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上社(兄)の758革命

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「急いだほうがいいな」

 上社はそう呟くと、パトカーのサイレンの音量を最大にした。そして、彼は、歩行者でごった返している歩道を堂々と走り始めた……。サイレンと赤色灯を使っているものの、鈍い歩行者を何人か轢いた……。うるさいサイレンの中に、悲鳴や断末魔が混じる。しかし、哀れな轢かれた歩行者の横を、轢かれずにすんだ歩行者が何事も無いかのように歩いていく……。この混乱のせいで、他人に対してさらに無関心になっているようだ。
『鉄道が動いていないらしく、あちこちの道路がごった返している。迂回路を教えてくれ!!!』
『すまないが、自力でなんとかしてくれ!!!』
警察無線から、道路事情がマヒしているという情報も入ってくる。自力でなんとかしろといっても、歩行者がいっぱいの歩道を、警察官がパトカーで走るわけにはいくまい。



 上社が運転するパトカーは、日本新記録の数の歩行者を轢いた後、警視庁舎付近まで無事に到着した……。当然、バンパーやボンネットには、新鮮な血がこれでもかと思えるほど付着しまくっていたわけだが、彼は自分たちの正義を信じているため、罪悪感など湧いていないようだった……。彼からすれば、自由のためなのだから多少の犠牲は仕方ないだろうということだ……。

 警視庁舎付近に来てから、その場が不気味なほど静かであることに気づいた。上社は、パトカーのサイレンを切り、路肩に車を寄せて、慎重に様子をうかがう。ここは中心地であるはずなのに、この静けさは普通ではない。
 その付近一帯に人の姿は見えなかった……。車は放置され、紙屑が地面を転がっていく。まるでゴーストタウンのようであった。
 聞こえてくるのは、皇居の木々が揺れる音や少し離れた場所からの喧騒ぐらいであった。人の姿だけでなく、野鳥の姿も見えない。しかし、上社は第六感から、どこかに大勢の人がいるという気配は感じ取ることができた。
「こちら、応援に来た上社。どこに行けばいいんですか?」
上社は、外から見えないようにしながら、CROSS専用の無線機を使う。
『こちら、警視庁担当部隊。我々は法務省の建物にいる。警視庁舎の屋上にいるクソスナイパーどもに注意してくれ』
味方は法務庁舎にいるらしい。警視庁舎の屋上をこっそり見ようとしたが、角度の問題でよく見ることができなかった。そのため、どこに敵スナイパー達がいるのかもわからなかった。しかし、「クソ」呼ばわりされるぐらいなので、相当の腕前を持つスナイパー達なのだろう。
「イチかバチかだ」
上社はそう呟くと、ドアを一気に全開にし、車から転がり落ちるように降車した。

   タァーーーン!!!

 尾を引くような銃声が響いたかと思えば、上社が座っていたパトカーの運転席に銃弾が命中した。座席からクッション片が飛び出す。
 銃声と角度から、警視庁の屋上から撃たれたことが推測できた。上社はそのまま、法務省舎に向かって駆け出す。彼は全力で走りながら、敵スナイパー達の姿を確認することに成功した。敵スナイパー達は2人で、観測手はいないようだが、ベテランらしかった。
 もう1人の敵スナイパーの撃った銃弾が、彼の足元に当たる。砕けたアスファルトの粉塵が舞い上がったが、彼は臆することなく走り続ける。