囲まれるなんて許せ―ん!」
 と、ガキみたいな事を言って無理矢理付いて来やがる。何でも明日香の話では匂宮は千鶴さんとも面識があるので、俺達がつるんでいることを知ると、匂宮も一緒にと誘ってきたらしい。
匂宮も自分を引き合いに出され、「ごめんなさい。わたしからも千鶴さんにお願いするから――」と言うので、
「薫がそう言うのなら仕方ない――。だが姉上が断るなら、帰ってもらうぞ」と千鶴さんの同意を条件に仕方なく明日香も認め次第だ。
「分かってるよーー。邪魔はしないからさっ!」
「ツイてるなあーー。明日香ちゃんのお姉さまもこの学院じゃ超有名なんだろ? 仲良くなりてえしさあーー」
 まあ二人の気持ちは分からんでもない。千鶴さんは明日香の様に世界レベルで有名って訳じゃないが、この学院の3年生の中じゃトップクラスの成績を持つ才媛として誰もが知っている。推薦組の俺たちから見れば雲の上の存在だ。そんな彼女と知り合いになって、損になることなど全くない。それに純粋に先輩から色々話も聞いてみたいのだろう。
でも一体、千鶴さんは何の話をするつもりなんだ? 何か重要な話でもするかと思いきや、明日香から待ち合わせに指定された場所は学院の近くの海の見える公園。天気の良い土曜日の午後ということもありカップルだらけだ。訳が分からなくなってくる。
「おい、明日香? 何でこんな処なんだ?」と聞くと、どうも明日香もこの場所に来る様にとだけ言われたらしい。流石に何故なのかと怪訝な表情をしているが。
 そんな公園の桜の木の下で、白鳳学院の制服を着た女子が手を振っていた。
「明日香ーー! 火鷹くーん! こっちよーー!」と、明るい声でにこやかに迎えてくれるその人は、大分雰囲気は変わっているが、間違いない。千鶴さんだ!
「火鷹くんに薫さん、今日は来てくれてありがとう。それにしても火鷹くんとは2年ぶりかしら? しばらく会わない内に大きくなって――、それにカッコ良くなってくれて。フフフ……、わたしもうれしいわ――」
「あ、ありがとうございます。そりゃまあ高校生ですし――」