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ブリュンヒルデの自己犠牲

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まったく明日香じゃないが、ガンダムとか考えた奴に文句の一つでも言いたくなる。お前ら何も考えてなかっただろ――!
『それではまず、ウォーカーの歩行訓練を行う。モニターの指示に従って進むように。もちろんただ歩くだけでは訓練にならない。途中走ったり階段を登る等の複雑な地形を走破してもらう。良いな?』
「「了解――」」
 俺達は明日香の指示に従いウォーカーで歩行を始めた。ちょっと危なっかしいが、歩くだけなら何とかなりそうだ。しかしウォーカーってのは良く出来てるって感心する。こいつは俺達が手足を動かすのをトレースするだけじゃなく、逆にウォーカーの動きを俺達にフィードバックする機能もある。つまり地面の凹凸や勾配でウォーカーの足首が変化すれば、俺の足首の角度も微妙に変わり、そして坂道になれば当然機体も傾くが、中の俺もそれに合わせて姿勢を変えると機体も倒れないよう姿勢を変化させるという訳だ。自分が歩いている感覚とすっげー似ている。なる程、『ウォーカー』とは良く言ったもんだぜ。

それ以降、俺達は訓練の度、ウォーカーでの歩行訓練を続けさせられた。だが流石にこの訓練が一週間も二週間も続くにつれ、一馬や春菜のヤル気がダダ下がりになり始めた。
何の事はない。何の変化もない、ただショックに耐えるだけの歩行訓練が嫌になり始めたのだ。
『おおーーい、火鷹……。今日はもう1時間は歩きっ放しじゃねえ?』
『まだそんな歩いてねえだろ?』
『そうかあ……。ああ、辛えことって時間がほんと長げえよなあ……』
『わたしも……、もう嫌ああ……。これって疲れて乗り物酔いするだけだよぉ……』
 どうも二人とも精神的にダレてきている。ドスン、ドスンとシミュレータのショック音と共に、通信回線で、さっきからこんなグダグダの会話をらずっと聞かされっぱなしだ。
 二人ともこのシミュレーターに乗りたてのころは、体を揺らすショックに耐えきれず、メシも喉も通らないこともあった。そんな辛さにもウォーカーに乗れる嬉しさから耐えられてし、それなりにヤル気はあった。しかしこれが二週間も三週間も続けば別だ。
シミュレーターは山道や階段など様々な地形を歩く設定となっている。しかしただ歩くだけじゃあ、二人が嫌になるのも無理はない。シチュエーションに多少の変化は合っても、この訓練は基本的に歩行時のショックに耐えるだけで肉体的に辛いだけだ。同じ訓練でもランニングやモーター・ブレードの様に思い切り走ってスカッとすることも全くないしなあ。
もちろんこの程度の訓練で俺達が完璧に歩けたり走ったり出来る様になった訳じゃない。実際下手に走って何度かコケている。ただ幸いなのはこのシミュレーターは縦揺れにしか対応しておらず、横転時の衝撃は然程でもないことだ。そんなこともあって緊張感が緩んでしまうのは否めない――。そんな単調で辛い訓練のためか、二人の愚痴は止まらなかった。
『俺って実戦派だからなーー、早く本物のウォーカーに乗りてえよおお』
『おおーー、カズマン気が合うねええ。わたしも実戦派だから、絶対本物のウォーカーの方が上手く操縦出来るよおーー』
『何を言っているんだ、貴様達は!』 流石に明日香から厳しい声が飛んだ。『実際のウォーカーはそんな温いものではないぞ!』
『でもさあ、明日香ちゃん。流石に歩くだけじゃあちょっとさあーー』
『そうだよーー、明日香っちーー。この練習キツイだけで面白くないよーー。やっぱり楽しい方が練習だってはかどるよっ』
『何を言っている! 歩行訓練はウォーカーの訓練の中でも最も重要なものだ! これを疎かにすると大怪我をすることになるぞ!』
『ああーい……。分かりましたああーー』
『わかったよおおーー。ちゃんとやるよーー』
 一馬も春菜も、明日香が真剣に怒るので一応は謝ったが、二人とも不貞腐れちまった。なんてガキなんだ! まあ、二人の気持ちは分からんこともないが――。でもこりゃまた明日香の雷が落ちそうだなあ……。ヤバいぞ、これ……。
 ところが明日香の言葉は意外なもので、俺の心配を華麗に裏切るものだった。
『そうか――、ならば二人とも本物の戦闘用ウォーカーに乗ってみるか?』
『えっ? 明日香ちゃん、マジ? ホント?』
『ええーー? 明日香っちーー、冗談じゃないよね?』
 なにっ? 戦闘用ウォーカーをいきなりか? 嘘だろう?
『冗談ではない。元々この学院の新入生には歓迎の意味も込め、一度だが戦闘用ウォーカーの使用が認められている。乗りたいのであれば、わたしから申請をしておくがどうする?』
『やる! やるやる! 明日香ちゃん見ててくれーー!』
『やったあーー! これでわたしもアイドルに一歩近づくね!』
「明日香! 本当に良いのか?」
『ああ、構わない。元々早い段階でウォーカーに乗ってもらうつもりだった。その方が後々の教育がやり易い。火鷹はどうする?』
 ……これは一体、どうゆうことだ……? どう考えても常識的にあり得ない。シミュレーターもロクにこなさずいきなり戦闘用ウォーカーって――、そんな甘い話がこの軍の組織である白鳳学院で許されるのか? 考えれば考える程、嫌な予感しかしない……。
「いや、今回は止めておくよ――。次の機会で良い――」
『そうか。分かった』 その時明日香はそれだけしか言わなかった。

* * *

「ひゃっほおーー! 本物のウォーカーだ! 神マシン、キタ――!」
次の週、ホントに戦闘用ウォーカーが来た。最新鋭機ではないが、キッチリ、ファクトリーでメンテナンスされた一級の戦闘用ウォーカーだ。
マジかよ? 銃なんか比べ物にならない軍事兵器がこんなに簡単に使えるなんて信じらんねえ!
そんな俺の驚きを余所に一馬と春菜ははしゃぎっ放しだ。
「すごいよーー、大きいよーー! ねえねえ、カズマン、写真撮ろう、記念写真!」
「よっしゃーー、火鷹、たっぷり撮ってくれ。友達に自慢するからな――」
「わたしもーー、パパとママと、それとお兄ちゃんに見せるーー!」
「あんまり浮かれるなよ。怪我するぞ」などと一応嗜めはしたものの二人共まるで話を聞いちゃいねえ。駄目だ、完璧に舞い上がってやがる。二人ともウォーカーの上に乗って早く写真を撮れと五月蠅い。春菜は一々ポーズを決めて、「上手く撮ってねーー!」とあれこれ注文を付けて来るし。
 それにしても不気味なのは明日香だ、この二人の浮かれた様子を見ても何も言わない。それどころか対戦相手に自ら買って出る始末だ。しかしいきなり明日香と対戦かよ? しかも専用機を出しているぞ。 一馬も春菜も自信をなくすんじゃないか――と思いきや、二人とも箔が付くと大喜びだ。
「そりゃ、いきなり勝てるとは思ってねーけど、明日香ちゃんと良い勝負が出来れば、俺も将来近衛隊に!」
「なれる訳ねーーよ」俺は突っ込みを入れたが、
「ハハハーー。まあ火鷹、見てろよ!」と一馬は余裕で大笑いするだけだ。
春菜は春菜で、「あの”エースの明日香”と対戦だよっ! アイドルでデビューしたら絶対この話自慢できるねっ。トークで盛り上げちゃうよっ!」とか言う始末だ。