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ブリュンヒルデの自己犠牲

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 しかし俺は明日香の言葉に素直に頷くことは出来なかった――。カウンターなんてボクシングでも超が付く高等技術だ。ましてモニター越しのウォーカーの操作は遠近感が掴み難い。それに機械であるウォーカーの動きなんて読めるはずもねえ。理論的には明日香の言う通りでも、本当にそんなことが可能なのか――?
俺がそんな疑問を呟くと、再び無線越し明日香の声が聞こえてきた。 
『火鷹……、確かにウォーカーの動きを読むことは困難を極める――。訓練を積み重ねることにより、それも不可能ではないが、やはり限界があるだろう。だが今、わたしは神眼の能力を使っている――」
「これが神眼の能力――!?」
『そうだ――。今日は春菜と一馬もいない。少しお前にわたしの――、いや神眼の力を見せておこう』
 明日香はそう言うと、再び俺との間合いを取り、その大剣と盾を地面に突き刺した!
「何だよ……? まさかお前素手で闘ろうってのか――?」
『言ったろう、火鷹。神眼の力を見せるとな。わたしを好きに打ってみるが良い――」
 上等じゃねえか……。俺を格下扱いするやり方は気に入らねえが、神眼の力を見せてくれるって言うんなら文句も付けようもねえ!
 俺は剣を片手突きの構えのまま、盾を前面に出し、再び突撃の体勢を採る!
 さっきと全く同じパターンだが、何度でもやって明日香の動きを見極めるしかねえ!
 いくぜええぇーー!
 俺は右足を蹴り、ウォーカーを一気に突撃させた!
 だが俺の突撃に対し、明日香のウォーカーはその場で斜めに構えるのみ。突撃する俺の方が圧倒的に有利だ! 俺は一瞬攻撃をためらうが、明日香が神眼の力を見せるって言うんだ。手加減は要らねえはず!
 俺はウォーカーを走らせ、明日香の言う通り、左ストレートの要領で盾を、明日香の丸腰の
ウォーカーの叩き付けた! 剣技は要らない! むしろ実戦では盾、そしてウォーカーの全重量を、そして加速度を付け叩付ける方が遙かに破壊力が高い!
 だが俺がその盾を叩付ける瞬間、それまで自然体だった明日香のウォーカーが一瞬で変化する! ウォーカーがわずかに腰を落とした瞬間、明日香は俺の盾を目掛けて矢の様な右ストレートを放った!
 ガキイイィィーーン!
 その明日香の打撃は盾を持つ俺のウォーカー腕をへし曲げながら、盾ごとコックピットのあるボディまで叩付けた! 俺のウォーカーは再び壁に激突する様に強制停止させられ、俺の身体も前方に叩き付けられる!
 何だ! 馬鹿な――っ! 俺は予想もしない衝撃を喰らい心の中で声を上げた!
 すぐにモニターで確認するが、やはり明日香のウォーカーその場に立ったまま、その場を微動だにしていない! 
 ウォーカーを突撃させ全重量を叩付けた方の俺が弾き飛ばされるなんて物理的にありえねえ! 一体どうなってやがるんだ?
『――火鷹、別に驚くことではない。足の踏み込みと腰の回転を活かし打ち込んだだけだ。中国拳法で言う発勁(はっけい)と呼ばれる技の一つだ……。人間の骨格と物理の基礎的な知識があれば十分に可能な技だよ。まさかこれを奥義とか魔法とか言うのではあるまいな――。 
 ふふふ……、お前の成績の悪さが知れるぞ――』
「ちいっ、余計なお世話だ――」
 ちょくしょう……。明日香は余裕を見せ付けるかの様に笑ってくれるが、神業としか言い様がねえ! 
 確かに明日香の使った技は決して不可能じゃあない――。格闘技が科学的に解明された現代で、こんなのを今更、奥義なんて言うバカはいねえ。俺だって琉球空手の道場で教わったこともあるくらいだ。だがパワーを生み出す過程が複雑な分、技を出すタイミングが絶対的に遅れる! しかも自分の、生身の身体じゃねえ、ウォーカーを操縦してるんだぞ! それに敵のウォーカーの走るスピードに合わせてカウンターのタイミングを合わせるなんて絶対に無理だ! どうしてこんなことが出来るんだ?
『火鷹、どうした? 動きが止まっているぞ。この程度で訓練を音を上げられては困るな――』
「ちいっ、心配はいらねえよ! まだまだだやれる!」
『ふふ……、それでこそ教え甲斐があるというものだ。ならば遠慮はいらないな――。
 今度はこちらから行くぞ!』
 な……、ちょっと待て! 人の言葉を真に受けるな! てゆーか、お前の攻撃なんてしのげる訳ねえだろっ!  
『行くぞ! 火鷹ーー!』
 明日香はそんな俺の泣き言を無視し、ウォーカーを俺に向けて突進させた!
 ちくしょう! お前、鬼だーー!
 俺は思わず明日香への恨み節を叫ぶが、こうなったら、やるしかねえ!
 俺は即座に盾を構え、メインモニターで突進する明日香のウォーカーの動きを見極める。
 今だ! いけええぇぇーー!
 ガキイイィィーーン!
 俺の渾身の一撃が明日香のウォーカーに向けて放たれた! 
 だが突っ込んでくる明日香のウォーカーの勢いに勝てるはずもねえ! 俺のウォーカーは一瞬にして後方に吹き飛ばされた! またもや俺の身体に衝撃が走る!
 だか今回はそれだけじゃない! 吹き飛ばされた勢いで、俺のウォーカーはそのまま地面に倒れ込む! いや、中の俺は倒れる処じゃねえ! 高さ5メートルからの自由落下だ! 死ぬ――!  
 うわあああぁぁぁぁーーー!
 ドスンッ! ドスウウーーーーン!
 俺のウォーカーは仰向けに倒れ、訓練場一帯の地面が揺れる!
 完璧なノックダウンだ。中のパイロットは下手をすれば大怪我になりかねない。
 だが明日香は心配する素振りもなく、無線で俺に声を掛けてくる。
『火鷹、聞こえるか? 返事をしてもらおう――。受け身を取ったことは確認している。怪我はないはずだ――』
「……ああ、生きているよ……。一応な……」
 俺は小さな声で『一応』返事だけはできた。だが頭も内臓もハンパねえ衝撃だ。
 うう、流石に目眩もする……。背中の痛みは大したことはないが、あれだけ派手に頭をシェイクされれば、すぐに立てるもんじゃあない。一応、身体の状態をチェックしながら、再びウォーカーゆっくりと立ち上げた。
『火鷹、拳を出すタイミングが早過ぎたな――。運動エネルギーは速度の二乗に比例する。だが腕が伸び切った状態では相手に与える衝撃はゼロだ。シンプルだが全てはタイミングで決まる技だよ――』
「そんなこと言われたって、訓練をすれば俺もこんな技を出来るのかよ?」
『おそらく無理だな。わたしも神眼を使ってこそ可能な技だ――』
「ちっ……、やっぱりな……。神眼を使うお前に敵う訳ねえじゃねえか……」
『ふふ……。その様に自分を卑下することはない。お前も随分上手くなったよ。あれだけの衝撃を受けてしっかり立てたのだからな。これなら本当に遠慮は要らないな――』
「待て! そんなこと褒められても嬉しくねえぞ! 大体、指南するとか言って、結局俺が攻撃を受けるだけじゃねえか?」
『今日は対ショック訓練だと言ってあるはずだ。今更止めるとは言わないだろうな?』
 ちくしょおぉぉう! そりゃ逃げねえけどさ! 今日はもう少しまともな訓練だと思って期待してたのに――。何だのかんだの言ってやっぱサンドバックじゃねえか! しかも一馬と春菜がいねえ分、俺一人の総受けだ!