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【創作】汝は人狼なりや?【NL】

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アスターは屋敷の玄関を開けてディルを押し込むと、

「ローズ、君の味方が増えたよ! 僕の言った通りだろう?」

階段の上に現れたローズは、驚いたように目を見張り、それから天使のような笑顔を浮かべる。

「貴方なの、ディル。来てくれて嬉しいわ」
「当然だよ。彼は僕のハッタリに惑わされたりしない。悪いが、先に着替えさせてくれ。この格好じゃ窒息してしまう」

アスターが二階に駆け上がっていき、代わりに降りてきたローズが、ディルの腕に手を掛けた。

「ディル、来てくれてありがとう。本当のことを言うと、貴方にまで疑われているのではないかと、心配していたの」
「い、いえ、あの、俺は、そんな」

しどろもどろになるディルに、ローズは再び笑みを向ける。

「今度ばかりは、アスターの言うことを聞いた方が良さそうね。さあ、こちらへどうぞ。私にも、お茶を淹れるくらいのことは出来てよ」
「そ、そんな、貴女に、そんな真似は。あの、俺が、やります、から」

ディルがぎこちなく腕を外そうとした時、二階からアスターの声が響いてきた。

「すまないね! すぐ降りるから! 居間で楽にしてい・・・・・・・えいっ、ちくしょう!!」
「アスター、どうした!?」

ディルの呼びかけに、悲痛な叫び声が返ってくる。

「ディル、助けてくれ!! 忌々しい鎖が、僕の首を絞めてくるんだ!!」
「今行く! すみません、ローズさん」

ローズの手をそっと外して、ディルはあたふたと二階へ駆け上がった。


ディルが、アクセサリーと格闘していたアスターをどうにか救出し終えた時、ローズからお茶を淹れたと声が掛かる。
二人で居間に下り、ディルはアスターとローズに向かい合う形で椅子に腰掛けた。
アスターは、不吉なほど濃くてドロドロしているお茶を啜って渋い顔をした後、「さあ、作戦会議だ」と楽しそうに告げる。

「もちろん、君はローズが狼憑きだなんて、信じちゃいないだろう?」

アスターに問われ、ディルは急いで頷いた。

「だけど、僕が彼女の無実を証明できるかどうか不安だった。ああ、いいんだよ。君の厚い友情を疑っているんじゃない。僕が君の立場なら、一秒も無駄にせず駆けつけて、一発お見舞いした後こう言うさ。『アスター、この大馬鹿者め。お前は酷い間違いを犯しているぞ』ってね。だけど君は紳士だから、僕を痛めつけたりしないだろう?」

ディルとローズがくすくす笑い、アスターは調子に乗った様子で続ける。

「僕だって、彼女を一瞬でも疑ったりしてないさ。だけどね、ああでも言わなきゃ、村人達は暴動を起こしかねない。危険な事態を避ける為には仕方なかったんだ。時間もなかったし」
「ありがとう、アスター。おかげで助かったわ。お茶のお代わりは?」
「えっ? あ、いや、まだあるからいいよ。ありがとう。まず、ローズの身の安全を確保するのが先決だと判断して、一芝居打った訳さ。本当は、君に事情を説明しておきたかったけれど、なにせあの騒ぎだからね。それに、君なら分かってくれると信じていた」

アスターは、真っ直ぐにディルを見つめた。

「この村に、君がいてくれて良かった。君の存在に感謝するよ、ディル」
「いや、俺は、そんな」
「味方は多いに越したことはない。満月まで日がないからね」

その言葉にディルはハッとして、壁のカレンダーに目をやった。
満月まで、あと三日もない。

「満月の夜まで待てばいいのでしょう? 私は変身しないもの」

ローズが楽しげに言うが、アスターは真顔で、

「いや、狼憑きは、満月だろうと新月だろうと変身出来るよ。そのことを一番よく分かっているのは、本人だろうね」

ディルは飛び上がりそうになるのをかろうじて堪え、震える声で聞いた。

「本人・・・・・・というのは?」
「殺しの犯人。本物の狼憑きさ。ローズではない。僕や君でもない。村人の中に紛れ込み、息を殺して、成り行きを見守っているはずだ。まだ逃げていなければ、だけど」

心臓が早鐘のように打ち、ディルの背中を冷たい汗が流れる。落ち着け、落ち着けと、必死に言い聞かせた。
アスターは自分を疑っていない。今は、まだ。

「本物の『狼憑き』がいるということ? どうして分かるの?」
「僕が専門家だからだよ、ローズ。呪術に関する知識なら、大抵の者に負けないつもりだ。遺体につけられた傷、周囲の状況、不自然な魔力の流れ、間違いないよ」

アスターはカップを手に取り、口元へ持っていき、

「彼か彼女かは知らないが、間違いない。この村には、狼憑きがい・・・・・・げほぉ!!」

一気にお茶をあおって、盛大にむせた。

「うわっ!? アスター! 大丈夫か!?」
「大変! これで拭いて」

ディルは慌ててアスターの背中をさすり、ローズがハンカチを差し出す。

「いや・・・・・・ごほっ!・・・・・・すまなっ・・・・・・げほっごほっ!・・・・・・いや、あの、他意はなっげほげほっ! んだが、今度から、お茶は僕かディルが淹れることにしよう」
「えっ、あっ」
「そうね。そのほうが良さそうだわ」

ローズも真面目くさった顔で頷いた。