本当にあったゾッとする話8 -もう一人の自分-
本題に入ろう。
よく、「世の中には自分にそっくりな人が3人いる」と言われる。
この拙い文章を読んでいる方は、自分にそっくりな人に会ったことがあるだろうか。
私は会ったことがない。しかし、私が若い頃の一時期、多くの人が、私にそっくりな人に出会っていたようだ。
ある日のこと、大学への通学途中、小田急線に乗っていたときのことだ。社内が混んでいたので、私は立ったまま文庫本を読んでいた。(当時の私は、電車の中では意識的に立つことにしており、よほど空いていない限り、電車で座ることはほとんどなかった。)
傍に立っていた若い女性が、突然気が付いたように、いきなり私に話しかけて来た。
「ああ、○○さん、気が付きませんでした。これから大学ですか。」
私は驚いてその女性の顔を見つめた。まったく知らない人だった。
「すみません、人違いではありませんか? 私は○○ではありません。」
私が答えると、その女性は笑い出した。
「冗談でしょ。あなた○○さんですよね。」
「いいえ、私は××(私の本名)です。○○という人はまったく知りませんし、あなたとも初対面です。」
私が真顔で言うと、その女性も真面目な顔に変わり、まじまじと私の顔を見つめた。
「本当にあなたは○○さんではないのですか?」
「違います。」
私がきっぱりと言うと、その女性はきまり悪げに「そうですか」とだけ言って、私から離れた。
私も単なる人違いだろうと思い、そのときはそれ以上気にしなかった。
それからしばらく経ったある連休に、私は一人でふらりと旅行に出た。目的地は、東京から比較的近く外国人も訪れる有名な観光地だった。
私はこの観光地の、とある小さな旅館の経営者と知り合いだった。夏休みや長めの連休にふらりと訪れ、館内清掃や配膳や受付の手伝いをする代わりに、いつも無料で宿泊させてもらっていた。
その時もこの旅館を訪れ、仕事の手伝いをした。
フロントに入って受付の手伝いをしていたときのことだ。4人ほどの若い女性のグループがやって来て、受付をしているとき、中の一人が私を見て、声を掛けてきた。
「ああ、○○さん、こんなところで会うなんて、すごい偶然ですね。今日はバイトですか?」
私は驚くと同時に、以前の小田急線での出来事を思い出した。
「いいえ、私は○○ではありません。」
前回同様、私は間の抜けた返事をした。
「えっ? ○○さんじゃないんですか?」
女性の言葉も、間の抜けたものだった。
「○○さんと私って、そんなに似ていますか?」
私は逆に質問した。その女性は困ったような顔をした。
「うーん、似ているというか、○○さんそのものなんですけどね。私をからかっているんじゃないですよね?」
この時点で私は怖くなった。それほど似た人間がいるのだろうか。
「いいえ、私は××と言います。R大学の学生です。○○という人は知らないし、あなたとも初めて会います。」
私がそう言うと、その若い女性は納得しきれない表情を浮かべながらも、渋々と言った態で答えた。
「そうですか・・・あまりによく似ていたので、失礼しました・・・」
私は、私に似た人を知っている人と偶々、2回会っただけだろうと思った。
しかし、3回目の経験によって、その確信が持てなくなった。
作品名:本当にあったゾッとする話8 -もう一人の自分- 作家名:sirius2014