ブリュンヒルデの自己犠牲
やった! 助かった――!
千鶴さんは携帯を警察用無線に切り替えコールする!
「もしもし警察ですか? こちら防衛大付属高、葛城明日香の護衛車です! 現在、警察応援部隊の前方約500メートルを走行中! テロリストに追われています! 至急、保護を願います! 至急、保護を願います!」
『ピ――、ガガ――! 了解――。 至急、救助に向かう――! 対象を識別したい! ヘッドライトを点灯されたし! ヘッドライトを点灯されたし!』
「分かりました!」 千鶴さんが車のライトを付けると、警察もすぐこちらの車を認識した様で、装甲車もライトをパッシングさせると、交差点からいきなり反対車線に入り込んで来る!
『護衛車、左側に寄られたし! これより装甲車が突入する! 左側に車を寄せたし!』
「りょ、了解です――!」
千鶴さんも警察のあまりに思い切った行動に驚き、慌ててウィンカーでサインを送り車を左に寄せる!
警察もこちらの動きを確認すると装甲車はスピードをさらに上げ、地響きを鳴らしながらこちらの車線を逆走してやって来た!
おいおい、まさか――!
ガシャアアーーーン! ガシャアアーーーン!
そのまさかだった! 装甲車が目の前を一気に通り過ぎた瞬間、俺達を追いかける敵の車に正面衝突したのだ!
キキィイイーーーッ! グッシャアアーーーン!
敵の車が次々と装甲車にぶつかり、まるで紙くずの様に車が潰れされていく! 一方、警察の装甲車はほぼ無傷だ! 少なくとも壊れた形跡は見当たらない!
続いて警察のウォーカーが突入し大型の警棒を振り回して、残った敵の車を吹き飛ばしていく! 車の中の敵もこの衝突で全く動けず反撃も出来ない! 一瞬で勝負が付いた!
すげえ……。その警察の鮮やかな手際に俺は思わず舌を巻いた。かなり荒っぽいやり方だが、車ごと敵を潰せば警官らに怪我人を出す事もなく、簡単に敵を捕まえることが出来る。流石に対テロリストの特殊部隊だ――。
これでようやく、本当に安心出来る――。
俺達の車が警察のパトカーや装甲車に囲まれる中、この機動隊の隊長らしき人が俺達の元にやってきた。年配の人だが、その鍛えられた筋肉質の体は優秀な現場指揮官の証しだ。直立不動の見事な姿勢で、車の中の明日香に敬礼する。
「葛城明日香准尉ですか? 湾岸警察署、特別機動隊隊長の本郷と申します! 救援が遅くなり大変申し訳ありませんでした!」
「いいえ、その様なことはありません。こちらこそ本当に危ない処を助けて頂きありがとうございました。感謝の言葉もありません――」
「いや、こちらこそ我が湾岸警察署の目と鼻の先でテロリストの襲撃を許すなど、お恥ずかしい限りです。それに国民の注目を集める“神眼”の葛城准尉がテロリストにさらわれたとなれば、それに警察の威信にも関わりますからな――。しかし無事で何よりです――」
「……それよりも敵の動きに気を付けて下さい。敵はわたし達の動きを監視しています。今回の襲撃も我々の逃走経路を絶つなど、周到に準備されたものでした」
「確かにそうですな――。ですが、もう安心して下さって結構です。既に敵も制圧しておりますし、すぐに学院へ戻れることでしょう。それより重要なのは敵の正体と背後関係の捜査でしょう。敵テロリスト及びその装備品などは全て押収し捜査資料とします。今後は幕僚本部のお父上とも協力して今後の捜査を……」
そうだ――、前に襲われた時もそうだが、敵は入念に明日香の行動パターンを調べている。ただのテロリストに出来る芸当じゃない。それにロケット弾で味方もろとも証拠を消し去る非情な連中だ。こいつらはただの駒に過ぎない。必ず背後に大きな組織がある――。
今日は運良く襲撃から逃げることが出来たが、これからも油断は出来ないだろう――。
俺がそんなことを考えていると、海沿いの高架道路からウォーカーが一機やって来るのが見えた。作業用のウォーカーではない。警察と同じ機動型ウォーカーだ……。警察の応援部隊か……? さらにもう一機こちらへ向かっている。
だが俺が目を凝らして見ると、あの二機には警察のマークも所属もペイントされていない。なのにモーターブレードでのスピードが随分早い。高度な操縦技術が必要なモーターブレードは転倒の危険から、よほど訓練された人間でないと使えないなずなのに――。
まさか!? 俺は後方を見ると、ビルの隙間から機動型ウォーカーが一機こちらに向かっていた。しかもモーターブレードで――!
ヤバイ! 背筋が一気に凍り付く!
「明日香! 車の中へ戻れ! 千鶴さん、車を出す準備を!」
俺は怒鳴る様に指示を出し、明日香を車の中へと押し込んだ!
「火鷹! どうした?」
「敵のウォーカーが来る――! それも三機!」
「何だって!?」 二人の表情に再び緊張が走った!
「本郷隊長! 海側から二機! 後ろから少なくとももう一機、ウォーカーが来ます!」
「……しかし君、一体どこに――?」
俺は機動隊の警官らに必死に訴えるが、まだ見ぬウォーカーに誰もが反応が鈍い!
「本郷隊長! 彼の言葉に間違いはありません!」
明日香の必死の叫びに機動隊の警官達がようやく警戒を始めたその時、敵のウォーカーがビルの陰からその巨大な姿を正面に現した! もう敵に間違いない! 剣を取り出しこちらへ突進してくる!
「まずい! ウォーカーを! それに装甲車を至急、敵ウォーカーに当たらせろ!」
本郷隊長が急ぎ指示を出すが、ダメだ! もう間に合わない!
ギャギャギャギャー――!
警察のウォーカーがモーターブレードを回転させ、盾を構え敵のウォーカーに突進する! だが、遅過ぎる! 加速が間に合わない!
逆に敵のウォーカーは更にスピードを上げ、警察のウォーカーにそのままショルダータックルで激突した!
ガキキイイイーーーーーン!
金属同士の耳を裂く様な激突音と共に、警察のウォーカーがタックルを食らい弾き飛ばされ、アスファルトに叩きつけられた!
ガッシャァァーーーーン!
やられた――! ローラーブレードでスピードが乗ったウォーカーのタックルに、受け手側のウォーカーが耐えられるはずがない!
敵のウォーカーも高速でぶつかり転倒はしたが、相手は一機だけじゃない! もう一機、続けて突っ込んで来る! しかも反対側からもだ! 完全に包囲された!
俺は急ぎ辺りを見回すが、湾岸地区の大型幹線道路に元より左右に逃げる路地はない! 中央分離帯のコンクリートのブロックに阻まれ、反対側の車線へ逃げるさえことも出来ない! 車での脱出を優先したルートが仇になった。
ダメだ――! 明日香はもう逃げられない!
「パトカーは中で葛城准尉の車を囲め! 装甲車は外でウォーカーに当たれ! 機関銃の発砲を許可する!」
警察官達は逃げることもなく、俺達を囲む様に車を配置し重機関銃を構えた!
ガガガガガガ―――――! ガガガガガガ―――――!
警察の重機関銃が敵のウォーカーに向かって連射されるが、敵は盾を持ち装甲も強化されている! あんな機関銃程度ではウォーカーに対抗できるはずもない。
ガキキイイーーーン! ガッシャアーーン!
作品名:ブリュンヒルデの自己犠牲 作家名:ツクイ



