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ブリュンヒルデの自己犠牲

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「火鷹くん、助けに行きましょう!」 言うと同時に匂宮は観戦席を飛び出す。
俺も匂宮と一緒に倒れた一馬のウォーカーに駆け寄った。
俺はウォーカーのハッチを強制開放し、一馬の様子を確認する。とりあえず出血等の外傷はないが意識がない! 匂宮は急いで一馬の目を開き瞳孔を確認し、首の脈拍、そして呼吸の様子を確認する。
「どうだ、匂宮? 一馬の様子は――?」
「……多分、大丈夫だと思うわ――。脈も呼吸もしっかりしているから、倒れたショックで気を失ってるだけだと思う――。でも念の為に検査を受けた方が良いわね……」
『薫――、一馬は無事か――?』 通信回線で明日香がウォーカーから声をかけてきた。
『大丈夫、一馬くんは多分意識を失ってるだけよ――』
『そうか、それなら良かった。訓練用のウォーカーはパッドを厚くしてある。怪我はないと思うが、気を失う程であれば後で医療課で診断を受けた方が良いだろう』
 ふう、しかし焦ったぜ――。俺も漠然と認識はしていたけど、ウォーカーに乗ることがこんなにエグイものだったなんて思わなかった。あの一馬でさえ気を失うなんて、流石にビビるぜ……、などと考えていると、回線越しに小さく怯えている声が聞えてきた。春菜だ!
『うう……、火鷹っちぃぃ……。わたしどうしようぉぉーー?』
 やべえ、春菜の奴、マジでビビってやがる。そういや一馬が明日香にボコボコにされてる頃から、あの陽気でおしゃべりな春菜が黙ったままだった。おそらくビビって声が出なかったのだろう。次にリアルで袋叩きにされるのは自分なんだからな――。今頃、逃げるかどうか、真剣に悩んでるに違いない。
 そんな泣き事を言う春菜に対し、明日香はいつもの冷徹な口調で話し始めた。
『春菜――、どうする? このまま訓練を続けるかどうか決めてもらおう――』
『あのさあ、明日香っち……。わたし怖いからちょっと手加減してもらえるかなあ……』
『それは出来ない――。それにお前がこの闘いを途中で放棄するのであれば、今後この学院でウォーカーに乗ることは諦めてもらうことになるだろう――』
『……諦めてもらうって、そんなあ……。明日香っちぃぃ……、冗談だよねえ……?』
『春菜、わたしは冗談など言う趣味はない――。
 敢えて言おう! これは訓練ではない。一方的な暴力だ! わたしも“洗礼”などと言ってこの様な暴力を肯定するつもりはない。だが皆、ウォーカーに乗る事を甘く見ているからな――。この経験をすることによって、ウォーカーの操縦技術に差が出てくるのも事実だ。それにウォーカーのパイロットを育成するには莫大な費用を必要とする。怪我をする者も少なくない。一度のみだがこの戦闘用ウォーカーの使用が特別に認められているのは――
 覚悟のない者に身を引いてもらうためだ!』
『そ、そんなあ……』
 春菜はもう完全に涙声だ。無理もねえ、これだけ実力差があって手加減なしだなんて。しかもウォーカーを諦めろだなんてイジメなんて甘いもんじゃねえ! “私刑”以外の何物でもない。
『春菜、止めとけ! お前の夢はアイドルになることだろう? ウォーカーのパイロットになる必要はねえじゃねえか?』
『うう……、アイドル……。そうだよ……、わたしはアイドルになるんだし……』
『どうする、春菜? 無論お前にも断る権利はある。だが断れば次の機会はない――』
 そんな俺の助け船を潰すが如く、明日香は重く響く声で春菜にプレッシャーをかける!
『うう……、わたしは……、わたしは…………』
『春菜……、すぐに決めてもらおう。今、決断出来ない者に今後の訓練に耐えれると思えない!』
『うわあああぁぁーーん! やるううぅーー! わたしはウォーカーに乗って、アイドルになるう! わたしも”エースの明日香”になるんだああぁぁーー!』
おい、春菜、追い詰められて狂ったか? ウォーカーとアイドルは関係ねーだろう? 何をどう狂ったか分からないが、春菜の馬鹿はそんな訳の分からない事を叫びながら、ウォーカーを俺達に向かって突進させてきやがった。
『うわあああぁぁぁーーーんっ!』
 ドスン、ドスン、ドスン、ドスン、ドスン、ドスン――!
もちろん春菜が向かっているのは、明日香のウォーカーに対してだろう。だが春菜のヤツ、俺達がその隣の一馬のウォーカーにいるのを忘れて突進して来やがった。生身の俺達を巻き込こんだらどうなるかなんて考えてもいねえ! キレたどころじゃねえ! 100%完全に錯乱してやがる!
おい春菜、待て、待てーー! 俺達もこっちにいるんだぞ――!
『春菜やめろ――!』『春菜さん、止まって――!』俺も匂宮も通信回線で必死に叫ぶが、春菜の耳に届いちゃいねえ。
 だが、そんな春菜の絶叫に混じって、明日香の声が聞えてきた――。
『火鷹、薫、そこから動くな――』
 同時に明日香のウォーカーも春菜の暴走ウォーカーに向けて突進を始めた。
 ドスン、ドスン、ドスン――。ドスン、ドスン、ドスン――。
 うわあ、ウォーカー同士が衝突する! こんなスピードでぶつかったらウォーカーは? そして中の明日香も春菜もどうなるんだ!?
ガシイイイイーーーーン!
 訓練場に金属の轟音が鳴り響いた――。
 明日香のウォーカーは自らも突進しながら左掌底でカウンターを合わせ、暴走する春菜のウォーカーを強制停止させたのだ。しかし突進して来たウォーカーを急に止めれば、中の春菜は壁に激突する様なものだ。春菜にしてみれば、たまったもんじゃない!
 ご丁寧なことに明日香はもう一度、右フックをたたき込み春菜の動きが完全に止めた後、春菜のウォーカーの膝を折って、強制的に地面に叩き伏されてしまった。
 春菜……、お前やっぱり、アホの子だ……。

* * *

「あらあら、それじゃ二人ともやられちゃったんだ――?」
 その模擬戦の次の日、恒例となった土曜日のお弁当の会で千鶴さんはクスクスと笑いながら、一馬と春菜の『武勇伝』を楽しそうに聞いていた。
 まあ話自体も面白いのだが、二人が明日香に謝る姿がまた笑えてしまう。普段から陽気なお茶らけた連中が急に真面目になっても、まあはっきり言って様にならない。二人には悪いが、やっぱり笑っちまう。
春菜は「うう……。これからマジメにやりまあーーす」と神妙な面持ちだが、やや不貞腐れた感じもしないこともない。素直に謝らないしな。
一馬は「明日香ちゃん、さーせんでしたっ!」と顔は真剣なものの、言葉はアレだ。やはりどこかヌケている。
 明日香は「わたしは別に気にしていない――」とにべもなくクールに返事をするだけだ。特に今回の事で怒ったとか、二人の見方を変えたとかいう事はない様だ。まあ、それはそれで悪くないかな。
「うう……。明日香っちーー、まだ怒ってるのぉぉーー?」
「元より怒ってなどいない。ウォーカーに初めて乗る者にはよくある事だ。お前達もその中の一人に過ぎない――」
「じゃあ、明日香っち、何でそんな冷たい言い方なのお……?」
「……この言葉遣いを不遜に思うならすまない。だがわたしの父も祖父も軍人でそれに倣ったものだ。この学院は軍の士官を育成するためにある。ここでは無礼には当たらないものだ」