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【創作】汝は人狼なりや?【NL】

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ディルは、不安げな空気が漂う通りを、我が家へと向かう。

逃げなければ。
ローズは大丈夫。アスターなら、彼女の疑いを晴らしてくれる。彼に任せておけばいい。

だから、逃げなければ。

だが、その足取りは徐々に遅くなり、ついには立ち止まってしまった。

・・・・・・もし、彼女の疑いが晴れなかったら?

そんなことがあるはずない。彼女は『狼憑き』ではない。
アスターに任せておけばいい。アスターなら

『殺せ! 狼憑きを殺せ!!』

血走った目と、張り上げられた声。剥き出しの憎悪と殺意。
全部、押しつけて逃げるのか。

ディルは頭を振り上げて、陽光に目を細める。
青ざめた顔で、それでも背を伸ばしアスターの申し出を受け入れたローズの姿が、姉と重なった。

・・・・・・逃げなければ。

だが、ディルの足は、川沿いの小屋と異なるほうへ向かう。最初はのろのろと、徐々に早足になり、最後は駆け出していた。
アスターの屋敷へと。



門の前まで来て、ディルは足を止める。
村人達はいない。アスターとローズも。

・・・・・・何て言えばいいんだろう。

ローズは無実だ。彼女が『狼憑き』であるなど、絶対にない。
だが、それをどうやって説明したらいい?

・・・・・・アスターは、俺を捕まえるだろうか。

『呪いを掛けられた者は、気の毒ですが処刑せねばなりません。それが掟です』

先程の言葉が、脳裏をよぎった。
自分のことは話せない。それが魔道士の掟ならば、アスターは自分を捕まえて処刑するだろう。万が一、彼が見逃してくれたとしても・・・・・・

アスターにまで、迷惑は掛けられない。

ディルは、引き返そうかと背後を振り返る。
全て任せておけばいい。ローズは『狼憑き』ではないし、アスターはそのことを証明してくれる。
今すぐ逃げれば、村人達は自分のことなど思い出しもしないだろう。

そう、自分に出来ることなど、何一つない。何一つ。

だが、ディルは躊躇いがちに鉄柵に手を掛けた。ぐっと力を込めれば、軋みながら門が開く。僅かに開いた隙間から、門の中へと体を押し込んだ。


門から屋敷まで、下草に覆われた道をびくびくと通る。両脇に並んだ悪魔の像が今にも襲いかかってきそうで、ディルは苦手だった。
頭が三つある犬の像を通り過ぎようとした時、首がぐいっと伸びてディルへと牙を剥いた。

え!?

声を上げる間もなく、石像だったはずの犬に飛びかかられ、ディルは尻餅をつく。周囲の像もギシギシと不吉な音を立てながら、台座を離れて彼へと迫ってきた。

「ひっ・・・・・・! やめっ!」

滅茶苦茶に手を振り回し、足をばたつかせて逃げようとするが、取り囲まれて逃げ道を塞がれる。

「た、助け・・・・・・!」

追い詰められ、ディルは身を縮めて地面に倒れ伏した。
影が覆い被さり、恐怖に目を閉じたとき、

「ディル!!」

聞き覚えのある声がして、腕を引っ張られる。

「あ、アスター?」
「やあ、怖がらせて悪かった。君は来てくれると信じていたが、僕の予想より大分早かったんでね」

まだローブに身を包んだアスターが、申し訳なさそうにディルの顔をのぞき込んだ。

「手酷くやられたかい? すまない、無謀な村人の突撃から、ローズを守る必要があってね」
「ああ、だ、大丈夫だ。まだ何もされてない」

アスターの手を借りて、ディルは何とか立ち上がる。恐々周囲を見回せば、石像達は元の位置に鎮座していた。

「さあ、入ってくれ。姿を見られたらまずい。君まで疑いを掛けられる羽目になってしまう」
「あ、ああ。あの」
「話は中でゆっくり聞くよ。さあ、急いで」