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ブリュンヒルデの自己犠牲

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 俺は地に伏せた姿勢のまま、バトルスピアーを握り締めた。明日香達の援護があった時が次の突撃のタイミングだ!
敵との距離は四十メートルもない! 二人がアサルトライフルを惹き付けてくれれば――、そしてそれが5秒もあれば、スピアーの攻撃可能半径に入れる!
 だがそれは拳銃の有効射程距離に入ることを意味する――! それにたった5秒と言えど、フルオートの拳銃なら5、6発撃つには十分過ぎる時間だ。死ぬ可能性は格段に跳ね上がる。
心臓の鼓動が高鳴る! だが行かなくちゃならない! 明日香を守る為に!
パーンッ! パパパーーッ! パパパーーッ!
再び銃の連射音が空気を切り裂く! しかしそれは敵の銃声ではない。異なる方向から銃声が聞こえた! 明日香だ――!
明日香と千鶴さんが窓から身を乗り出し、アサルトライフルを持つ敵に向かい集中的にサブマシンガンを連射していた!
敵が車の陰に隠れ、ほんの一瞬、銃撃が止む!
「今だ! 火鷹、行けえーーーっ!」 明日香の声だ! 俺の心が奮い立つ!
 行くぞおーー! 俺は膝を立て、踏み出す足に力を込めて一気に地面を蹴った!
 敵は3人! 明日香達がアサルトライフルの敵を引き付けてくれれば、残りは拳銃を持つ2人だ! 俺は全力で敵に向かって疾駆した!
 俺は右手に持つバトルスピアーを最大に伸ばす!
バトルスピアーで銃に勝つには、兎に角、動き回り敵に照準を付けさせないことだ。幾ら近距離でも動きまわる敵を拳銃で撃つのは至難の業だ。
一方、バトルスピアーは跳びながら走りながらでも、そのカーボン製の柄を伸ばして最大10メートルまでの敵を討てる! しかも点を付くのではなく、薙ぎ払い敵を“線”で攻撃すれば、その命中率は拳銃を遥かに凌ぐ!
 俺は敵の狙いを絞らせないために、ジグザグに走りながら敵に踊り掛る! いくら神眼で敵の動きは見切ろうと、相手が銃では絶対的に反応速度が追い付かない! 俺は神眼で敵が照準を狙おうとした時に小刻みなカットインを繰り返した!
敵まであと三十メートル!
 パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パーーン!
二人の敵から銃を連射してきた。奴らは正確に狙い撃つことを諦め、連続フルオートで乱射気味に撃ってきた!
怖れるな! そんな撃ち方で当たるはずがないっ!
敵までの距離、二十メートル! ここからはバトルスピアーの絶対領域だ!
今だ! 跳べえー――!
俺は宙を一気に跳んだ! 左右の動きから上下の動きに変え、敵の銃の狙いを外すためだ!
 パンッ! パーンッ! 敵の銃弾が地面のアスファルトを削る!
 最後の銃撃に失敗した敵が車の陰に隠れようとするが、もう遅い!
 いやあああぁぁーー――!
 俺は最大に伸ばしたバトルスピアーを敵に向け一気に斜めに振り降ろした! 拳銃みたいにちまちま狙いなんか絞らねえ!
 バギギイイィーーーーッ!
 バトルスピアーの柄が敵の身体にめり込み、そして抉る! 熊がその巨大な腕で獲物を破壊しながら切り裂く様にだ!
槍は刀みたいなお上品な武器とは違う! 突くでも敵を斬るでもない。長い柄と重い刃を振り回す遠心力で攻撃力を倍加させ、力ずくで敵を破壊する! 刃が当たるかどうかなど関係ない!
うぎゃああああぁぁーーーー!
 敵から獣の断末魔に似た悲鳴が上がる! 肩から腕、鎖骨全てを砕いたはずだ。死にはしないだろうが、なまじっか斬ったよりも肉体の損傷は激しい! 痛みは想像を絶する!
俺はそのまま着地した瞬間、エアーシューズで地面を踏みしめると同時に、脚の筋肉が千切れる程、力を込め横っ飛びに一気に跳んだ。動きを止め銃の餌食になる訳にはいかない!
しかもただ跳ぶだけではない! 敵のランドクルーザーの屋根に飛び乗り、トリッキーな動きで敵の狙いを絞らせない。これで敵の攻撃をかわすと同時に車に隠れていた敵の姿が丸見えになる!
もう一人の敵が拳銃を俺に向けるが、既に遅い! 俺はスピアーを短くすると、再び宙を跳びスピアーで敵を斬る! 今度は遠心力で力を倍加させられない分、槍の穂先の刃で確実に斬り裂く!
「うがあっ!」 敵から短い悲鳴が上がる! 俺の手に敵を斬り裂く不気味な感触が残るが、そんなこと構ってる暇はない!
あと一人! 残るはアサルトライフルを持つ敵だ! 俺は着地し、敵の銃をかわすべく再び跳ぼうとすると、最後の敵がバトルスピアーを手に持ち俺に突撃してきた。
 こいつ銃を捨てたってのか――? ちいっ! 相当に戦い慣れしてやがる!
 十メートル以下の近接戦闘において、アサルトライフルは取り回し難い上、弾切れになればマガジンを交換している暇などない! 近接戦闘で弾切れは即、死を意味する。この距離ならバトルスピアーの方が有利だ! しかも近接戦ならば、俺を巻き添えにしないよう、明日香達からの援護射撃もなくなる!
今までとは違う恐怖が俺を襲う! こいつヤバい相手かも知れねえ!
ガチィーーン! ガキィーーン!
俺は敵のスピアーを受け流しながらバックステップで距離を取る。
だが敵の動きも速い! 俺が引く動きを見せると、そのチャンスを逃さず一気に攻め込んで来た!
チィッ! 俺は更にバックステップでかわそうとしたが、敵は俺の後退を見て、一層攻勢に出て突撃して来る! 俺は剣先をショットガンの様に突き散らすが、奴は俺のスピアーを弾きながら怖れずに突進してくる! 引いた体勢での攻撃など大した威力はないことを知っているのだ!
マズイ! このままじゃ、マジで殺られる!
俺は咄嗟に敵の槍の柄を上から力ずくで叩き付けた!
ガキイイィィーーーーン!
一瞬だけだが敵の攻撃が止まり、俺は再び逃げる様に間合いを取る!
だが敵は容赦ない! 俺の動揺を逃さず再び突進してきた。しかも俺は見た! その時敵の奴はスピアーを俺より1メートルほど長く伸ばして突っ込んで来たのだ!
危ねええーー! 再び俺の心に恐怖が走る!
槍同士の闘いでその長さは絶対的な優位をもたらす! 多少の技の巧拙なんか関係ねえ!
もちろん槍も長ければ良いってもんじゃない。長ければ長い程扱いが難しくなるし、敵に剣先を叩き落とされ懐に飛び込まれるリスクも高まる。だが奴は俺よりも僅かに長くスピアーを伸ばすことで間合いを広げ、かつ取り回し易い長さで攻めて来た! しかも俺に突撃してくる直前にだ! これじゃあ俺は敵の攻撃を捌き切れない!
俺は再び後ろに、そしてすぐサイドに跳ぶが、また敵はその隙を見てスピアーを最大伸長距離まで伸ばして来た!
 ガキン! ガキン! ガキイイィィーーーーン!
 俺は何とか敵の剣先を弾き、再び間合いを取ることが出来た! これも敵のスピアーが伸び切ったため、横からの打突に耐え切れなかったためだ。
 そして敵の追撃がなかったのは、長く伸ばし過ぎたスピアーの不利を避けるためだろう。事実、敵は次の攻撃のためにスピアーを短くし、また捌き易い長さにした。