ブリュンヒルデの自己犠牲
だが神眼の広域視界で複数の視認識情報を同時に処理する事が出来れば、ウォーカーの操作能力は飛躍的に向上する。
そして実戦であれば、神眼の能力は尚更重要な意味を持つ。実戦で正面を向き合っての一対一闘いなどあるはずもない。人間の死角である、左右、そして後ろからの攻撃もありうる。だが神眼があれば、背後からの攻撃さえも瞬時に察知することも可能だ――。
わたしはジークフリートの様に背後を突かれ、この様な結果となってしまったが、ウォーカーに乗れば君は負けることはない!
この神眼は君の最強の剣となり、時に君を守る最強の盾となってくれるだろう――。
火鷹……、父さまや母さま、そして姉さまが作ったこの神眼を受け継いで欲しい――。
そしてわたしに代わり、空を飛んで欲しい――!
火鷹! 君は無限の可能性に満ちている!』
俺はこのジークフリートの多面モニターで明日香を――、そして二台の敵ウォーカーを同時に見た――。
これから俺は二機の敵を倒し、そしてなおかつ明日香を助けなければならない! 敵を一機撃破し勝機こそ見えたものの、決して簡単な話じゃない――。
だが、四の五の考えることは間違いだ!
何より俺は急がなくてはならない!
悠長に闘い、向こう側にいる敵が加勢に来れば、二対一の闘いになる!
神眼があるとは言え、二対一での剣の闘いは圧倒的に不利だ! この狭い道路ではフットワークも使えない!
時間が立つ程、不利になる! これは間違いのない事実!
危険だがやるしかない!
俺は左右の剣と盾を持ち替えた!
左手で剣を持つサウスポースタイル――。
敵の盾の無い――、剣を持つ側を攻撃するためだ。だが敵ウォーカーの機体を直接攻撃しやすくなる代わりに、こちらも攻撃を受ける危険性は格段に高まる!
緊張が高まる――。いや恐怖で俺の心が冷たく震えるのが分かる――。だが迷い躊躇するわずかな時間も許されない! 何より明日香をこれ以上危険に晒す訳にはいかない!
一瞬で――、一撃で勝負を決める必要がある!
明日香、待ってろ! 今助けてやるからなーー!
行くぞおおーーーー!
ガシン、ガシン、ガシン、ガシン――!
俺は敵に向かってウォーカーを全力で走らせた!
敵の反応が遅い! 闘いで躊躇すれば後手に回る! だが遅ればせながらも、盾を前面に出し剣を構え、こちらへ向かって来る!
俺のウォーカーも盾を前面に構え、機体の全重量を掛けて敵の正面へ飛び込む!
うぉおおーーーー!
ガキイイイイーーーーン!
ウォーカーの巨大な盾と盾! 10トンにも及ぶその機体! そして時速50キロで走るウォーカー同士の激突だ! その衝撃は数十トンを超え、その巨大な力故に衝撃音が辺りのビルに反響し木霊さえする!
ウォーカー同士の闘いに華麗な剣捌きなどない! この肉弾戦こそが全てだ!
元より重装甲のウォーカーはこれ位で壊れるヤワな代物じゃない! この剣は相手を斬るものじゃない! 力で叩き付け敵を吹き飛ばすもの! その衝撃で中のパイロットを潰すための物だ!
俺も身体全体に衝撃を受け、呼吸が出来ず内蔵が揺さぶられる! 何より脳が衝撃を受け意識までも飛びそうになる!
だがこれに耐えなければ――、すぐに戦闘態勢を取らなければ殺られる!
しかし敵も負けてはいない! 盾を持ち再び突っ込んで来る! 根性があるだけじゃない! 打たれ慣れている証拠だ!
負けるかああぁぁーーーー!
目眩を覚えながらも、俺は雄叫びを上げ、再びウォーカーを突進させた!
この狭い路上でサイドにかわす場所はない! 二度目の正面衝突だ!
ガキイイイイーーーーン!
再びウォーカーに、俺の身体に衝撃が走る! 俺のサウスポースタイル故に、再び盾と盾、剣と剣のの正面からのぶつかり合いだ! 今度はウォーカーの助走距離が短い故に倒れる様な衝撃はないが、今度は力で! 重金属の盾をすり潰すかの様にウォーカーで押し合う!
盾での鍔迫り合いの様な接近戦――。余りにウォーカー同士が接近しているため、俺の目の前のリアルサイトモニターに映るのは、自らの盾のみ!
大型の盾は自らの身を守ると同時に、視界の全てを覆い隠し敵の動きさえも分からなくるなる! だがそれは敵も同じ条件! 敵のパイロットも攻撃に迷うはずだ!
そして今こそが神眼を活かす好機――!
俺はウォーカーに音声指示を出す!
"Left Hand Gun Scope, Monitor 7 On!"
盾に隠れ何も見えないメインモニターを捨て、左手に付いているハンドガン専用のモニターを表示する!
"Monitor 7, Lock on the Hand! And Chase it!"
ジークフリートのサブモニターが、敵の右手を――、剣を持つウォーカーの手を映し出す!
その瞬間、敵が剣を振り上げた!
行けええ! ここだあーーーー!
俺は左足で地面を蹴った! ウォーカーが俺の動きをトレースし、モーターが唸りを上げる! その瞬発力を腰から肩へ連動させ、俺は左手と大剣を矢の様に撃ち放った!
グワシャアァァーーーン!
左片手突き一閃!
衝撃と同時に、俺の剣が敵ウォーカーの右手を突き刺し、敵の剣を弾き飛ばした!
続き俺は剣を持つ左手を大きく後ろに構え、全力で横薙ぎに剣を振り放つ! 大剣の質量に加え、加速度によるモーメントが悪魔の如き破壊力を生む!
ガキイイィィーーン!
敵のウォーカーは真横に吹き飛ばされ、ドスゥーーンと地響きを立て地面に叩き付けられる!
急ぎ俺はその敵のウォーカーを踏み潰し脚の関節を破壊した! たとえ鋼鉄のマシンと言えど、10トンものウォーカーで踏み潰せばもう立ち上がることは出来なくなる!
敵ウォーカー撃破――! これで二機目――!
だが、これで終わりじゃない――。
俺は急ぎモニターで、明日香が無事であることを確認した! そして明日香や機動隊を挟む向こう側に立つ最後のウォーカーを――。
残る敵は一機のみ! あの絶望的な状況から一気に勝算を見通せるまでになった。
しかし逆に俺はこの状況に苛立ちを覚える――。
なぜなら未だに明日香が逃げることが出来ないからだ! ここで戦えば、明日香達を巻き込む危険がある――。
俺と敵のウォーカーとの間には、明日香の乗る車や機動隊の装甲車とパトカーでひしめき合っている。ここで闘いを仕掛ければ、明日香や機動隊の人達を巻き込み大惨事になるだろう。
Uターンし反対車線を通れば、敵のウォーカーの処まで行く事は出来るが、その隙に明日香達に攻撃をされてもマズイ――。
ちいっ……。俺が闘っている時に敵が加勢に来なかった理由が分かる! 動けないのだ――。
敵の目的はあくまで明日香を捕まえることだ。俺と闘っている間に明日香に逃げられては元も子もない。だが裏を返せばそれは俺にとっても同じこと――。俺の目的は明日香を守ることだ! 明日香達を危険に晒して闘う訳にはいかない――。
作品名:ブリュンヒルデの自己犠牲 作家名:ツクイ



