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ブリュンヒルデの自己犠牲

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「それでは改めてウォーカーの操作方法について説明する。このシミュレーターに乗れば嫌と言う程分かると思うが、このウォーカーの操縦は一般に考えられているより遙かに難度が高い。大昔のアニメではレバーやボタン程度の物で操作しているのを見るが……、まあ正直言ってあまりの幼稚さに呆れる他はない――。人間の特に手や指、腕の複雑な動きは、あの様なレバーだけではコンピューターの補助があったとしても絶対に不可能だ。なぜあのような科学的根拠のないロボットなどを考え付いたのか正直理解し難い。まああんな物を見て喜んでいた大人がいると言うのだから笑ってしまう。フッ……、黒歴史確定だな――」
 おいおい、待て待て、明日香! 何てこと言うんだ! そんなことを言われたら、富野さんが泣いちまうぞ。ガンダムは大人の夢だったんだ。夢を壊さないでやってくれ!
「その問題をどの様に解決したのか――。3人ともシミュレーターに乗ってもらおう。そうすればウォーカーの基本的な操作が分かると思う」
 明日香のOKが出た。早速俺達は喜び勇みウォーカーのコックピットを模したシミュレーターに乗り込んだ。いや『潜り込んだ』という方が正しいかも知れない。俺達は身体一つ分の非常に狭い『穴』に潜り込む形でコックピットに入ったからだ。そしてその穴は人の身体にフィットした『大』の字をした形をしている。俺達はその所定の位置に手と脚をはめ込む様に身体をセットした。
 ここまで説明すれば分かって貰えると思う。要するに俺達の手脚の動きをトレースさせることで、ウォーカーを操縦するって訳だ。これで人間の手や指の細かな動きを、人型ロボットが容易に再現することが出来る。レバーやボタンで人間の複雑な動きをマネすることなんざ出来っこない。なら人間の動きをそのままそっくり再現すれば良いってことになる。まあ簡単な理屈だけど、そもそもドパージュによって人間がロボットに搭乗出来る様になって初めて完成した技術でもある。だがウォーカーの操縦が難しいのはここからだ。
『全員、所定の位置に脚と腕、手はセット出来たか? 確認して欲しい』 明日香の声がシミュレーター越しに聞こえた。
『さて問題はここからだ。そもそも人型ロボットで一番の問題は二足歩行の問題だ。ただ歩くと言う行為だが、その運動は極めて複雑だ。人間の目で微妙な地形を観測しつつ即座に歩行するルートと決め対処する――。それだけではない。足にかかる負荷や地面の凹凸を足の感覚から機敏に察知して即座に身体を変化させ、人間の平衡感覚でバランスを取り、また腕を振り重心の変化まで行いと――。現代のコンピューターでさえ不可能な複雑な動きをするのが人間だ。特に歩行や走行は臨機応変な対応が要求される。コンピューターが最も苦手とする分野だ。どんなにコンピューターの処理速度が上がっても絶対的な限界がある。
――しかし人間が搭乗することが可能になったことで、これらの問題は一気に解決した。人の足の動きをトレースし、それをウォーカーが再現することで、俊敏かつ安定性の高い動きも可能になった。なぜこのマシンが『ウォーカー』と呼ばれるのか、操縦者が一番実感することだろう。実際に我々が歩く動作をコックピット内で行う事で、初めてウォーカーも歩くことが出来るからだ。だがウォーカーを操縦するにはかなりの技術が必要となる。これからシミュレーターで歩行訓練を行うが、実際にやってみれば分かるだろう。
――それではこれよりシミュレーターを起動させる! モニターのスイッチを入れ各自の手脚を拘束し、ウォーカーとリンクさせる様に――』
「「了解――!」」
 俺達は一斉にウォーカーに指令を出した。
 "Headset On!", "Monitor On!"
 俺達の頭にヘルメットが覆い被さる。正面に外部を写すメインモニターが表示された。
 "Right Leg, Left Leg Bind!", "Right Arm, Left Arm Bind!"
 "Right Hand Fingers, Left Hand Fingers Glove Set!"
俺の両手両足が器械で拘束され、指を入れたグローブに負荷がかかる。
 "Battery Supply On! Motor Start! Safety Unlock! Walker Stands Upright!"
 バッテリーをモーターに供給。ウォーカーはいつでも動ける様、直立の姿勢を維持。
 Link the Body to Walker!
俺の拘束した手脚が器械で引っ張られ、ウォーカーと同じ直立の姿勢にさせられる。ウォーカーと俺の身体がリンクしたのだ。これで俺の動く通りにウォーカーも動くことになる。
『それではウォーカーを歩行させろ!』
 明日香の高い声が響く――。俺は右足を前に出し、同時に重心を前に倒した。
 ズン! さらに左足を前に出す――。
 ズン! 身体が揺れた!
 歩を進める度に身体にガツン、ガツンととんでもない縦揺れが襲って来る。シミュレーターとは言えハンパねえ衝撃だ――。足でショックを受け止めきれず、内臓がシェイクされ、その都度腹筋に力が入る。頭も歩く都度かなり揺らされる。首でしっかりと支えねえと意識が飛びかねねえ。ノン・ドパージュの人間が乗ったら首の骨を折るって言うけど、こりゃあ嘘じゃねえな。
『全員ウォーカーの操作に問題はないか――? 問題がなければ返事をする様に――』
「異常なし――」「わたしは平気だよっ!」「おお、最高だぜーー!」
『よし、全員、ウォーカーの起動コマンドは正確に記憶していた様だな。それでは暫くそのまま歩き続ける様に。シミュレーターでの衝撃は実際にウォーカーに乗った時よりソフトなものだが、それでも初心者であれば歩行訓練も含め、十分な対ショック訓練になる』
どうやらコマンドの発声に間違いはなかったようだ。そう、もう気付いた人もいると思うが、ウォーカーの操作というのは手脚を動かす操作以外は全部、口頭で声に出してやらなきゃいけないってことだ――。手脚が拘束されているので、当たり前と言えば当たり前なのだが、これが実にやっかいだ。一々操作コマンドを暗記しなきゃいけないからな。一応、パソコンの様にメニューを呼び出し、一つ一つコマンドを追って行くことも出来るが、それじゃあ操作は格段に遅い。基礎的なコマンドについては、暗記することが絶対に必要だ。
それだけじゃない、外部を写すモニターに表示される文字情報の数がやたらめったら多い――。
ジャイロ機構による機体の水平・垂直度計測は転ばない為に重要だ。機体の姿勢や手脚の動きを3Dポリゴンで常にチェックする必要もある。外部を写すモニターも正面だけ見りゃあ良いってもんじゃない。左右の画面もちょくちょく見る必要があるし、特にウォーカーが転ばない様、歩く時は常に足元を見ている必要がある。他にバッテリーの残量やモーターの稼働状況、武器類のモニター、通信機器、解析用のPC画面など兎に角やったらに多い。今更ながら人型ロボットの複雑さに頭が痛くなる。元々人型ロボットを一人で操縦するなんて無理らしい。手足の動きをトレースすることでギリギリ何とか動かせる状態だそうだ。