上社(兄)の758革命
「さて、待ち伏せ攻撃のほうはどうしたものかな」
上社は隊員たちが見守る中、警視庁舎の1階で待ち伏せているはずの敵をどうするべきかを考えていた。
展開させていた突入チームは、いったんこちらに呼び戻した。死を覚悟していたらしい突入チームは、また無謀な突入を命じられるのではないかと不安がっているようだ。その不安の塊は、上社にプレッシャーとしてのしかかる……。
「…………」
いい案が浮かびそうな様子の上社の視線の先には、突っ込んできた消防車があった。彼はすぐに、頑丈で大きな消防車のエンジンを確認してみた。そして、まだ走行できそうだとわかると、
「おい! このあたりにガソリンスタンドは無いか?」
いっしょに消防車を確認していた隊員にそう尋ねた。
「ここから南のほうにあったと思うけど、ガソリンはまだ足りているぞ」
「いや、そうじゃないんだ。ちょっと行ってくるから、ここで待機していてくれ」
「ああ、わかった」
上社は、その場から一気に駆け出すと、目的地であるガソリンスタンドへ向かっていった。敵スナイパーたちによる銃声が、また響き始める。
警視庁舎から見えないところまで走ると、狙撃は止んだ。そのことに安心しつつも、上社は走りつづけた。敵や民間人の姿は見えず、どこか遠くからサイレンが鳴り響いてくる。
道中、官庁街担当の隊員と遭遇し、簡単な挨拶をかわした。官庁街担当の部隊はすでに制圧を終え、ちょっとした「小遣い稼ぎ」を始めているようだ……。「拝借」してきたトラックに、省庁舎から「接収」してきた絵画や骨董品など(元々は我々の税金だが)を隊員たちが積み込んでいた……。
普段の上社なら、そんな「小遣い稼ぎ」を非難するだろう。しかし、彼もこれからある物を「拝借」しようとしているので、黙っているしかなかった……。
しばらく走ると、先ほどの隊員が言っていたと思われるガソリンスタンドに着いた。法務省舎から徒歩10分ぐらいのところで、ビルの1階部分にガソリンスタンドがあった。ガソリンを買い占めようとする客でごった返していると予想していたが、この辺一帯はすでにCROSSが制圧しているおかげで、客も店員もいなかった。
「ラッキー!」
上社がうれしく感じたのは、混雑していなかったことだけでなく、ガソリンの補充に来たらしいタンクローリーが近くに止まっていたことであった。
さらに幸運だったのは、ドライバーは急いで逃げたらしく、ドアにカギはかかっておらず、イグニッションキーが挿しっぱなしだったということだ。しかも、タンクにはたっぷりガソリンが入っているらしかった。これらの奇跡は、彼の日頃の行いが善いからだろう……。
上社は、ポケットからある物を取り出すと、それをタンク部分にペタリと張り付けた。文庫本のような形と大きさをしているそれは、1人1個支給されている接着式小型爆弾であった……。遠隔操作の爆弾のため、上社は起爆リモコンを、すぐに取り出しやすいポケットへ移動させた。
作品名:上社(兄)の758革命 作家名:やまさん