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【創作】汝は人狼なりや?【NL】

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翌日、いつものように市場へやってきたディルは、いつもと違うざわめきように戸惑い、立ち尽くした。
商人達の輪から、恰幅のいい男がやってきて、ディルに声を掛ける。

「あんた、聞いたかい? 村外れで死体が見つかったとか」
「え?」
「それも、相当酷い有様らしいぜ。今、町から警察の応援が向かってるらしい」
「そうか。物騒だな」

当たり障りのない言葉を返すディルに、相手は声を潜めて、

「それがよう、どうやら狼憑きの仕業らしいぜ」
「・・・・・・え?」

一瞬にして、全身から血の気が引いた。
違う、自分ではない。しかし。
目の前の男は、気づかない様子で続ける。

「聞いた話じゃ、この村は昔、狼憑きを処刑してるらしい。きっと、仲間が仕返しにきやがったんだ。それを知ってたら、こんな村で商売しなかったんだけどな。全く、ついてねえ」

ディルが言葉を失っていると、別の男もやってきて、

「このまま村に留まったら、次の犠牲者はあんたかもしれないぞ。俺はもう店仕舞いした。あんたも急ぎな」
「おう、そうだな。こんな不吉な村、一秒でもいられねえ」

それをきっかけに、ばたばたと商人達は店を片づけ始めた。
ディルは周囲の喧噪をぼんやりと眺めながら、

・・・・・・逃げなければ。

自分以外の狼憑きが現れたのか、確かなことは分からないが、このままでは自分の正体も知られてしまうかもしれない。巻き添えになるのはごめんだ。
ディルはふらつく足取りで、そっと場を離れる。
とにかく、逃げなければ。



通りのあちこちで、人々が固まって不安げに囁きあっていた。ディルは身を縮め、目立たぬよう端を歩く。

・・・・・・アスターやローズに、さよならも言えないのか。

そんな場合ではないのに、言いようのないやり切れなさを感じた。自分は、孤独に生きると誓ったはずなのに。

やはり、長居しすぎたんだ。もっと早く、この村を出るべきだった。

人々の囁きや不安げな視線が、いつ自分へ牙を剥くとも限らない。目立たぬよう、見つからぬよう、そろそろと通りを歩いていたら、

「あたし見たんだから! ローズ様が狼憑きなのよ!」

突然響いた金切り声に、ぎょっとして立ちすくんだ。
若い女が、中年の男と口論になっている。

「おい! 滅多なこと口にするんじゃねえ!!」
「本当だもん! クローゼットにあったドレス、真っ赤に染まってたの! あれ、絶対返り血よ! 昨日までは何ともなかったもの!!」

往来で言い争う二人が、領主の館で奉公しているメイドと庭師だと、誰かが誰かに囁くのが聞こえた。

「お前、領主様の恩を忘れたか!?」
「本当のことを言って何が悪いの!? 狼憑きなら処刑しなきゃ! あたしは死にたくない!!」

きゃんきゃん叫ぶメイドの言葉に、人々のざわめきがいっそう大きくなる。

『そうだ、狼憑きなら、今すぐ処刑しなくては』

その言葉に、ディルは抱えていた籠を放り投げ、全力で走り出した。領主の館へと。