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【創作】汝は人狼なりや?【NL】

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ディルとローズが食堂に食器を並べていたら、玄関ホールからアスターの声が聞こえてくる。

「ただいまー」

ディルが顔を覗かせると、アスターが帽子を脱いでいるところだった。

「アスター? 出掛けてたとは知らなかった」
「ああ、領主様のところへ。警察に押し掛けられたら、たまったもんじゃないからね。こっちから出向いてやったのさ」
「警察!? 一体何で」
「何でって、殺人事件だからさ。死体が見つかったのだから、警察の出番だよ。それが彼らの仕事だからね」
「でも、警察は、魔道絡みの事件に介入しないのではなくて?」

ローズに聞かれて、アスターは肩を竦める。

「まだ、犯人が狼憑きだと決まった訳じゃない、らしい。狂人が狼憑きの振りをしているのかもしれないし、殺された奴に恨みを持った者の犯行かもしれないし、ローズを陥れようとする陰謀かもしれない。はっきりしたことが分からない以上、彼らも捜査するだろうさ」
「犯人は・・・・・・狼憑きではない、と? その可能性は」
「ないなあ」

一縷の望みを抱いたディルの言葉は、アスターにあっさり否定された。

「あれは狼憑きの仕業だよ。けれど、それを彼らに納得させるのは骨が折れる。だから、向こうは向こうで好きにやらせるさ。とりあえず、この村から町へ向かう街道は封鎖された。出入り禁止ではないが、警官にしつこくつきまとわれるだろうね。ま、入りたがる者はいないだろうけど。二度も狼憑きが現れた村になんてさ。全く、風評被害もいいところだ」

アスターはぶつぶつ言いながら、ネクタイを外す。

「・・・・・・掛けられた本人だけでなく、周囲にも被害をまき散らす。質の悪い呪いだ」

その言葉に、ディルはぎょっとして立ちすくんだ。
自分だけではない、家族までも巻き込んで・・・・・・

「いいから、早く着替えてきてくれない? お腹が空いて倒れそうなの」

ローズの明るい声に、アスターも我に返った様子で、

「ああ、そうだった。僕も空腹なのを思い出したよ。今日の夕飯はなんだい? ああ、いや、やっぱり聞かないでおこう。楽しみは後に取っておくほうがいい」

そう言って、階段を駈けあがっていく。

「すぐに降りていくから、僕の分も残して置いてくれよ!」

ローズがくすくす笑いながら食堂に戻ったので、ディルもそろそろと動き出した。

今は、余計なことを考えないようにしよう。



お世辞にも豪勢とは言えない夕飯だが、アスターは食べながらも大げさな身振りで感動を表現し、ディルにキスを投げてくる。いい加減居心地の悪くなったディルが、「黙って食わないと片づけるぞ」と睨みつけるまで、その賛辞は続いた。
食後のお茶もそこそこに、ディルは台所に引っ込んで食器を洗う。何かをしていないと落ち着かなかった。
アスターは事件を『狼憑き』の仕業だと断定していたが、確かにそうだろうか。彼にだって間違いはあるかもしれない。現に、警察は別の説をとって捜査に乗り出している。

誰かが、ローズに罪を着せようとしているのは確かだ。

彼女が誰かに恨まれるようなことをしたとは考えられないが、美貌と若さを妬んだ者の仕業かもしれない。それとも、領主への恨みを彼女で晴らそうとしたのか。

考えても、分かるものではないな。

自分は、ローズの無実を証明することだけを考えればいいのだと、思い直した。後のことは、アスターや警察に任せておけばいい。

「ディル」

声を掛けられ、振り向く。少し青ざめた顔をローズが、カップの乗ったお盆を手に、台所の入り口に立っていた。

「何か手伝えることはあって?」
「い、いえ、大丈夫ですから。すみません、持ってきて頂いて」
「ううん、いいの。アスターは準備があるとかで、部屋に行ってしまったし。一人でいると・・・・・・おかしくなりそうで」

言葉の出ないディルの横に立ち、ローズはカップを流しに置く。一緒に乗せられていた小瓶を手にすると、

「アスターが薬をくれたわ。よく眠れるようにと。夢も見ずに眠れるとか。でも、何だか、私だけ、そんなの」

震える手の中で、小瓶の錠剤がカラカラと音を立てた。
ディルは無言で瓶の蓋を開けると、一錠をローズの手に乗せ、もう一錠を自分の口に放り込んで飲み下す。
ローズに水の入ったコップを差しだし、「どうぞ」と言った。

「飲んだほうがいい。今は、余計なことを考えないで」

ディルに促され、ローズはぎこちなく微笑むと、錠剤と水を一気に飲み込む。

「ありがとう、ディル。私、貴方に頼ってばかりね」
「い、いえ。俺は、何も出来ませんから」
「そんなこと。私とアスターを、空腹から救ってくれたわ」

ローズの言葉に、ディルも笑顔を浮かべた。

「もうお休みください。今日は大変な一日でしたから」
「そうね・・・・・・そうするわ。ねえ、どうして、狼憑きは人を襲うのかしら」

ディルは、ぎょっとしてローズを見る。ローズは目を伏せて、

「ごめんなさい、馬鹿みたいなこと言って。きっと呪いのせいね。狼に変身して、理性がなくなって」
「そんなことはない!」

ムキになって声を上げた。ローズが驚いた顔を向けてくるが、ディルは気づかず続ける。

「見境なく襲ったりしない。周りが勝手に恐れて、殺そうとしてくるからだ。呪いのせいで、理性を失ったりなんか」
「ディル」

そっと腕に手を置かれ、ディルは我に返った。

「・・・・・・過去に、『狼憑き』と関わったことがあって?」
「あっ、い、いえ! あのっ、あ、アスターに、聞いたことが、あって。その、そういう偏見とか、迫害が、どうこうと。す、すみません、くだらない話に付き合わせてしまって」
「ううん、いいの。気にしないで」

それでも、ディルはローズから視線を逸らす。

「す、すみません、あの、く、薬の、せいか、眠気が。あ、片づけは、明日、します、から」
「そう・・・・・・そうね。私も、眠くなってきたわ」
「あのっ、ここは、大丈夫ですから。どうぞ寝室へ」
「ええ。お休みなさい、ディル」
「お、お休みなさい、ローズさん」

ローズが台所を出ていった後、ディルは床にヘたり込んだ。馬鹿なことを言ったと悔やんでも、後の祭りで。ローズが真に受けないことを祈るしかない。

うまく誤魔化せただろうか・・・・・・。