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ブリュンヒルデの自己犠牲

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……こいつ俺なんかより遥かにスピアーの扱いが上手い……。さっきの攻撃も神眼の動体視力がなければ防ぎ切れなかったろう……。敵もドパージュを受けた、しかも正規の軍事訓練を受けているヤツに違いない! 俺の付け焼き刃の槍で正面から戦って勝てる相手じゃない――。
 だが俺には敵に勝つための技が無い――!
明日香から受け継いだこの神眼の太刀――。しかし今まで明日香は剣と拳でしか、この神眼の太刀を使っていない! その理由が敵と相対して初めて分かる!
神眼の太刀と言えど、敵の目を引き付けられるのは1秒にも満たない! 間合いを詰め剣先を弾く程度なら出来る。だが敵の槍の長さは4メートルはある――。そこからどうやって敵の懐に飛び込み仕留める――?
神眼の動体視力ならば、敵の槍を捌くことは出来るだろう。だが勝つことは出来ない! 悪戯に勝負を長引かせるだけだ! それに早く明日香達を助けなくてはならない……。一か八か神眼の太刀で敵に突っ込んでみるしかない――!
 俺は覚悟を決めて、スピアーを2メートルの長さまで縮めた――。敵のスピアーの半分の長さだ。だがそれだけではない。俺は槍を風車の様に回転させる!
この俺の行動の不可解さに、敵がスピアーを構えながら眉を顰める!
そうだ、この槍を見ろ――! 敵の意識を惹き付けることが神眼の太刀の極意だ!
 俺は敵の目を見た――。敵は俺の行動を落ち着いて観察している。時に俺の槍の穂先を見て、また時に俺の手を、そして身体全体を捉えていた――。確かに俺の動きは不可解だろうが、この短くしたスピアーでは俺から攻撃を仕掛けることはない。明らかに油断している――!
そして俺は槍の回転の動きを遅くした――。敵に俺の槍の動きが見易い様にだ――。
その瞬間、敵の目が槍の穂先に向かう! そして目の奥、網膜に映る光が絞られた!
今だ――! 俺は敵へ突進した!
 敵の槍の剣先までの距離は約3メートル! この距離を一気に詰める!
 そして俺は敵の槍の剣先を掴み敵の攻撃を封じた! グローブさえあれば、刃を掴んでも手を切ることはない!
「何――っ!」 敵が短く、だが明らかに驚きの声を上げる! 闘いの最中に相手の姿が消え、その刹那に武器を捉えられ攻撃を封じられたのだ! 動揺しない奴などいない!
 だが槍を掴むだけじゃ敵を倒せない! 倒した事にはならない!
 さらに俺は左手で掴んだ槍を支点に、宙返りの様に足を高く上げ跳んた!
 俺の身体が空高く宙に舞い上がる――。、
敵にはまるで俺が槍の上で片手逆立ちでもしている様に見えるだろう――。だがこれは敵を驚かすための曲芸じゃない!
俺は高く上げた足の落下速度を活かし、全体重をかけて槍の柄を踏み付け、敵の持つ槍を一瞬で叩き落とした!
 ガシャ―――ン!
「馬鹿な――!」 敵は一瞬にして武器を奪われ、驚きの声を上げる!
俺がスピアーを伸ばすと、敵は恐怖に顔を引き攣らせ慌てて逃げようとするが、もう遅い! 俺は立ち上がると同時に一気に槍を振る! ちまちま狙いは付けない!
ガシィ――――ン!
槍の柄が敵にぶつかる衝撃音が! そして槍を通じて激しい震動が俺の手に伝わる!
「うがあーーっ!」 敵が槍に薙ぎ払われ、鈍い悲鳴が響く!
そんな呻き声を上げながら地面に横たわる敵を見て、一瞬怯み、脚が竦む――。
だが俺は明日香のことを考え、倒れる敵を脳裏から強制的に消し去った! 今は明日香を助けることだけが俺のすることだ――。
 俺はすぐに敵のランドクルーザーに乗りエンジンをかけ、ギアをバックに入れた! この車さえ移動させれば明日香も逃げることが出来る!
 だが俺が明日香達を見た時、その向こう側に居た敵の車が動き出すのが見えた。こちら側が突破されたことで、向こう側を封鎖していた敵が動き出したのだ!
 マズイ、急がないと! 俺はハンズフリー携帯で千鶴さんをコールした。
「千鶴さん! 聞こえますか?」
『火鷹くん? 大丈夫?』
「俺は平気です! それよりこの車を動かします。すぐここから出て下さい!」
『了解! すぐに車を出すわ! 火鷹くんも乗ってちょうだい!』
「俺のことはいいです! それより早く! 向こう側の敵も来ます!」
『……わ、分かったわ!』
 千鶴さんは迷いを振り切る様に返事をすると、車のアクセルを踏んだ! スピードを上げて一気に突っ込んで来る! だがそれは敵も同じだ! 明日香達を逃がさまいと、敵の車がこっちへ向かってくる! それだじゃない、地下駐車場からも車が出て来た!
 ちいっ、なんとしても明日香をここで逃がさないと! 
 俺は車の上に飛び乗り、アサルトライフルで銃を乱射した! 敵の車のフロントガラスにヒビが入り、スピードが鈍る! 完全に破壊することは出来ないが足止めには十分だ!
 キキキィーーーッ! 千鶴さんの車が俺の前を通り過ぎると同時に、交差点の角を曲がるために急ブレーキを掛ける! 
俺は千鶴さんの車が減速したその瞬間、明日香達の車の上に飛び乗った!
ドスン――! 
俺は着地と同時に、振り落とされぬよう、倒れ込む様に車の屋根の上にしがみ付く!
フロントウィンドウに手を伸ばしハンドサインで俺であることを示すと、走行中ではあるがすぐに後部座席のドアが開く! 俺は滑り込む様に車の中に潜り込むと、ドスンッ!と明日香の上に圧しかかってしまった!
「痛い!」 思わず明日香が声を上げた!
「明日香、無事か――?」
「火鷹、何を言っている! 無事ではない! 痛い! それに重いぞ!」
「どこか撃たれたのか?」
 俺は明日香の膝の上で思わず、明日香を掴み間近で確認するが何処にも怪我はない。
「違う! 怪我はしていない! 早くわたしの上から降りてくれと言っているのだ!」
「ああ、そうゆうことか? 悪い、悪い――」
俺は明日香の膝から降りて思わず謝るが、明日香は頬を膨らせて怒っていた。自ら明日香を押し潰す様なこととしておいて、我ながら間抜けなことを言ったもんだ。でも明日香を助けるために、命懸けで戦って来たんだ。仕方ねえだろう――?
「火鷹こそ、無事なのか? 怪我はないのか――?」
「ああ……、怪我はない。運が良かったな――」
「そうか、よかった……、火鷹、君が死んだらどうしようかと思ったよ……」
「何だよ? 随分、大げさだな?」
「大げさではないよ……。銃を相手に向かって行ったんだ……。ありがとう、君のお陰で助かったよ……」
そう言って、明日香は安堵の表情を見せながらも、目に涙を浮かべ俺を優しく抱き締めてくれた。俺も生きて無事に帰れたことを実感する――。
 だが、安心するのはまだ早い! 最悪の状況からは脱出できたはずだが、敵の車もまだ追って来る! 敵は5台、いや6台か――。 このまま逃げ切れるか……? そんな算段を考えていた時、前方に赤いライトが光るのが見えた。あれは――?
「明日香、火鷹くん、見て! 警察よ――!」
前方に赤い警告灯を光らせたパトカーの集団が見えた。それだけじゃない! 重武装装甲車が列を成しやってくる! それに警察用のマシンウォーカーもいる! 対テロリスト用の警察特殊機動隊だ!