小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ブリュンヒルデの自己犠牲

INDEX|27ページ/59ページ|

次のページ前のページ
 

 俺は一馬や春菜に聞かれない様に、明日香に微かな声で謝るしかなかった。そんな自責の念に駆られた俺の心の内を慰めるかの様に明日香が優しく声をかけてくれた。
「気にするな、火鷹。誰も悪い訳じゃない――」

* * *

 委員長千早との一件はそれで終わったかに思えた。――だが意外に早く破綻は訪れた。原因は俺達に対する嫌がらせだった。だがイジメと言うにはあまりに些細なものだ。訓練で使うウォーカーのセットアップが後回しにされたのだ。
「ちょっとおーー! どうしてわたし達が後回しにされるのっ! わたし達が先に訓練場も使う予定になってるじゃないーー!」
 スマイル0円がモットーの春菜が今日は珍しく本気で喰ってかかっている。俺達の順番を横から掠め取ったのが委員長の千早なもんで、この前の恨みもあって余計に頭に来ているようだ。その春菜の怒りっぷりが余りにアレなので、一馬がケンカに加わらないのが唯一の救いだ。
「ああ? 仕方がねえだろう? 千早達の方が先に来てたんだ。早い者勝ちってヤツだよ」
同じクラスの三國は嫌みの効いた口調で返事をしつつ、春菜に目もくれずキーボードを叩いていた。この態度の悪さが尚更、春菜を苛立たせる。
「何が早い者勝ちよーー! わたし達の方が先に来てるじゃない。ふざけないでよっ!」
「うるせえなあーー、お前らのことなんて知ったこっちゃねえよ。今まで明日香が頼んできたから、こっちも手伝ってやったんだ。別にお前達までに義理立てする必要はねーな」
「何よおーー! 明日香っちの言う事なら聞くって言うのおーー?」
「当たり前だ。明日香は仲間だからな。だがお前等はそうじゃねえ。とにかくうるせえから黙ってろ! おーい、千早! そっちはどうだあーー?」
「ああ、ボディ・フィッティングも終わったーー。そっちが終わればウォーカーも起動出来るーー」
 そう言って、千早はウォーカーから降りて来たが、春菜には目もくれず三國と話を始めた。 春菜がさっきから「何よ、ズルしてーー」、「明日香っちに頭が上がらないくせにーー」とか千早達を子供みたいに罵っているのだが、連中は全く相手にしていない。ガン無視状態だ。
「おい千早、いい加減にしろよ! ズルだの無視だの、あんまりセコイことしてんなよ。器が小さいのがバレるぜ――」
 流石に春菜を放っておけないと、今度は一馬が千早達に注意を促した。流石に千早達の態度が腹に据えかねただろう。
 だが千早と三國は、そんな一馬の嫌味にケンカを買う様なことはしなかった。それ処か、何故か一瞬呆けた顔をした後――、本気で一馬を笑い出したのだった。
 ワハハハーーッ! ハハハ――!
「お前本気で言ってんのか――? コネか金でこの学院に入ったルーピーが何を器だって?」「馬鹿じゃねーーの? お前ら俺を笑い死にさせるつもりかよーー!」
 そんな千早と三国の予想外の反応に、一馬も唖然とし何も言えなかった。自分が嫌味を言ったのに、二人はそれを全く相手にせず――。それ処か逆に大笑いしてくるのだ。まるで自分が馬鹿みたいに思えたのだろう。一馬の表情が徐々に怒りに変わっていた。
 やばい、一馬まで殺気立ってる――。
 その時だった――。
「何をしている! お前達――!」
 明日香の声が凛として大きく格納庫全体に響いた。明日香は格納庫をカツッ、カツッと大きな音を立て歩いて来る。
 流石に千早達もマズイと思った様で、今までの様な不遜な表情は消え失せていた。
 逆に春菜は明日香という援軍を得て元気を取り戻し、明日香に抱き付いた。
「明日香っちーー! 委員長達がさあ、わたし達の順番を先に取っちゃうんだよおーー」
「何だ……。心配すればそんな事か――」と、明日香がほっとした表情を見せると、
「ううーー、そんな事ってえーー。明日香っちも冷たいよおーー。わたしだって頑張ろうって思ってるのにいーー」
「すまない、春菜。そういうつもりではないのだが――。しかしケンカをする程ではないだろう? 千早達はもうセットアップも終わっている。ここは先に譲ってやってくれないか?」
「うう……、明日香っちがそうゆうのなら我慢するけどーー。でもこいつらが意地悪するんだもん……」
 しかしそんな春菜の一方的な言い分を許せないとばかりに、今まで黙っていた千早と三國が言い返してきた。
「ああ、意地悪――? お前等、何を勘違いしてるんだよ? ウォーカーのセットアップだって命令じゃねえ。こっちはボランティアでやってるんだ。お前等みたいな遊び半分の連中と千早を同列に扱う訳ねえだろう――?」
「そうだ。俺達は命に代えて、このウォーカーを預かってるんだ。お前等なんかと一緒にされる理由はないな」
 だがそんな千早達の不遜な言い方に、一馬や春菜が黙ってるはずがない。
「ああ、オメエら何が『命に代えて』だよ――? 偉そうに、カッコ付けやがって――。エリート様とか言われ過ぎて、勘違いしてんじゃねーのか?」
「そうだよおーー、命懸けだなんて、ちょっとカッコ付け過ぎ! あんた達だって、どうせ女の子にモテたいからウォーカーに乗ってんでしょ! もう少しましなこと言いなさいよおーー」
 ――――――――――――――!
 俺はその場で凍りついた――!
 明日香さえも驚きの余り目を見開き、その端正な表情を強張らせていた――。
 一馬と春菜の何気ないセリフ――。それはこの学院では決して言ってはならない言葉であることを知っているからだ!
千早と三國の冷たい表情が怒りに変わるまで時間はかからなかった。
「お前等……、俺達が命懸けでやっているって言うのを冗談だと思ってるのか――?」
「あったり前でしょおーー。命を賭けるとか、何子供みたいなこと言ってんのよおーー? ちょっと幼稚過ぎるわよ!」
おい春菜、止めろ! 俺には分かる――。そいつの言っていることは嘘じゃない――!
「貴様ら――」 千早が顔を真っ赤にして拳を握り、飛びかかろうとしたその瞬間、
パンッ! パンッ――!
春菜と一馬の頬を叩く音が二つ、静かな格納庫内で大きく響いた。明日香が千早より早く飛び出し、二人の頬を平手で打ったのだ。
「すまない、千早――。わたしの教育不足だ。まだこの二人はこの学院の生徒になって日が浅い。わたしに免じて許してくれないかやってくれないか――?」
 そんな重々しい謝罪の言葉と共に、明日香は千早達に深々と頭を下げた――。
その明日香に頭を下げられた方の千早も驚いた様子だが、誰より驚いたのは春菜と一馬だろう。自分が明日香に叩かれた理由も分からず、自分達に代わって明日香が屈辱的なまでに千早に頭を下げて謝罪をしているのだ。
「ちょっと、明日香っちい……、ねえ……、何であいつらに謝るのよお……」
 春菜は打たれた頬を押さえ涙声で訴えるが、明日香は何も答えない。代わりに千早に対し頭を下げたままだ。
「ふん……、明日香がそこまで言うなら、この事はなかったことにしてやるよ――」
「千早、すまない――」
「おい、さっさと訓練を始めようぜ! 時間の無駄だからな――」
 千早と三國はその場から立ち去り、早々とウォーカーを起動させ格納庫から出て行った。