【創作】汝は人狼なりや?【NL】
ディルは台所で豆のスープを作りながら、何故自分は、人の家で夕飯を作っているのだろうと考えた。
有り体に言えば、アスターに泣きつかれたからなのだが。
アスターは何かの準備とやらで、部屋に籠もっている。ローズに疑いの目が向けられている間は、本物も迂闊に行動しないだろうから、今のうちに誰が狼憑きなのか突き止めるのだという。
「余程の馬鹿でない限り、他に犯人がいることを証明したくないだろう」
そう言って笑うアスターにローズを任せて、自分は帰ろうとしたのだが、ローズが夕飯をどうこう言いながら台所に向かうのを見たアスターが、ディルにこのまま泊まり込みで食事の支度をして欲しいと懇願したのだ。
通いの家政婦はいるが、この状況では怖がって近づかないだろうし、疑いが晴れないうちは、そうそう村人を屋敷に通せない。幸い食料の蓄えはあるし、簡単なものでいいからと。
ディルは、ローズにだって缶詰を開けて皿に盛ることはできるよと宥めたが、「僕を見捨てないでくれ」と半泣きで言われては、断りきれない。
ローズが気を悪くしないかとびくびくしたが、意外にも歓迎されたので、ディルはそのまま屋敷に滞在することにした。
彼女は、アスターと二人っきりになりたかったのではないかな。
そんな場合ではないと分かってるのに、二人の関係が気になって仕方ない。
やはり振り切ってでも帰るべきだったと溜息をつきながら、スープに塩を振っていたら、
「お邪魔してもいいかしら?」
背後からの声に飛び上がった。
「うわ、あ、ローズさん」
「そんな他人行儀な呼び方しないで。貴方にお礼を言いにきたの」
「え? あ、いや、大したものは作れませんが」
ディルが慌てていたら、ローズは笑って、
「そうではなくて。私が狼憑きではないと、信じてくれたこと」
そう言うと、真っ直ぐにディルを見つめてくる。
「ありがとう、ディル。貴方がいてくれて、とても心強いわ」
「・・・・・・礼は、アスターに言ってください。彼が貴女の無実を証明してくれます」
「そうね。彼は専門家ですものね」
目を逸らしたディルの隣に、ローズがきた。
「貴方は?」
「え?」
「貴方は、何を根拠に、私を信じてくれたの? 私が、犯人ではないと」
「それは」
ディルが言葉に詰まっていると、ローズが重苦しく続ける。
「・・・・・・人殺しの娘は、人殺しかもしれなくてよ?」
「え!?」
ぎょっとしてローズを見るが、彼女は淡々と続けた。
「この村に、狼憑きが現れるのは二度目なの。一度目の人はすぐに処刑された・・・・・・領主であるお父様が、先頭に立って。十年前のことよ」
「十年前・・・・・・でも、貴女は」
「ええ、学校の寮にいたわ。だけど、夏休みや冬休みには戻ってきていたのよ。・・・・・・気づかなかったし、誰も教えてくれなかった。おかしいとも思わなかったの。お父様もお母様も、いつも通りだと。そんなはずないのに」
ローズの声が震えているのに気がついたが、どうしていいか分からず、ディルは押し黙る。
「村の人達は呪いだと。お父様が手を下したから、娘の私に呪いが降り懸かったのだと」
「・・・・・・味を、見てくれませんか?」
ディルの唐突な申し出に、ローズはきょとんとして顔を上げた。
「大したものじゃありませんが、食べないと体が持たないですよ。満月の日までに倒れてしまったら、元も子もないですから」
小皿に移してローズに差し出すと、相手はぎこちない笑顔で受け取る。
「そうね。ありがとう」
そろそろと口を付けて、「美味しい!」と声を上げた。
「驚いた! 貴方って、とても料理が上手なのね」
「いや、そんな。大げさですよ」
「いいえ、とっても美味しいわ。夕飯が待ちきれないくらい。貴方の奥様になる人は幸せね」
ローズの言葉に、ディルは、目の前の女性がそうであったらいいのにと思い、それは叶わぬ願いだと胸が痛む。
彼女は、アスターと結婚するのだろうか。
明るさを取り戻したローズが、スープのお代わりをしているのを、ディルはぼんやりと眺めた。
作品名:【創作】汝は人狼なりや?【NL】 作家名:シャオ