ブリュンヒルデの自己犠牲
敵は剣を大きく振り回し装甲車を破壊しながら、徐々にこちらに近付いて来る! ウォーカーで力任せ突撃してくることはないのが唯一の救いだ! だが、これじゃ長く持つとは思えない!
勇敢にも一台の装甲車が敵のウォーカーに突撃した!
ガッシャアアアーーーン!
重量が2、3トンはあるだろう装甲車がぶつかれば、幾らウォーカーと平気ではいられない。
ウォーカーは躓く様に倒されるが、装甲車も無事では済まない。装甲が凹み衝突のショックで中の運転手も動けなくなる!
しかし倒れていたウォーカーがゆっくりと立ち上がる! 転倒はしたが、やはりあの程度じゃ中の奴が戦闘不能になることもない。徐々に敵の包囲網が狭まってくる。このままでは俺達に勝ち目は――、いや勝つ処か逃げることも出来ない! 全滅だ――!
「葛城准尉、逃げて下さい! 敵のウォーカーは我々で食い止めます! このままではあなたも危険です――! 車は諦めて、走ってでも逃げて下さい!」
本郷隊長は俺が明日香を背負ってでも逃げてくれと言う。しかしそれを明日香は明確に拒否する!
「それはいけません! 車での逃走を諦めるということは、護衛の警官方も生身でウォーカーの攻撃を受ける事になります。今まで以上の大量の負傷者が……、いえ、多くの死者がが出ることになります――」
「しかしこのままでは我々もあなたも全滅です!」
「いいえ、まだ手はあります! 火鷹、頼む――! 君しかいない!」
「ああ、分かっている!」 俺はヘルメットと防弾ベストを再び身に付ける。
「君、どうするつもりだね?」
「ウォーカーで闘います――」
「ウォーカーで闘う? 何を言っているんだね? 我々に予備のウォーカー等どこにもない! 一体どうやって――?」
「倒されたウォーカーを使います! ウォーカー自体はまだ破壊されていません。パイロットが代われば、また闘えるはずです!」
「しかし3対1のウォーカー戦で勝てるはずがない! 一瞬で勝負が付いてしまう!」
「本郷隊長、心配は要りません! 彼なら勝つ事は可能です! それより発煙弾を敵ウォーカーに向かって撃って下さい! その隙に彼がウォーカーまで走ります!」
「分かりました――。葛城准尉がそう仰るなら彼に賭けてみましょう!」
本郷隊長は明日香の言葉に頷くと、無線で警察車両に指示を出した。
「発煙弾を持つ車両は至急、敵ウォーカーに向かって撃て! 発煙弾を撃ち、敵の視界を――、我々の姿を隠せ!」
本郷隊長の指示を聞き、俺の胸の鼓動が早まる――。
前方の敵ウォーカーは2機! その後方に警察のウォーカーが倒れている!
距離は約百メートル! いつもなら十秒もかからず辿り着ける距離だ! しかしウォーカーに生身の姿を晒すことになる。攻撃を受ければ一瞬で命を落としかねない。だが、俺がウォーカーに乗れれば――!
「明日香、もう少し待っててくれ――!」
「ああ、待っているよ――。それと火鷹、これを受け取って欲しい――」
明日香は俺にウォーカーのメモリーカードを俺に渡した。
「わたしのウォーカー用の戦闘プログラムだ。プログラムコードは『ジークフリート』。これを君が使えばウォーカーの操縦能力は格段に上がる。君なら必ず勝てるよ――」
「……何だよ、随分、信頼してくれるじゃねーか? 今度は行くなって言わねえのか?」
「わたしは君の可能性を信じている。もう止めはしない。行ってくれ――」
「信じてくれるって言うなら、嬉しいぜ! 待ってろ! 必ず助けてやる!」
「姉さま、よろしいですね――?」
明日香は千鶴さんに確認を求めると、千鶴さんは微笑みながら穏やかに頷くのだった。
「ええ、勿論よ――。火鷹くん、任せて。明日香のことはわたしが護るわ」
「お願いします! 千鶴さん、明日香を頼みます」
バンッ! バンッ! バンッ!
その時、俺達の回りのパトカーから何発もの発煙弾が撃ち込まれた。ウォーカーの回りに煙が立ち込め始める!
同時に警察の装甲車が一台、敵のウォーカーに向かって突進した!
ガシャアアアーーーン!
装甲車の肉弾突撃で敵のウォーカーが膝を付く。
ガガガガガガ―――――!
「撃て! 撃て! 最後まで弾を撃ち尽くせ――!」
続けて本郷隊長の指揮で、警察の重機関銃が敵のウォーカーに向け一斉に火を噴いた!
ありがたい。これで敵の動きが止まった! ウォーカーまで走ることが出来る!
「明日香! 必ずお前を助ける! 待っていろ!」
「ああ、火鷹……。待ってるよ――」
その明日香の優しい声をスタートの合図に、俺は同時に全力で走った!
発煙弾の煙は上へ登るほど煙が広がるため、敵のウォーカーは視界を遮られる一方、比較的こちらの足元の視界は悪くない! ウォーカーが多少の動きを見せるが、煙幕のおかげでこちらを把握できず、俺は一気に倒れたウォーカーへ辿り着けた!
急ぎウォーカーのコックピットを開くと、中のパイロットが呻き声を上げる。意識を取り戻した様だ。だが怪我をしているのだろう。自分で脱出することが出来ず、俺が手を貸してようやくコックピットから出ることが出来た。
「大丈夫ですか?」
「ああ、鎖骨が折れたかも知れん……。肩が動かない……。それより君は……?」
「俺がウォーカーを操縦します! 今は治療は出来ませんが、少し我慢して下さい!」
「ああ、これ位なら心配はいらない……。頼む、すぐにみんなを助けに行ってくれ!」
「分かりました! すぐに助けに戻ります!」
警察のパイロットはよろめきながら、ウォーカーから離れると、俺は直ぐにウォーカーに乗り込んだ。
よしっ! ウォーカーのシステムは生きている! 動作不良を示すアラートもない!
俺は明日香から貰ったメモリーカードをウォーカーに差し込む!
「行くぞ! プログラムコード『ジークフリート』起動!」
"Open the new folder! Select file name "Siegfried".
"Manipulate Program Change! Machine Walker Reboot"
"Headset On! Monitor On!"
"Right Leg, Left Leg Bind!", "Right Arm, Left Arm Bind!"
"Right Hand Fingers, Left Hand Fingers Glove Set!"
"Machine Walker Stands Upright!"
俺の音声に反応にウォーカーの起動した。
ウイイィィーーーン! キイイィィーーーン!
甲高いモーターの回転音がコックピット内に響き渡る。
ガチャン! ガチャン!
重量10トンものウォーカーが膝を付き盾と大剣を持ち再び立ち上がる!
そう、俺は敵と闘うためにウォーカーを立ち上がらせた!
ただし敵のウォーカーに背を向けてだった――――。
俺はこれ以上ウォーカーを一歩も動かすことは出来ない――。
「おい、何だ、あのウォーカーは? 後ろを向いたままじゃないか!?」
「壊れているのか? 立ち上がったまま動かないぞ!」
作品名:ブリュンヒルデの自己犠牲 作家名:ツクイ



