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ブリュンヒルデの自己犠牲

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 逆に身体を動かさなければ痛みもかなり和らぐ――。だが――、だがこんな処で休む訳にいかない! 早く明日香の怪我を止血しないと――。
「うぐぅ……!」 再び俺は痛みを堪えながら、明日香の元へ這って進んだ。まるでミミズの様な姿だったろう。だがミミズの方がまだマシだ。こんな痛みを味わなくて済む――。
 この痛みを十数回繰り返し、やっと明日香の元へ辿り着いた。これだけで一体どれだけの時間が経ったのかも分からない位だ。
「ハア……、ハア……。早く止血しないと……。
「うぐぅ……!」 俺は痛みを堪え這った状態から身体を起こし、明日香の身体を仰向けに倒した。すぐに明日香の首に手を伸ばし脈を確認する。
「良かった……、まだ生きている……」
だが明日香の顔に血の気はない。出血が酷い。肩や腹までに血に染まっている――。
特に脚の怪我はかなりヤバい! 白い二ーソックスは既に鮮血に赤くに染まり、その下には血溜まりまでもが出来ている程だ! 俺よりも怪我は酷いことは一目で分かる――。
「とくかに止血だ……」 俺は明日香の脚の付け根をベルトで縛った。これで出血が少しでも減ってくれれば――。意識を取り戻してくれれば――。
「明日香、明日香、聞こえるか――?」
 俺は明日香に声をかけるが、やはり返事はない。意識を取り戻すことはない……。
「明日香、ちくしょう……、目を覚ましてくれ……」
 俺の目の前で、神か天使の様に光輝いていたはずの明日香はそこには居ない――。
 地に堕ちた天使は光を失い、俺の目の前で泥と血に塗れ倒れていた――。
「明日香、目を覚ましてくれえーーー! 明日香ああぁぁーーーっ!」

* * *

 ハア……、ハア……、ハア……。
 俺は、全身を汗で濡らしながら目を覚ました……。
またあの悪夢だ……。ちくしょう、何でこんな見たくもねえ夢を毎晩見るんだ……。
 あんな恐ろしい思いを二度としたくない! あの夢を見る度に頭も痛くなる……。
吐き気もするが、吐くものが胃にない分、苦しみが延々と続く……。
もう学校を休み寝込んで何日目になるだろう……。もうクラスの連中にもサボる処か、引き籠りか何かと思われているだろう。だが明日香は決して俺を迎えに来る様なことはなかった。匂宮もだ……。まるで早く沖縄に帰れと言っているかのようだ……。
 そうだ、沖縄に帰ればこんな悪夢からも解放されるかもしれない。
 こんな苦しみはもう嫌だ……。こんな苦しみから逃げたい……。
それに俺にはもう何も出来ることはない……。
もう嫌だ……。沖縄に帰ろう……。親父の居る処へ帰ろう……。

そんなことを思い続けていたある日、久しぶりに頭痛が止み、よろめきながら俺はベッドから身体を起こした……。吐き気も止んでいる……。身体が多少なりとも良くなったためか喉が無性に渇く……。俺は貪る様に水を飲み、ようやく身体を休めることが出来た。
そして俺は久しぶりに鏡を見て……、病気で痩せこけた自分の顔を見て愕然とした……。
そこには俺の望んでいたもの……。そして俺の命を脅かすものがあったからだった……。

 俺の目が赤い…………。



* * *


『ガーネットアイの秘密』


 間違いない――。目が赤い……。ガーネットアイだ……。
 泣き腫らして目が赤く充血したとか言う話じゃない。虹彩と呼ばれる茶色の瞳の部分がわずかに赤く変色している。逆に目の白い部分に充血は一切ない。それに少しだが利き目である右目の方がわずかに赤い。そうでなければこの微かな違いに気付かなかったろう。
 この二ヶ月、あのドパージュを受けることはなかったが、今頃になって俺の目に神眼が出現したのか?
 俺は震えた――。あの明日香と同じ神眼が……、ガーネットアイが手に入った。これさえあれば闘える――、明日香を守れるはずだ――。
しかし俺の目は何が変わったんだ――? 確か俺は人より目が良いと言われるが、寮のの窓から空を見ても、湾岸沿いの街並みを見ても、特に今までと変わった処は見当たらない。
『視覚の変化も徐々に生じてくるから、慣れで火鷹くん本人が自覚しないことも多いはずなの――』
 確か千鶴さんはそう言っていた。自分では気が付き難いと――。
 俺の目の何が変わったのか? そして神眼をどう使えば良いのか?
 何れにせよ、答えは一つだ。もっとこの神眼について調べなければ――。

「……ちいっ……。しかしこんなコソ泥みたいなマネをしなきゃならねえとはな……」
 俺は自嘲気味に呟いた――。神眼について調べると大層なことを言ったが、俺がまずしたことは、千鶴さんの研究室に忍び込むことだった――。
俺のIDがまだ有効かどうかと不安に思いつつ、パスワードを入力すると研究室のドアが開いた――。良かった、まだ千鶴さんにIDを削除されていないようだった。
俺は静かにドアを開け、千鶴さんの研究室に忍び込んだ――。
千鶴さんの部屋に置かれた資料などを眺めるが、これらは機密として厳重に保管されている訳じゃない……。俺の視力の検査に使われていた数字や文字等の紙も本棚に無造作に置いてある位だ――。問題はこれが一体何を意味するのか? 神眼の能力とどう関係するのかだ。それが分からなくては話にならない。
仕方なく、俺は千鶴さんのPCをハッキングすることにした――。パスワードを千鶴さんから聞いた訳ではないが、パスワードを入力する処を盗み見て覚えてしまっていた。改めて思うが、俺が目が良いと言われるのは、間違いのない事実の様だ。
俺はPCを起動させ、IDとパスワードを入力すると――。ログインが出来た!
意外だ――。パスワードが変更されていないなんて、千鶴さんにしてはやけに甘いセキュリティだ。これではこのPCに神眼に関するデータが入っている可能性は低いかも知れない。だが千鶴さんの周りにある情報が最も神眼に近いもののはずだ……。俺はPCのフォルダを開き、出来る限りの情報を集めた。
……それにしても神眼という能力は不思議なものだ――。まず神眼を調べるにあたって不可解だったのは、神眼の秘密を明日香と千鶴さんしか知らないことだった。
これは実に奇妙なことだ――。と言うのも、これだけの能力を持つドパージュが明日香の為だけに、突然出現した様な形になっているからだ。
最初は軍事機密として秘匿しているためと考えたが、神眼の様な常識を覆すドパージュや発明品が誰にも知られず開発に出来るなんてガギの俺だって変だと思う。この学院で見る実験の為の機器類や薬品は非常に高価なものだと聞いている。新薬の開発のために被験者の調達も考えれば誰にも知られない訳がない。
それにいくら自衛隊の幕僚高官の娘とは言え、未成年である明日香が軍事機密を持つというのは異常な話だ。軍でこんな事がまかり通るとは思えない――。するとやはり明日香以外に神眼を持つ人間がいないという話に信憑性が増す――。そう考えれば単純ではあるが、この研究室にあるものを調べるのが一番の近道であり、唯一の解のはずだ。