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ブリュンヒルデの自己犠牲

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 流石に俺達も我慢できなくなり、ちょっと匂宮の隙をみて、明日香の書いたトレーニング・メニューとやらを覗き見た――。
 俺と一馬は唖然とした。目が点になった。かなりのマヌケ面だったことは間違いない。しかしこんなものを見たら誰だってアホ面に変わるだろう?

ハッピーセット・メニュー?
500mダッシュを全力で、限界まで繰り返すこと。以上。
明日香

 何だ――、これは――!? 冗談だろ? エースの明日香が組んだっていうトレーニング計画だからどんな精緻なプログラムが書いてあるかと思えば、たったこれしか書いてねえーー。何だこのアホ丸出しのメニューは? 『全力で』『限界まで』としか書いてねえじゃねえか?
 ついでにこの『ハッピーセット・メニュー?』って可愛い丸文字で書かれているのは何だ! 一体どこがハッピーなんだよ! こんな地獄の練習がか? マックのお子様メニューじゃねえぞ! 突っ込み処満載の書き込みだ。
「え、ええと、あのお……。火鷹くん、一馬くん、それは違うの! それにはちゃんとした理由があって……」
 と匂宮がえらくまごつきながらも、申し訳なさそうに説明してくれた。彼女の話ではこうらしい。
「最適なトレーニングメニューって個人毎に違うから、一様にダッシュ何本とか決めることが出来ないの……。それ以上出来る人間はトレーニングを休むことになるし、それ以下しか出来ない人は逆にオーバートレーニングになるわ……」
 だから練習では匂宮が俺達のトレーニングに付き合って、一本、一本、ダッシュのタイムをきっちり計測してくれる。まずこれで『全力で』走っている時のタイムを調べ、そしてタイムが全力時のものから10%落ちたら、そこが肉体の『限界』らしい。もう休んでも回復は見込めないのでそこで練習は終りになる。
 早々に春菜がダッシュを終わらせ、クールダウンに入っていた。「今日はちょっと調子が悪いんだよおおーー」と言い訳をしやがる。俺達が「ホントかよ?」とサボるな目線を入れると、匂宮が助け船を入れてくれた。
「タイムが落ちているから仕方ないわ。これが春菜さんの限界かも知れないし、本当に体調が悪いかも知れない。何れにせよ、オーバートレーニングを防ぐためにも、タイムが落ちたらすぐに終りにするわ。数字は嘘はつかないから――」
 こうゆう具合に『全力で』『限界まで』とアバウト極まりないトレーニングメニューだが、匂宮の手にかかると、一にタイム、二に数字と言った具合で、キッチリしたものに変わるから不思議だ。この辺がノウハウの違いなのだろう。
そして練習の後、ここからが匂宮の本領の発揮だ。
まず成長促進剤と栄養剤がブレンドされた点滴を受ける。これでトレーニング後の疲労回復だけでなく、超回復現象により筋組織や骨格も一気に強化される。無論、ただこれらの薬を打つだけじゃダメだ。実際に練習の後、耳たぶから僅かに血を抜かれ、それを匂宮がチェックをする。これで俺達の栄養の過不足やドパージュの反応を検査するらしい。栄養剤もドパージュも個人によって投与できる量や種類が違ってくるからな。
 次は電気パルスによる全身マッサージだ。全身を覆うスーツを着て電流を流すと全身の筋肉がビクンビクンと動き出し、強制的に筋肉の血液を循環させ疲労物質を吐き出させてくれる。これもただ電流を流すだけじゃダメだ。筋肉の部位沿って+極と−極を配置する必要があって、人体の筋肉の構造をちゃんと知っている人間がやらないと効果が低い。これで低い電圧でも効果的に筋肉が刺激されマッサージ効果が出る訳だ。何も知らない人間がやたら高圧の電気を懸けたら――、そんな過激なプレイ、マジで考えるだけで恐ろしい……。
つまりこういった身体をケアし管理するプロがいるから、この学院では通常ではありえないレベルのメニューを躊躇なく課してくる。そしてその負荷に合わせて体力が劇的に向上する訳だ。エリート組はこうゆうことを中学の時からやってるって言うんだからなあ。そりゃあ敵わねえ訳だ。
 さてと……。これだけのことが終わってやっと風呂だ。さて、この学院の寮の風呂には水風呂がある。アイシングとして全身を冷やしてやるためだ。だが氷水に近いそれは慣れるまで本当に死ぬかと思う。スポーツマンガだと疲れて風呂の中で寝るなんてギャグがあるけど、ねーよ。一発で目が覚める。これも匂宮からの指示なのでやらない訳にはいかない。実際これでかなり楽になるしな。
 さて風呂にも入ったし、もう寝るかあ……。寝るか――って、これが寝れねえんだよ!
誰だ? 疲れて泥の様に眠るなんて言った奴は? トレーニングを限界を超えるまでやると人間は眠れなくなる。とんでもないトレーニングで傷付いた筋肉が悲鳴を上げ、全身に軽い電気をかけた時の様な痺れる感覚で目が冴えてしまうのだ。
一応こんな時のために匂宮から睡眠導入剤を渡されているが、睡眠導入剤は身体の負担も考え利用は控えられる。じゃあ、どうするかと言うと寮に居る教師が首を極めてくれる。頸動脈を締め脳の血流量が低下し一瞬で落ちる。世間では気絶と言うだろうが、俺達はこれでやっと寝れる。
これがホントの“スリーパーホールド”。文字通りの“寝落ち”だ。笑ってくれ……。



* * *


『ザ・マシン・ウォーカー狂想曲』


「それでは今日よりマシン・ウォーカーのシミュレーターを交えた講義に入る! これまでの講義である程度ウォーカーの操作方法について理解はしたはずだ。無論、学習すべきことはまだまだあるが、実際に操作をしなくては分からないことも多い。そのための訓練だ。決して無茶な行動はしない様に。わたしの指示に従えなければ、今後ウォーカー本体はもちろん、シミュレーターにも乗せる訳にはいかない。分かったな?」
明日香がいつもの上官めいた口調で注意を促すが、シミュレーターに乗れる嬉しさから一馬と春菜は、「もちろんよ、明日香ちゃん!」、「明日香っち、分かってるってーー」と満面の笑みで返事をする。
明日香はそんな二人の緊張感のない返事に不満そうな顔をしているがが、もうこの二人のノリに慣れたのかそれとも諦めが付いたのか、「はあ、まったく……」と溜め息を付くだけだった。
まあしかし二人が喜ぶ気持ちも分からないではない。実際、このシミュレーターに乗るまで一カ月ぐらい講義漬けだった位だ。それがやっとシミュレーターに乗れるようになったんだ。ウォーカー本体の乗るのはまだ先とは言え、嬉しくもなるさ。