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ブリュンヒルデの自己犠牲

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そして炎と黒煙の中で血に塗れ横たわる明日香の姿――。
絶望から自らの命まで絶とうとした明日香の姿が――。
背中が震える……。足が竦む……。手に力が入らない、動けない……。
「明日香……、頼む、逃げてくれ……。闘える訳ねえ……」

 ―――怖いんだよ―――

 俺は小さな声で呟いた……。
そう、決して俺が口にしてはいけない言葉を――。怖れを知らぬジークフリートになるとあの時、明日香と誓ったはずなのに――。
『……火鷹、君は何も怖れる必要はないよ――。君は敵を怖れず闘ってくれた――。勇気を以ってわたしを守ろうとしてくれたじゃないか?』
「無茶を言うな……。今までとは違うんだ……。今度は俺がお前を殺しちまうかも知れないんだぞ……。闘える訳ねえじゃねえか……」
『火鷹……、冷静に考えて欲しい……。もしわたしが捕まった時のことを――。わたしは決して無事でいられない。ならばわたしは君の手かかることを望むだろう――』
「おい、止めてくれ! そんなことを言うのは……。お前を殺せる訳なんてねえだろう……? 頼むから逃げてくれ……」
『何だい、火鷹? 本当に怖いのかい? 本当に震えているのかい――?』
「……ああ、怖くてたまらねえよ……。震えてるよ……」
『ふふふ……、銃弾も怖れず闘ってくれた君が、今更怖いとはね――。
しかし火鷹、それは違うよ――。
今、君が感じてるものは怖れではない。わたしの身を案じての優しさ故のものだ――。
君は優しく、そして強い――。そんな君をわたしは信じている――。
だから怖れずに闘って欲しい。勇気を以って闘って欲しい――。
そしてわたし達に万が一のことがあっても後悔しないで欲しい――。
たとえどんな結果になろうと君を恨むつもりはない。

だから火鷹……、わたしの愛するジークフリートよ――。
わたしのために闘って欲しい――!』

 ジークフリート――――。

 その明日香の言葉を聞き、俺の心が震えた。そして熱く燃えた!
そうだ、俺は明日香のために約束した! そして誓ったんだ!
ジークフリートになると――。そして明日香を守ると――!
結果を怖れるな! 未来を怖れるな!
たとえどんな残酷な結果になろうと、怖れをなし闘えないことなどあってはならない!
そしてその結果を後悔してはならない!
俺は心の中でジークフリードの仮面を被った!

SIEGFRIED, NO FEAR.[ジークフリート・ノー・フィアー]
”怖れを知らぬジークフリート”

俺は剣を持つ手に、盾を持つ手に力を込めた!
その力に身体を包むリンカーが反応し、ウォーカーのモーター音がコックピットに木霊する!
ウォン、ウォン、ウォン――。
"Main Monitor, Lock on the Walker and Chase it!"
メインモニターに敵のウォーカーをロック! これでどんなに動いても敵のウォーカーを捕捉し続ける!
"Monitor 2nd, Lock on the human and Chase it!"
そして明日香をサブモニターに固定する! いつでもお前を見ているために――。そしてお前を守るために――!
"Machine Walker, Battery oversupply to the Legs!"
ウイイィーーーン!
脚部のモーターの電圧を上げ、モーターの高速回転音が唸り声を上げる!
"Sub monitor 3rd, Zoom and widen. chase the enemy Walker and humans."
そして俺はモニターで退却する警官等を注視した。
怪我人を担ぎながらの脱出だ。逃げるのだって簡単な話じゃあない。
もし敵のウォーカーが動いたのなら――、もし警官等がこの道路から退避できたら――、
俺は明日香の命を懸けて戦わなくてはならない――!
ウイイィーーーン!
俺の動きに反応し、敵のウォーカーもモーターがうなり声を上げる。
ちいっ! 当然だ! 俺が動けば敵も動かざるを得ない! 決断を迫られる!
だが逃げるのか? それとも闘うのか? その選択次第で明日香の運命は決まる!
そして残る最後の一人が装甲車から救助された時、敵のウォーカーが剣と盾を構えた!
敵が、一歩前に踏み出す!
ガシイィーーーン!
その瞬間、敵がアスファルトを蹴り一気に突進してきた! 
俺に向かって、そして明日香に向かって――!
ガシン、ガシン、ガシン、ガシン――!
てめえ、怪我人が逃げるまで待ってたのかよ!。嫌いじゃないぜええーーー!
『火鷹ーー! 来たぞーー!』
 ヘッドフォン越しに明日香の声が聞こえる!
「おおう、行くぜ――! 明日香、見てろ――!」
 俺はその刹那、脚のリンカーを全力で蹴った!
同時にウォーカーもその強大なパワーでアスファルトを吹き飛ばす!
ガシン、ガシン、ガシン、ガシン――!
俺も走る! そしてウォーカーも俺の動きに応え、地を揺らし疾走する!
だが走ると言っても簡単じゃない! 路上は装甲車やパトカーで溢れている! これに躓いて転倒すれば、命取りになりかねない! 足元のモニターを見ながら、装甲車をかわしパトカーを潰し、ステップを踏みながら走る!
ラン&アタック! そしてスピードでの勝負だ――!
明日香や千鶴さんを巻き込まないためにも、出来るだけ敵に近い場所で闘わなくてはならない!
一秒でも早く! そして一歩でも前にだ――!
『火鷹――!』
ドスウウーーーーン!
俺は盾を捨てた――! 車1台分を優に超えるウォーカーの盾が地面に突き刺さる!
盾を捨てれば、戦闘での不利は避けられない!
だがウォーカーが身軽になる! ウォーカーの走るスピードが加速する!
そして少しでも早く敵の処へ、そして明日香から離れた処で闘うことが出来る!
ウォーカーの足元のモニターに明日香が映った。千鶴さんに抱き締められ、二人で俺のウォーカーを見ている!
俺は明日香と千鶴さんを飛び越す様にジャンプした!
着地と同時に再び地面を蹴り、ウォーカーを加速させる!
 ガシン、ガシン、ガシン、ガシン――!
 敵も一直線に、俺と明日香の元へ突進するだけだ!
 こんな一対一の状況で、一秒を争う状況で策などあるはずもない!
元よりこの狭い道路! 剣技も、ウォーカーの操作技術も関係はない――。
盾と盾を――、そしてウォーカー自身を敵にぶつけ叩き潰すしかない!
力と力! スピードとスピード! 真正面からぶつかり合うだけだ!
ウォーカー同士の突撃は、運任せのギャンブルになる!
 だが俺には神眼がある――!
サブモニターで足元の障害物を避け疾走する! 盾さえも捨てた! スピードが違う!
別のモニターで敵との距離をリアルタイムで測る! 間合いが手に取るように分かる!
 メインモニターで敵の動きを! 神眼の動体視力が、敵の動き全てを捉える!