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参時の冒険譚

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三 大きなずれ


  17

 退院してすぐ,またヘッドエイクが起こった。体が宙に浮いていく。その時,ふと見たカシオの時計の針が,いつもと違い,三時を指していなかった。
回数もだんだん頻繁になっているように感じる。今回は,パターン2の頭痛だ。三時でなかったことを疑問に思いながら,僕の視界が白くなっていった。

 「大丈夫か? コージ」
目を開けると,前にマンドゥーハがいた。とっさに思い出す。確か,この前は観光をして途中でかがみ込んで…。
「どうだ? 銃の使い方は覚えたか?」
マンドゥーハはそう言った。
「え?」
銃の使い方? 気がつくと僕は,自動小銃を抱えていた。
「なぜ僕は銃を持っている?」
「は? 今俺が銃の使い方を教えていたじゃんかよ」
「・・・」
全くそんな記憶はないのだが…。しかし,銃を構えたら,僕は使い方を知っていることに気づいた。
パン
「撃ててるよ。いいよ,うまい」
マンドゥーハが寄ってきた。
「次はフルオートで撃ってみよう」
「フルオート?」
「そうだ。今の単発がセミオートで,フルオートはこうやるんだ」
マンドゥーハは,レバーを動かして渡してきた。
「撃ってごらん」
言われたとおりに撃つと,パパパパンと小銃が火を噴いた。引き金を引き続けて,だいぶ長い時間撃っているように感じた。気がつくと,玉がもう切れている。
「…おまえ,玉全部使いやがったな?」
「いけなかった?」
「あれ自腹だぞ,おい?」
「そう?」
「そう? じゃねーよ」
マンドゥーハはニカッと笑い,首を絞めに来た。

  18

 マンドゥーハの手をはらうと,僕は聞いた。
「なぜ銃の使い方を教えてくれているの?」
「分からないのか? おまえは今エジプトにいる。戦争の中にいるんだ」
「僕も闘うの?」
「場合によってはな」
 おかしなことになってきた。僕はエジプトの文化を守るために闘う。しかし,それと対立するエジプトを変えるための軍と共にも,闘うことになってしまったのだ。
 その時,また予期せずに頭痛がした。そういえば,さっきフルオートで自動小銃を撃ったときなぜ頭痛がしなかったんだろう? もう慣れたのだろうか,それとも何かが動き始めているのだろうか…。
 「頭痛しか起こさないんだな,コージは」
呆れたようにそう呟く軍曹の輪郭が,だんだん白くなっていった。
  19

 「大丈夫? コージ」
僕が目を覚ましたのは,オアシスの集落だった。近くにはライラがいる。大丈夫? という言葉を一体何回聞いただろう。
 「無理しなくてもいいんだよ。銃の使い方を村長に教わっていたら,コージ,急に疲れたって倒れ込むから」
「銃の使い方を教わった?」
「うん。さっきまで村長に教わってたじゃん」
その時,アフマドがテントに入ってきた。
「どうだね,調子は」

 どういう意味だろう。
 僕がいない間にエジプト内での事が勝手に進んでいる。さっきのマンドゥーハの時もそうだった。まるで,僕がいない間に誰かが僕の役を演じていたかのように…。

 「復帰しました」というと,アフマドは頷き,「行こう」と顎をしゃくった。
 アフマドと僕は,テントの集落を抜けて一面が砂漠の地にでた。そばに,小さな砂丘がある。初めてエジプトに来たとき,あの辺にいたのだろうと予想した。
 「よし,銃の練習の続きを始めるぞ。撃ってみろ,コージ」
僕は,渡された銃を構えてみた。マンドゥーハの持っていた自動小銃と同じだ。レバーをセミオートに合わせて引き金を引いた。
 パン
乾いた音を発した玉が,砂をはじく。
「一気にうまくなったな」
アフマド村長はそう言った。

  20

 「そろそろなんだ,コージ」
「何がですか?」
「明日,隣の集落は国軍に攻め込まれる。そう聞いた。この集落もそろそろ狙われる」
アフマドは一回,ため息を漏らした。
「エジプト国軍とこの集落じゃ,人数も武器も明らかに違う。攻め込まれたら,すぐに全滅するだろう」
 僕の方を向いて,彼は続けた。
「私達は二日後,カイロの駐屯地に奇襲をかける。不意を突いて攻め込むんだ。私たちが先陣を切れば,他の集落も私たちに乗ってくるだろう。他の集落を巻き込んで,同時に運動を起こすんだ。それしか国軍に勝つ方法は無い」

 太陽が,砂漠の中に吸い込まれていように沈んでいく。
「それが失敗したら,私たちは終わりだ」
アフマドは,ポツリと呟いた。
 「それが成功すればいいんですよね? じゃあ,二日後は暴れまくりましょうよ!」
「…そうだな」
アフマドは,遠い地平線を見ながら答えた。きっと,何十年もずっと砂漠で暮らしてきた彼にしか見えないものを,そこに見ているのだろう。
 「…帰るか」
しばらくして,アフマドが砂の上を歩き始めた。僕も立ち上がった。
 その時,近くにスフィンクスの存在が見えた。
「スフィンクスってこんなに近いの?」
アフマドが振り返った。
「ああ,いい形だよな,スフィンクスは」
 いや,そうじゃない。スフィンクスが近いということは,ここはカイロにも比較的近いのか? …明らかに,二つの夢が近づいている。僕は,頭痛がした。

  21

 頭痛の後に目を開けると,エジプト軍の駐屯地にいた。マンドゥーハ以外にも,エジプト国軍らしき人たちが集まっている。
「おい,コージ聴いてるか?」
「何ですか?」
「明日のオアシスへの攻め込みの計画だよ。もう一度言うぞ。おまえは俺の部隊の後に続け」
「攻め込むんですか?」
「だって,さっきおまえ自身が参加したいって言ってたじゃないか」
「・・・」
また,僕のいない間に勝手に進んでいるのだろう。僕は曖昧に頷いてみせた。
 「では,明日はこの配置で。各自で銃の手入れをしておくように」
マンドゥーハの言葉が終わると,迷彩服の数人は退散していった。
 「コージ,油断するなよ? 相手も武器の使い方くらいは知ってるからな」
僕は,笑顔で返した。

 次の日,日が暮れた頃にエジプト国軍は闘いに出た。カイロから十数キロ歩いて,ある集落へ着いた。時間帯が合っているのであれば,ここはライラたちのいる集落の隣の集落ということになるだろう。
 それは,本当にあっけなく終わった。
「村長は出てきなさい」
そう言うと,年配の男が「もう敵意はありません」と何度もつぶやきながら恐る恐る出てきた。
 砂漠緑化に,エジプト政府に反対がないことを確認すると,その村長を人質としてカイロに連れて行くらしい。
「そろそろ帰ろう」
マンドゥーハは言った。
 帰り道,僕は背後に気配を感じて振り向いた。すると,ある少年が僕から逃げるように駆けていくのが見えた。あれは誰だっただろう。見覚えがある。…そうだ!

 あれは,僕自身だ! あの走り方は,関戸広司だ! 多分,勝手にもう片方の僕の役を演じている…。

  22

 影だ。あれは僕の影だ。
 その時,また強いヘッドエイクが起きて,僕は家に戻った。
 「広司お兄ちゃん,やっと起きた」
妹がはしゃぎながら台所へ向かっていく。そうか,確か退院してすぐ頭痛がしたんだ。カシオの時計を見る。あれからまる一日くらい寝ていたのか。
 母さんが駆け寄ってきた。
「大きな病院に行くわよ」
「うん」
作品名:参時の冒険譚 作家名:kuma